万葉集 (Manyoshu) | ||
夏雜歌
1465
[題詞]藤原夫人歌<一首> [明日香清御原<宮>御宇天皇之夫人也 字曰大原大刀 自 即新田部皇子之母也]
[原文]霍公鳥 痛莫鳴 汝音乎 五月玉尓 相貫左右二
[訓読]霍公鳥いたくな鳴きそ汝が声を五月の玉にあへ貫くまでに
[仮名],ほととぎす,いたくななきそ,ながこゑを,さつきのたまに,あへぬくまでに
1466
[題詞]志貴皇子御歌一首
[原文]神名火乃 磐瀬之<社>之 霍公鳥 毛無乃岳尓 何時来将鳴
[訓読]神奈備の石瀬の社の霍公鳥毛無の岡にいつか来鳴かむ
[仮名],かむなびの,いはせのもりの,ほととぎす,けなしのをかに,いつかきなかむ
1467
[題詞]弓削皇子御歌一首
[原文]霍公鳥 無流國尓毛 去而師香 其鳴音手 間者辛苦母
[訓読]霍公鳥なかる国にも行きてしかその鳴く声を聞けば苦しも
[仮名],ほととぎす,なかるくににも,ゆきてしか,そのなくこゑを,きけばくるしも
1468
[題詞]小治田廣瀬王霍公鳥歌一首
[原文]霍公鳥 音聞小野乃 秋風<尓> 芽開礼也 聲之乏寸
[訓読]霍公鳥声聞く小野の秋風に萩咲きぬれや声の乏しき
[仮名],ほととぎす,こゑきくをのの,あきかぜに,はぎさきぬれや,こゑのともしき
1469
[題詞]沙弥霍公鳥歌一首
[原文]足引之 山霍公鳥 汝鳴者 家有妹 常所思
[訓読]あしひきの山霍公鳥汝が鳴けば家なる妹し常に偲はゆ
[仮名],あしひきの,やまほととぎす,ながなけば,いへなるいもし,つねにしのはゆ
1470
[題詞]刀理宣令歌一首
[原文]物部乃 石瀬之<社>乃 霍公鳥 今毛鳴奴<香> 山之常影尓
[訓読]もののふの石瀬の社の霍公鳥今も鳴かぬか山の常蔭に
[仮名],もののふの,いはせのもりの,ほととぎす,いまもなかぬか,やまのとかげに
1471
[題詞]山部宿祢赤人歌一首
[原文]戀之家婆 形見尓将為跡 吾屋戸尓 殖之藤浪 今開尓家里
[訓読]恋しけば形見にせむと我がやどに植ゑし藤波今咲きにけり
[仮名],こひしけば,かたみにせむと,わがやどに,うゑしふぢなみ,いまさきにけり
1472
[題詞]式部大輔石上堅魚朝臣歌一首
[原文]霍公鳥 来鳴令響 宇乃花能 共也来之登 問麻思物乎
[訓読]霍公鳥来鳴き響もす卯の花の伴にや来しと問はましものを
[仮名],ほととぎす,きなきとよもす,うのはなの,ともにやこしと,とはましものを
1473
[題詞]<大>宰帥大伴卿和歌一首
[原文]橘之 花散里乃 霍公鳥 片戀為乍 鳴日四曽多寸
[訓読]橘の花散る里の霍公鳥片恋しつつ鳴く日しぞ多き
[仮名],たちばなの,はなちるさとの,ほととぎす,かたこひしつつ,なくひしぞおほき
1474
[題詞]大伴坂上郎女思筑紫大城山歌一首
[原文]今毛可聞 大城乃山尓 霍公鳥 鳴令響良武 吾無礼杼毛
[訓読]今もかも大城の山に霍公鳥鳴き響むらむ我れなけれども
[仮名],いまもかも,おほきのやまに,ほととぎす,なきとよむらむ,われなけれども
1475
[題詞]大伴坂上郎女霍公鳥歌一首
[原文]何奇毛 幾許戀流 霍公鳥 鳴音聞者 戀許曽益礼
[訓読]何しかもここだく恋ふる霍公鳥鳴く声聞けば恋こそまされ
[仮名],なにしかも,ここだくこふる,ほととぎす,なくこゑきけば,こひこそまされ
1476
[題詞]小治田朝臣廣耳歌一首
[原文]獨居而 物念夕尓 霍公鳥 従此間鳴渡 心四有良思
[訓読]ひとり居て物思ふ宵に霍公鳥こゆ鳴き渡る心しあるらし
[仮名],ひとりゐて,ものもふよひに,ほととぎす,こゆなきわたる,こころしあるらし
1477
[題詞]大伴家持霍公鳥歌一首
[原文]宇能花毛 未開者 霍公鳥 佐保乃山邊 来鳴令響
[訓読]卯の花もいまだ咲かねば霍公鳥佐保の山辺に来鳴き響もす
[仮名],うのはなも,いまださかねば,ほととぎす,さほのやまへに,きなきとよもす
1478
[題詞]大伴家持橘歌一首
[原文]吾屋前之 花橘乃 何時毛 珠貫倍久 其實成奈武
[訓読]我が宿の花橘のいつしかも玉に貫くべくその実なりなむ
[仮名],わがやどの,はなたちばなの,いつしかも,たまにぬくべく,そのみなりなむ
1479
[題詞]大伴家持晩蝉歌一首
[原文]隠耳 居者欝悒 奈具左武登 出立聞者 来鳴日晩
[訓読]隠りのみ居ればいぶせみ慰むと出で立ち聞けば来鳴くひぐらし
[仮名],こもりのみ,をればいぶせみ,なぐさむと,いでたちきけば,きなくひぐらし
1480
[題詞]大伴書持歌二首
[原文]我屋戸尓 月押照有 霍公鳥 心有今夜 来鳴令響
[訓読]我が宿に月おし照れり霍公鳥心あれ今夜来鳴き響もせ
[仮名],わがやどに,つきおしてれり,ほととぎす,こころあれこよひ,きなきとよもせ
1481
[題詞](大伴書持歌二首)
[原文]我屋<戸>前乃 花橘尓 霍公鳥 今社鳴米 友尓相流時
[訓読]我が宿の花橘に霍公鳥今こそ鳴かめ友に逢へる時
[仮名],わがやどの,はなたちばなに,ほととぎす,いまこそなかめ,ともにあへるとき
1482
[題詞]大伴清縄歌一首
[原文]皆人之 待師宇能花 雖落 奈久霍公鳥 吾将忘哉
[訓読]皆人の待ちし卯の花散りぬとも鳴く霍公鳥我れ忘れめや
[仮名],みなひとの,まちしうのはな,ちりぬとも,なくほととぎす,われわすれめや
1483
[題詞]奄君諸立歌一首
[原文]吾背子之 屋戸乃橘 花乎吉美 鳴霍公鳥 見曽吾来之
[訓読]我が背子が宿の橘花をよみ鳴く霍公鳥見にぞ我が来し
[仮名],わがせこが,やどのたちばな,はなをよみ,なくほととぎす,みにぞわがこし
1484
[題詞]大伴坂上郎女歌一首
[原文]霍公鳥 痛莫鳴 獨居而 寐乃不所宿 聞者苦毛
[訓読]霍公鳥いたくな鳴きそひとり居て寐の寝らえぬに聞けば苦しも
[仮名],ほととぎす,いたくななきそ,ひとりゐて,いのねらえぬに,きけばくるしも
1485
[題詞]大伴家持唐棣花歌一首
[原文],夏儲而 開有波祢受 久方乃 雨打零者 将移香
[訓読]夏まけて咲きたるはねずひさかたの雨うち降らば移ろひなむか
[仮名],なつまけて,さきたるはねず,ひさかたの,あめうちふらば,うつろひなむか
1486
[題詞]大伴家持恨霍公鳥晩喧歌二首
[原文]吾屋前之 花橘乎 霍公鳥 来不喧地尓 令落常香
[訓読]我が宿の花橘を霍公鳥来鳴かず地に散らしてむとか
[仮名],わがやどの,はなたちばなを,ほととぎす,きなかずつちに,ちらしてむとか
1487
[題詞](大伴家持恨霍公鳥晩喧歌二首)
[原文]霍公鳥 不念有寸 木晩乃 如此成左右尓 奈何不来喧
[訓読]霍公鳥思はずありき木の暗のかくなるまでに何か来鳴かぬ
[仮名],ほととぎす,おもはずありき,このくれの,かくなるまでに,なにかきなかぬ
1488
[題詞]大伴家持懽霍公鳥歌一首
[原文]何處者 鳴毛思仁家武 霍公鳥 吾家乃里尓 <今>日耳曽鳴
[訓読]いづくには鳴きもしにけむ霍公鳥我家の里に今日のみぞ鳴く
[仮名],いづくには,なきもしにけむ,ほととぎす,わぎへのさとに,けふのみぞなく
1489
[題詞]大伴家持惜橘花歌一首
[原文]吾屋前之 花橘者 落過而 珠尓可貫 實尓成二家利
[訓読]我が宿の花橘は散り過ぎて玉に貫くべく実になりにけり
[仮名],わがやどの,はなたちばなは,ちりすぎて,たまにぬくべく,みになりにけり
1490
[題詞]大伴家持霍公鳥歌一首
[原文]霍公鳥 雖待不来喧 <菖>蒲草 玉尓貫日乎 未遠美香
[訓読]霍公鳥待てど来鳴かず菖蒲草玉に貫く日をいまだ遠みか
[仮名],ほととぎす,まてどきなかず,あやめぐさ,たまにぬくひを,いまだとほみか
1491
[題詞]大伴家持雨日聞霍公鳥喧歌一首
[原文]宇乃花能 過者惜香 霍公鳥 雨間毛不置 従此間喧渡
[訓読]卯の花の過ぎば惜しみか霍公鳥雨間も置かずこゆ鳴き渡る
[仮名],うのはなの,すぎばをしみか,ほととぎす,あままもおかず,こゆなきわたる
1492
[題詞]橘歌一首 [遊行女婦]
[原文]君家乃 花橘者 成尓家利 花乃有時尓 相益物乎
[訓読]君が家の花橘はなりにけり花のある時に逢はましものを
[仮名],きみがいへの,はなたちばなは,なりにけり,はななるときに,あはましものを
1493
[題詞]大伴村上橘歌一首
[原文]吾屋前乃 花橘乎 霍公鳥 来鳴令動而 本尓令散都
[訓読]我が宿の花橘を霍公鳥来鳴き響めて本に散らしつ
[仮名],わがやどの,はなたちばなを,ほととぎす,きなきとよめて,もとにちらしつ
1494
[題詞]大伴家持霍公鳥歌二首
[原文]夏山之 木末乃繁尓 霍公鳥 鳴響奈流 聲之遥佐
[訓読]夏山の木末の茂に霍公鳥鳴き響むなる声の遥けさ
[仮名],なつやまの,こぬれのしげに,ほととぎす,なきとよむなる,こゑのはるけさ
1495
[題詞](大伴家持霍公鳥歌二首)
[原文]足引乃 許乃間立八十一 霍公鳥 如此聞始而 後将戀可聞
[訓読]あしひきの木の間立ち潜く霍公鳥かく聞きそめて後恋ひむかも
[仮名],あしひきの,このまたちくく,ほととぎす,かくききそめて,のちこひむかも
1496
[題詞]大伴家持石竹花歌一首
[原文]吾屋前之 瞿麥乃花 盛有 手折而一目 令見兒毛我母
[訓読]我が宿のなでしこの花盛りなり手折りて一目見せむ子もがも
[仮名],わがやどの,なでしこのはな,さかりなり,たをりてひとめ,みせむこもがも
1497
[題詞]惜不登筑波山歌一首
[原文]筑波根尓 吾行利世波 霍公鳥 山妣兒令響 鳴麻志也其
[訓読]筑波嶺に我が行けりせば霍公鳥山彦響め鳴かましやそれ
[仮名],つくはねに,わがゆけりせば,ほととぎす,やまびことよめ,なかましやそれ
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