University of Virginia Library

問答歌

3101

[題詞]問答歌

[原文]紫者 灰指物曽 海石榴市之 八十街尓 相兒哉誰
[訓読]紫は灰さすものぞ海石榴市の八十の街に逢へる子や誰れ
[仮名],むらさきは,はひさすものぞ,つばいちの,やそのちまたに,あへるこやたれ
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[左注](右二首)
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[校異]
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[KW],地名,奈良,桜井,歌垣,染色,問いかけ,求婚

3102

[題詞](問答歌)

[原文]足千根乃 母之召名乎 雖白 路行人乎 孰跡知而可
[訓読]たらちねの母が呼ぶ名を申さめど道行く人を誰れと知りてか
[仮名],たらちねの,ははがよぶなを,まをさめど,みちゆくひとを,たれとしりてか
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[左注]右二首
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[校異]
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[KW],歌垣,枕詞,求婚拒否

3103

[題詞](問答歌)

[原文]不相 然将有 玉<梓>之 使乎谷毛 待八金<手>六
[訓読]逢はなくはしかもありなむ玉梓の使をだにも待ちやかねてむ
[仮名],あはなくは,しかもありなむ,たまづさの,つかひをだにも,まちやかねてむ
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[左注](右二首)
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[校異]桙 → 梓 [元][紀][細] / 手 [西(上書訂正)][元][古][紀]
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[KW],女歌,恋情,枕詞

3104

[題詞](問答歌)

[原文]将相者 千遍雖念 蟻通 人眼乎多 戀乍衣居
[訓読]逢はむとは千度思へどあり通ふ人目を多み恋つつぞ居る
[仮名],あはむとは,ちたびおもへど,ありがよふ,ひとめをおほみ,こひつつぞをる
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[左注]右二首
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[校異]
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[KW],人目,恋情,うわさ

3105

[題詞](問答歌)

[原文]人目太 直不相而 盖雲 吾戀死者 誰名将有裳
[訓読]人目多み直に逢はずてけだしくも我が恋ひ死なば誰が名ならむも
[仮名],ひとめおほみ,ただにあはずて,けだしくも,あがこひしなば,たがなならむも
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[左注](右二首)
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[校異]
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[KW],人目,うわさ,恋情

3106

[題詞](問答歌)

[原文]相見 欲為者 従君毛 吾曽益而 伊布可思美為也
[訓読]相見まく欲しきがためは君よりも我れぞまさりていふかしみする
[仮名],あひみまく,ほしきがためは,きみよりも,われぞまさりて,いふかしみする
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[左注]右二首
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[校異]
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[KW],女歌,恋情

3107

[題詞](問答歌)

[原文]空蝉之 人目乎繁 不相而 年之經者 生跡毛奈思
[訓読]うつせみの人目を繁み逢はずして年の経ぬれば生けりともなし
[仮名],うつせみの,ひとめをしげみ,あはずして,としのへぬれば,いけりともなし
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[左注](右二首)
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[校異]
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[KW],人目,うわさ,恋情

3108

[題詞](問答歌)

[原文]空蝉之 人目繁者 夜干玉之 夜夢乎 次而所見欲
[訓読]うつせみの人目繁くはぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ
[仮名],うつせみの,ひとめしげくは,ぬばたまの,よるのいめにを,つぎてみえこそ
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[左注]右二首
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[校異]
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[KW],枕詞,人目,うわさ,恋情

3109

[題詞](問答歌)

[原文]慇懃 憶吾妹乎 人言之 繁尓因而 不通比日可聞
[訓読]ねもころに思ふ我妹を人言の繁きによりて淀むころかも
[仮名],ねもころに,おもふわぎもを,ひとごとの,しげきによりて,よどむころかも
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[左注](右二首)
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[校異]
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[KW],人目,うわさ,恋情

3110

[題詞](問答歌)

[原文]人言之 繁思有者 君毛吾毛 将絶常云而 相之物鴨
[訓読]人言の繁くしあらば君も我れも絶えむと言ひて逢ひしものかも
[仮名],ひとごとの,しげくしあらば,きみもあれも,たえむといひて,あひしものかも
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[左注]右二首
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[校異]
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[KW],人目,うわさ,恋情

3111

[題詞](問答歌)

[原文]為便毛無 片戀乎為登 比日尓 吾可死者 夢所見哉
[訓読]すべもなき片恋をすとこの頃に我が死ぬべきは夢に見えきや
[仮名],すべもなき,かたこひをすと,このころに,わがしぬべきは,いめにみえきや
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[左注](右二首)
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[校異]
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[KW],恋情,女歌

3112

[題詞](問答歌)

[原文]夢見而 衣乎取服 装束間尓 妹之使曽 先尓来
[訓読]夢に見て衣を取り着装ふ間に妹が使ぞ先立ちにける
[仮名],いめにみて,ころもをとりき,よそふまに,いもがつかひぞ,さきだちにける
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[左注]右二首
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[校異]
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[KW],恋情

3113

[題詞](問答歌)

[原文]在有而 後毛将相登 言耳乎 堅要管 相者無尓
[訓読]ありありて後も逢はむと言のみを堅く言ひつつ逢ふとはなしに
[仮名],ありありて,のちもあはむと,ことのみを,かたくいひつつ,あふとはなしに
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[左注](右二首)
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[校異]
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[KW],怨恨,恋情

3114

[題詞](問答歌)

[原文]極而 吾毛相登 思友 人之言社 繁君尓有
[訓読]ありありて我れも逢はむと思へども人の言こそ繁き君にあれ
[仮名],ありありて,われもあはむと,おもへども,ひとのことこそ,しげききみにあれ
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[左注]右二首
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[校異]
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[KW],恋情,うわさ,女歌

3115

[題詞](問答歌)

[原文]氣緒尓 言氣築之 妹尚乎 人妻有跡 聞者悲毛
[訓読]息の緒に我が息づきし妹すらを人妻なりと聞けば悲しも
[仮名],いきのをに,わがいきづきし,いもすらを,ひとづまなりと,きけばかなしも
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[左注](右二首)
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[校異]
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[KW],恋情

3116

[題詞](問答歌)

[原文]我故尓 痛勿和備曽 後遂 不相登要之 言毛不有尓
[訓読]我がゆゑにいたくなわびそ後つひに逢はじと言ひしこともあらなくに
[仮名],わがゆゑに,いたくなわびそ,のちつひに,あはじといひし,こともあらなくに
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[左注]右二首
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[校異]
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[KW],恋愛,慰め,女歌

3117

[題詞](問答歌)

[原文]門立而 戸毛閇而有乎 何處従鹿 妹之入来而 夢所見鶴
[訓読]門立てて戸も閉したるをいづくゆか妹が入り来て夢に見えつる
[仮名],かどたてて,ともさしてあるを,いづくゆか,いもがいりきて,いめにみえつる
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[左注](右二首)
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[校異]
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[KW],恋情

3118

[題詞](問答歌)

[原文]門立而 戸者雖闔 盗人之 穿穴従 入而所見牟
[訓読]門立てて戸は閉したれど盗人の穿れる穴より入りて見えけむ
[仮名],かどたてて,とはさしたれど,ぬすびとの,ほれるあなより,いりてみえけむ
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[左注]右二首
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[校異]
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[KW],恋情,女歌

3119

[題詞](問答歌)

[原文]従明日者 戀乍将<去> 今夕弾 速初夜従 綏解我妹
[訓読]明日よりは恋ひつつ行かむ今夜だに早く宵より紐解け我妹
[仮名],あすよりは,こひつつゆかむ,こよひだに,はやくよひより,ひもとけわぎも
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[左注](右二首)
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[校異]在 → 去 [元]
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[KW],恋情

3120

[題詞](問答歌)

[原文]今更 将寐哉我背子 荒田<夜>之 全夜毛不落 夢所見欲
[訓読]今さらに寝めや我が背子新夜の一夜もおちず夢に見えこそ
[仮名],いまさらに,ねめやわがせこ,あらたよの,ひとよもおちず,いめにみえこそ
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[左注]右二首
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[校異]寐 → 夜 [元]
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[KW],恋情,女歌

3121

[題詞](問答歌)

[原文]吾<勢>子之 使乎待跡 笠不著 出乍曽見之 雨零尓
[訓読]我が背子が使を待つと笠も着ず出でつつぞ見し雨の降らくに
[仮名],わがせこが,つかひをまつと,かさもきず,いでつつぞみし,あめのふらくに
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[左注](右二首)
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[校異]背 → 勢 [元][紀][細]
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[KW],女歌,恋情

3122

[題詞](問答歌)

[原文]無心 雨尓毛有鹿 人目守 乏妹尓 今日谷相<乎>
[訓読]心なき雨にもあるか人目守り乏しき妹に今日だに逢はむを
[仮名],こころなき,あめにもあるか,ひとめもり,ともしきいもに,けふだにあはむを
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[左注]右二首
[_]
[校異]牟 → 乎 [元][紀][温]
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[KW],人目,うわさ,恋情

3123

[題詞](問答歌)

[原文]直獨 宿杼宿不得而 白細 袖乎笠尓著 沾乍曽来
[訓読]ただひとり寝れど寝かねて白栲の袖を笠に着濡れつつぞ来し
[仮名],ただひとり,ぬれどねかねて,しろたへの,そでをかさにき,ぬれつつぞこし
[_]
[左注](右二首)
[_]
[校異]
[_]
[KW],枕詞,恋情,難渋

3124

[題詞](問答歌)

[原文]雨毛零 夜毛更深利 今更 君将行哉 紐解設<名>
[訓読]雨も降り夜も更けにけり今さらに君去なめやも紐解き設けな
[仮名],あめもふり,よもふけにけり,いまさらに,きみいなめやも,ひもときまけな
[_]
[左注]右二首
[_]
[校異]名 [西(上書訂正)][元][類][紀]
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[KW],女歌,恋情

3125

[題詞](問答歌)

[原文]久堅乃 雨零日乎 我門尓 蓑笠不蒙而 来有人哉誰
[訓読]ひさかたの雨の降る日を我が門に蓑笠着ずて来る人や誰れ
[仮名],ひさかたの,あめのふるひを,わがかどに,みのかさきずて,けるひとやたれ
[_]
[左注](右二首)
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[校異]
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[KW],枕詞,恋愛,女歌

3126

[題詞](問答歌)

[原文]纒向之 病足乃山尓 雲居乍 雨者雖零 所<沾>乍<焉>来
[訓読]巻向の穴師の山に雲居つつ雨は降れども濡れつつぞ来し
[仮名],まきむくの,あなしのやまに,くもゐつつ,あめはふれども,ぬれつつぞこし
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[左注]右二首
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[校異]沽 → 沾 [細][京] / 為 → 焉 [元][類][紀][温]
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[KW],地名,桜井,奈良,難渋,恋愛