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[題詞]忽沈<枉>疾殆臨泉路 仍作歌詞以申悲緒一首[并短歌]
[原文]大王能 麻氣能麻尓々々 大夫之 情布里於許之 安思比奇能 山坂古延弖 安麻射
加流 比奈尓久太理伎 伊伎太尓毛 伊麻太夜須米受 年月毛 伊久良母阿良奴尓 宇<都
>世美能 代人奈礼婆 宇知奈妣吉 等許尓許伊布之 伊多家苦之 日異益 多良知祢乃
<波>々能美許等乃 大船乃 由久良々々々尓 思多呉非尓 伊都可聞許武等 麻多須良牟
情左夫之苦 波之吉与志 都麻能美許登母 安氣久礼婆 門尓餘里多知 己呂母泥乎 遠理
加敝之都追 由布佐礼婆 登許宇知波良比 奴婆多麻能 黒髪之吉C 伊都之加登 奈氣可
須良牟曽 伊母毛勢母 和可伎兒等毛<波> 乎知許知尓 佐和吉奈久良牟 多麻保己能 美
知乎多騰保弥 間使毛 夜流余之母奈之 於母保之伎 許登都C夜良受 孤布流尓思 情波
母要奴 多麻伎波流 伊乃知乎之家騰 世牟須辨能 多騰伎乎之良尓 加苦思C也 安良志
乎須良尓 奈氣枳布勢良武
[訓読]大君の 任けのまにまに 大夫の 心振り起し あしひきの 山坂越えて 天離る
鄙に下り来 息だにも いまだ休めず 年月も いくらもあらぬに うつせみの 世の人な
れば うち靡き 床に臥い伏し 痛けくし 日に異に増さる たらちねの 母の命の 大船の
ゆくらゆくらに 下恋に いつかも来むと 待たすらむ 心寂しく はしきよし 妻の命
も 明けくれば 門に寄り立ち 衣手を 折り返しつつ 夕されば 床打ち払ひ ぬばたま
の 黒髪敷きて いつしかと 嘆かすらむぞ 妹も兄も 若き子どもは をちこちに 騒き泣
くらむ 玉桙の 道をた遠み 間使も 遺るよしもなし 思ほしき 言伝て遣らず 恋ふる
にし 心は燃えぬ たまきはる 命惜しけど 為むすべの たどきを知らに かくしてや 荒
し男すらに 嘆き伏せらむ
[仮名],おほきみの,まけのまにまに,ますらをの,こころふりおこし,あしひきの,やまさ
かこえて,あまざかる,ひなにくだりき,いきだにも,いまだやすめず,としつきも,いくら
もあらぬに,うつせみの,よのひとなれば,うちなびき,とこにこいふし,いたけくし,ひに
けにまさる,たらちねの,ははのみことの,おほぶねの,ゆくらゆくらに,したごひに,いつ
かもこむと,またすらむ,こころさぶしく,はしきよし,つまのみことも,あけくれば,かど
によりたち,ころもでを,をりかへしつつ,ゆふされば,とこうちはらひ,ぬばたまの,くろ
かみしきて,いつしかと,なげかすらむぞ,いももせも,わかきこどもは,をちこちに,さわ
きなくらむ,たまほこの,みちをたどほみ,まつかひも,やるよしもなし,おもほしき,こと
つてやらず,こふるにし,こころはもえぬ,たまきはる,いのちをしけど,せむすべの,たど
きをしらに,かくしてや,あらしをすらに,なげきふせらむ
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[左注](右天平十九年春二月廿日越中國守之舘臥病悲傷聊作此歌)
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[校異]狂 → 枉 [元] / 歌 [西] 謌 / 津 → 都 [元][紀][細] / 婆 → 波 [元][紀][細] / 婆
→ 波 [元
][紀][細]
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[KW],天平19年2月20日,年紀,作者:大伴家持,病気,枕詞,悲嘆,高岡,富山