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[題詞]好去好来歌一首[反歌二首]
[原文]神代欲理 云傳久良久 虚見通 倭國者 皇神能 伊都久志吉國 言霊能 佐吉播布
國等 加多利継 伊比都賀比計理 今世能 人母許等期等 目前尓 見在知在 人佐播尓 満
弖播阿礼等母 高光 日御朝庭 神奈我良 愛能盛尓 天下 奏多麻比志 家子等 撰多麻比
天 勅旨 [反云 大命]<戴>持弖 唐能 遠境尓 都加播佐礼 麻加利伊麻勢 宇奈原能 邊尓
母奥尓母 神豆麻利 宇志播吉伊麻須 諸能 大御神等 船舳尓 [反云 布奈能閇尓] 道引
麻<遠志> 天地能 大御神等 倭 大國霊 久堅能 阿麻能見虚喩 阿麻賀氣利 見渡多麻比
事畢 還日者 又更 大御神等 船舳尓 御手<打>掛弖 墨縄遠 播倍多留期等久 阿<遅
>可遠志 智可能岫欲利 大伴 御津濱備尓 多太泊尓 美船播将泊 都々美無久 佐伎久伊
麻志弖 速歸坐勢
[訓読]神代より 言ひ伝て来らく そらみつ 大和の国は 皇神の 厳しき国 言霊の 幸
はふ国と 語り継ぎ 言ひ継がひけり 今の世の 人もことごと 目の前に 見たり知りた
り 人さはに 満ちてはあれども 高照らす 日の朝廷 神ながら 愛での盛りに 天の下
奏したまひし 家の子と 選ひたまひて 大御言 [反云 大みこと] 戴き持ちて もろこし
の 遠き境に 遣はされ 罷りいませ 海原の 辺にも沖にも 神づまり 領きいます もろ
もろの 大御神たち 船舳に [反云 ふなのへに] 導きまをし 天地の 大御神たち 大和
の 大国御魂 ひさかたの 天のみ空ゆ 天翔り 見わたしたまひ 事終り 帰らむ日には
またさらに 大御神たち 船舳に 御手うち掛けて 墨縄を 延へたるごとく あぢかをし
値嘉の崎より 大伴の 御津の浜びに 直泊てに 御船は泊てむ 障みなく 幸くいまし
て 早帰りませ
[仮名],かむよより,いひつてくらく,そらみつ,やまとのくには,すめかみの,いつくしき
くに,ことだまの,さきはふくにと,かたりつぎ,いひつがひけり,いまのよの,ひともこと
ごと,めのまへに,みたりしりたり,ひとさはに,みちてはあれども,たかてらす,ひのみか
ど,かむながら,めでのさかりに,あめのした,まをしたまひし,いへのこと,えらひたまひ
て,おほみこと,[おほみこと],いただきもちて,からくにの,とほきさかひに,つかはされ
,まかりいませ,うなはらの,へにもおきにも,かむづまり,うしはきいます,もろもろの,お
ほみかみたち,ふなのへに,[ふなのへに],みちびきまをし,あめつちの,おほみかみたち,や
まとの,おほくにみたま,ひさかたの,あまのみそらゆ,あまがけり,みわたしたまひ,こと
をはり,かへらむひには,またさらに,おほみかみたち,ふなのへに,みてうちかけて,すみ
なはを,はへたるごとく,あぢかをし,ちかのさきより,おほともの,みつのはまびに,ただ
はてに,みふねははてむ,つつみなく,さきくいまして,はやかへりませ
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[左注](天平五年三月一日良宅對面獻三日 山上憶良謹上 大唐大使卿記室)
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[校異]歌 [西] 謌 / 反歌 [西] 反謌 [西(訂正)] 反歌 / 載 → 戴 [代匠記精撰本] / 志遠
→ 遠志 [細] / 行 → 打 [西(訂正)][紀][細] / 遠 [紀] 袁 / 庭 → 遅 [紀][細] / 太 [紀]
大
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[KW],作者:山上憶良,多治比広成,遣唐使,餞別,羈旅,天平5年3月1日,年紀