University of Virginia Library

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[題詞]挽歌一首[并短歌]

[原文]天地之 初時従 宇都曽美能 八十伴男者 大王尓 麻都呂布物跡 定有 官尓之在 者 天皇之 命恐 夷放 國乎治等 足日木 山河阻 風雲尓 言者雖通 正不遇 日之累者 思 戀 氣衝居尓 玉桙之 道来人之 傳言尓 吾尓語良久 波之伎餘之 君者比来 宇良佐備弖 嘆息伊麻須 世間之 Q家口都良家苦 開花毛 時尓宇都呂布 宇都勢美毛 <无>常阿里家 利 足千根之 御母之命 何如可毛 時之波将有乎 真鏡 見礼杼母不飽 珠緒之 惜盛尓 立 霧之 失去如久 置露之 消去之如 玉藻成 靡許伊臥 逝水之 留不得常 枉言哉 人之云都 流 逆言乎 人之告都流 梓<弓> <弦>爪夜音之 遠音尓毛 聞者悲弥 庭多豆水 流涕 留可 祢都母
[訓読]天地の 初めの時ゆ うつそみの 八十伴の男は 大君に まつろふものと 定まれ る 官にしあれば 大君の 命畏み 鄙離る 国を治むと あしひきの 山川へだて 風雲に 言は通へど 直に逢はず 日の重なれば 思ひ恋ひ 息づき居るに 玉桙の 道来る人の 伝て言に 我れに語らく はしきよし 君はこのころ うらさびて 嘆かひいます 世間の 憂けく辛けく 咲く花も 時にうつろふ うつせみも 常なくありけり たらちねの 母の 命 何しかも 時しはあらむを まそ鏡 見れども飽かず 玉の緒の 惜しき盛りに 立つ 霧の 失せぬるごとく 置く露の 消ぬるがごとく 玉藻なす 靡き臥い伏し 行く水の 留 めかねつと たはことか 人の言ひつる およづれか 人の告げつる 梓弓 爪引く夜音の 遠音にも 聞けば悲しみ にはたづみ 流るる涙 留めかねつも
[仮名],あめつちの,はじめのときゆ,うつそみの,やそとものをは,おほきみに,まつろふ ものと,さだまれる,つかさにしあれば,おほきみの,みことかしこみ,ひなざかる,くにを をさむと,あしひきの,やまかはへだて,かぜくもに,ことはかよへど,ただにあはず,ひの かさなれば,おもひこひ,いきづきをるに,たまほこの,みちくるひとの,つてことに,われ にかたらく,はしきよし,きみはこのころ,うらさびて,なげかひいます,よのなかの,うけ くつらけく,さくはなも,ときにうつろふ,うつせみも,つねなくありけり,たらちねの,み ははのみこと,なにしかも,ときしはあらむを,まそかがみ,みれどもあかず,たまのをの ,をしきさかりに,たつきりの,うせぬるごとく,おくつゆの,けぬるがごとく,たまもなす ,なびきこいふし,ゆくみづの,とどめかねつと,たはことか,ひとのいひつる,およづれか ,ひとのつげつる,あづさゆみ,つまびくよおとの,とほおとにも,きけばかなしみ,にはた づみ,ながるるなみた,とどめかねつも
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[左注](右大伴宿祢家持弔聟南右大臣家藤原二郎之喪慈母患也 五月廿七日)
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[校異]無 → 无 [元][類] / 弧 → 弓弦 [西(訂正頭書)]
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[KW],天平勝宝2年5月27日,年紀,作者:大伴家持,挽歌,枕詞,悲別,哀悼,藤原久須麻 呂母,贈答,高岡,富山