万葉集 (Manyoshu) | ||
譬喩歌
390
[題詞]紀皇女御歌一首
[原文]軽池之 b廻徃轉留 鴨尚尓 玉藻乃於丹 獨宿名久二
[訓読]軽の池の浦廻行き廻る鴨すらに玉藻の上にひとり寝なくに
[仮名],かるのいけの,うらみゆきみる,かもすらに,たまものうへに,ひとりねなくに
391
[題詞]造筑紫觀世音寺別當沙弥満誓歌一首
[原文]鳥総立 足柄山尓 船木伐 樹尓伐歸都 安多良船材乎
[訓読]鳥総立て足柄山に船木伐り木に伐り行きつあたら船木を
[仮名],とぶさたて,あしがらやまに,ふなぎきり,きにきりゆきつ,あたらふなぎを
392
[題詞]<大>宰大監大伴宿祢百代梅歌一首
[原文]烏珠之 其夜乃梅乎 手忘而 不折来家里 思之物乎
[訓読]ぬばたまのその夜の梅をた忘れて折らず来にけり思ひしものを
[仮名],ぬばたまの,そのよのうめを,たわすれて,をらずきにけり,おもひしものを
393
[題詞]満誓沙弥月歌一首
[原文]不所見十方 孰不戀有米 山之末尓 射狭夜歴月乎 外見而思香
[訓読]見えずとも誰れ恋ひざらめ山の端にいさよふ月を外に見てしか
[仮名],みえずとも,たれこひざらめ,やまのはに,いさよふつきを,よそにみてしか
394
[題詞]<余>明軍歌一首
[原文]印結而 我定義之 住吉乃 濱乃小松者 後毛吾松
[訓読]標結ひて我が定めてし住吉の浜の小松は後も我が松
[仮名],しめゆひて,わがさだめてし,すみのえの,はまのこまつは,のちもわがまつ
395
[題詞]笠女郎贈大伴宿祢家持歌三首
[原文]<託>馬野尓 生流紫 衣染 未服而 色尓出来
[訓読]託馬野に生ふる紫草衣に染めいまだ着ずして色に出でにけり
[仮名],たくまのに,おふるむらさき,きぬにしめ,いまだきずして,いろにいでにけり
396
[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌三首)
[原文]陸奥之 真野乃草原 雖遠 面影為而 所見云物乎
[訓読]陸奥の真野の草原遠けども面影にして見ゆといふものを
[仮名],みちのくの,まののかやはら,とほけども,おもかげにして,みゆといふものを
397
[題詞](笠女郎贈大伴宿祢家持歌三首)
[原文]奥山之 磐本菅乎 根深目手 結之情 忘不得裳
[訓読]奥山の岩本菅を根深めて結びし心忘れかねつも
[仮名],おくやまの,いはもとすげを,ねふかめて,むすびしこころ,わすれかねつも
398
[題詞]藤原朝臣八束梅歌二首 [八束後名真楯 房前第<三>子]
[原文]妹家尓 開有梅之 何時毛々々々 将成時尓 事者将定
[訓読]妹が家に咲きたる梅のいつもいつもなりなむ時に事は定めむ
[仮名],いもがいへに,さきたるうめの,いつもいつも,なりなむときに,ことはさだめむ
399
[題詞](藤原朝臣八束梅歌二首 [八束後名真楯 房前第<三>子])
[原文]妹家尓 開有花之 梅花 實之成名者 左右将為
[訓読]妹が家に咲きたる花の梅の花実にしなりなばかもかくもせむ
[仮名],いもがいへに,さきたるはなの,うめのはな,みにしなりなば,かもかくもせむ
400
[題詞]大伴宿祢駿河麻呂梅歌一首
[原文]梅花 開而落去登 人者雖云 吾標結之 枝将有八方
[訓読]梅の花咲きて散りぬと人は言へど我が標結ひし枝にあらめやも
[仮名],うめのはな,さきてちりぬと,ひとはいへど,わがしめゆひし,えだにあらめやも
401
[題詞]大伴坂上郎女宴親族之日吟歌一首
[原文]山守之 有家留不知尓 其山尓 標結立而 結之辱為都
[訓読]山守のありける知らにその山に標結ひ立てて結ひの恥しつ
[仮名],やまもりの,ありけるしらに,そのやまに,しめゆひたてて,ゆひのはぢしつ
402
[題詞](大伴坂上郎女宴親族之日吟歌一首)大伴宿祢駿河麻呂即和歌一首
[原文]山主者 盖雖有 吾妹子之 将結標乎 人将解八方
[訓読]山守はけだしありとも我妹子が結ひけむ標を人解かめやも
[仮名],やまもりは,けだしありとも,わぎもこが,ゆひけむしめを,ひととかめやも
403
[題詞]大伴宿祢家持贈同坂上家之大嬢歌一首
[原文]朝尓食尓 欲見 其玉乎 如何為鴨 従手不離有牟
[訓読]朝に日に見まく欲りするその玉をいかにせばかも手ゆ離れずあらむ
[仮名],あさにけに,みまくほりする,そのたまを,いかにせばかも,てゆかれずあらむ
404
[題詞]娘子報佐伯宿祢赤麻呂贈歌一首
[原文]千磐破 神之社四 無有世伐 春日之野邊 粟種益乎
[訓読]ちはやぶる神の社しなかりせば春日の野辺に粟蒔かましを
[仮名],ちはやぶる,かみのやしろし,なかりせば,かすがののへに,あはまかましを
405
[題詞]佐伯宿祢赤麻呂更贈歌一首
[原文]春日野尓 粟種有世伐 待鹿尓 継而行益乎 社師<怨>焉
[訓読]春日野に粟蒔けりせば鹿待ちに継ぎて行かましを社し恨めし
[仮名],かすがのに,あはまけりせば,ししまちに,つぎてゆかましを,やしろしうらめし
406
[題詞]娘子復報歌一首
[原文]吾祭 神者不有 大夫尓 認有神曽 好應祀
[訓読]我が祭る神にはあらず大夫に憑きたる神ぞよく祭るべし
[仮名],わがまつる,かみにはあらず,ますらをに,つきたるかみぞ,よくまつるべし
407
[題詞]大伴宿祢駿河麻呂娉同坂上家之二嬢歌一首
[原文]春霞 春日里之 殖子水葱 苗有跡云師 柄者指尓家牟
[訓読]春霞春日の里の植ゑ子水葱苗なりと言ひし枝はさしにけむ
[仮名],はるかすみ,かすがのさとの,うゑこなぎ,なへなりといひし,えはさしにけむ
408
[題詞]大伴宿祢家持贈同坂上家之大嬢歌一首
[原文]石竹之 其花尓毛我 朝旦 手取持而 不戀日将無
[訓読]なでしこがその花にもが朝な朝な手に取り持ちて恋ひぬ日なけむ
[仮名],なでしこが,そのはなにもが,あさなさな,てにとりもちて,こひぬひなけむ
409
[題詞]大伴宿祢駿河麻呂歌一首
[原文]一日尓波 千重浪敷尓 雖念 奈何其玉之 手二巻<難>寸
[訓読]一日には千重波しきに思へどもなぞその玉の手に巻きかたき
[仮名],ひとひには,ちへなみしきに,おもへども,なぞそのたまの,てにまきかたき
410
[題詞]大伴坂上郎女橘歌一首
[原文]橘乎 屋前尓殖生 立而居而 後雖悔 驗将有八方
[訓読]橘を宿に植ゑ生ほし立ちて居て後に悔ゆとも験あらめやも
[仮名],たちばなを,やどにうゑおほし,たちてゐて,のちにくゆとも,しるしあらめやも
411
[題詞](大伴坂上郎女橘歌一首)和歌一首
[原文]吾妹兒之 屋前之橘 甚近 殖而師故二 不成者不止
[訓読]我妹子がやどの橘いと近く植ゑてし故にならずはやまじ
[仮名],わぎもこが,やどのたちばな,いとちかく,うゑてしゆゑに,ならずはやまじ
412
[題詞]市原王歌一首
[原文]伊奈太吉尓 伎須賣流玉者 無二 此方彼方毛 君之随意
[訓読]いなだきにきすめる玉は二つなしかにもかくにも君がまにまに
[仮名],いなだきに,きすめるたまは,ふたつなし,かにもかくにも,きみがまにまに
413
[題詞]大網公人主宴吟歌一首
[原文]須麻乃海人之 塩焼衣乃 藤服 間遠之有者 未著穢
[訓読]須磨の海女の塩焼き衣の藤衣間遠にしあればいまだ着なれず
[仮名],すまのあまの,しほやききぬの,ふぢころも,まどほにしあれば,いまだきなれず
414
[題詞]大伴宿祢家持歌一首
[原文]足日木能 石根許其思美 菅根乎 引者難三等 標耳曽結焉
[訓読]あしひきの岩根こごしみ菅の根を引かばかたみと標のみぞ結ふ
[仮名],あしひきの,いはねこごしみ,すがのねを,ひかばかたみと,しめのみぞゆふ
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