University of Virginia Library

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[題詞]七年乙亥大伴坂上郎女悲嘆尼理願死去作歌一首[并短歌]

[原文]栲角乃 新羅國従 人事乎 吉跡所聞而 問放流 親族兄弟 無國尓 渡来座而 大皇 之 敷座國尓 内日指 京思美弥尓 里家者 左波尓雖在 何方尓 念鷄目鴨 都礼毛奈吉 佐保乃山邊<尓> 哭兒成 慕来座而 布細乃 宅乎毛造 荒玉乃 年緒長久 住乍 座之物乎 生者 死云事尓 不免 物尓之有者 憑有之 人乃盡 草<枕> 客有間尓 佐保河乎 朝河渡 春日野乎 背向尓見乍 足氷木乃 山邊乎指而 晩闇跡 隠益去礼 将言為便 将為須敝不 知尓 徘徊 直獨而 白細之 衣袖不干 嘆乍 吾泣涙 有間山 雲居軽引 雨尓零寸八
[訓読]栲づのの 新羅の国ゆ 人言を よしと聞かして 問ひ放くる 親族兄弟 なき国に 渡り来まして 大君の 敷きます国に うち日さす 都しみみに 里家は さはにあれど も いかさまに 思ひけめかも つれもなき 佐保の山辺に 泣く子なす 慕ひ来まして 敷栲の 家をも作り あらたまの 年の緒長く 住まひつつ いまししものを 生ける者 死ぬといふことに 免れぬ ものにしあれば 頼めりし 人のことごと 草枕 旅なる間に 佐保川を 朝川渡り 春日野を そがひに見つつ あしひきの 山辺をさして 夕闇と 隠 りましぬれ 言はむすべ 為むすべ知らに たもとほり ただひとりして 白栲の 衣袖干 さず 嘆きつつ 我が泣く涙 有間山 雲居たなびき 雨に降りきや
[仮名],たくづのの,しらきのくにゆ,ひとごとを,よしときかして,とひさくる,うがらは らから,なきくにに,わたりきまして,おほきみの,しきますくにに,うちひさす,みやこし みみに,さといへは,さはにあれども,いかさまに,おもひけめかも,つれもなき,さほのや まへに,なくこなす,したひきまして,しきたへの,いへをもつくり,あらたまの,としのを ながく,すまひつつ,いまししものを,いけるもの,しぬといふことに,まぬかれぬ,ものに しあれば,たのめりし,ひとのことごと,くさまくら,たびなるほとに,さほがはを,あさか はわたり,かすがのを,そがひにみつつ,あしひきの,やまへをさして,ゆふやみと,かくり ましぬれ,いはむすべ,せむすべしらに,たもとほり,ただひとりして,しろたへの,ころも でほさず,なげきつつ,わがなくなみた,ありまやま,くもゐたなびき,あめにふりきや
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[左注](右新羅國尼名曰理願也 遠感王徳歸化聖朝 於時寄住大納言大将軍大伴卿家 既逕數紀焉 惟以天平七年乙亥忽沈運病既<趣>泉界 於是大家石川命婦 依餌藥事 徃有 間温泉而不會此喪 但郎女獨留葬送屍柩既訖 仍作此歌贈入温泉)
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[校異]歌 [西] 謌 別筆 歌 / <> → 尓 [西(右書)][類][紀] / <> → 枕 [西(右書)][類][紀]
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[KW],挽歌,作者:坂上郎女,理願,地名,奈良,枕詞,天平7年,年紀