University of Virginia Library

冬相聞

2333

[題詞]

[原文]零雪 虚空可消 雖戀 相依無 月經在
[訓読]降る雪の空に消ぬべく恋ふれども逢ふよしなしに月ぞ経にける
[仮名],ふるゆきの,そらにけぬべく,こふれども,あふよしなしに,つきぞへにける
[_]
[左注]右柿本朝臣人麻呂之歌集出
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情

2334

[題詞]

[原文]<阿和>雪 千<重>零敷 戀為来 食永我 見偲
[訓読]沫雪は千重に降りしけ恋ひしくの日長き我れは見つつ偲はむ
[仮名],あわゆきは,ちへにふりしけ,こひしくの,けながきわれは,みつつしのはむ
[_]
[左注]右柿本朝臣人麻呂之歌集出
[_]
[校異]沫 → 阿和 [元][類][紀][温] / 里 → 重 [元] / 歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],冬相聞,作者:柿本人麻呂歌集,略体,恋情

2335

[題詞]寄露

[原文]咲出照 梅之下枝<尓> 置露之 可消於妹 戀頃者
[訓読]咲き出照る梅の下枝に置く露の消ぬべく妹に恋ふるこのころ
[仮名],さきでてる,うめのしづえに,おくつゆの,けぬべくいもに,こふるこのころ
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 尓 [元][類][紀]
[_]
[KW],冬相聞,植物,恋情

2336

[題詞]寄霜

[原文]甚毛 夜深勿行 道邊之 湯小竹之於尓 霜降夜焉
[訓読]はなはだも夜更けてな行き道の辺の斎笹の上に霜の降る夜を
[仮名],はなはだも,よふけてなゆき,みちのへの,ゆささのうへに,しものふるよを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,植物,逢会

2337

[題詞]寄雪

[原文]小竹葉尓 薄太礼零覆 消名羽鴨 将忘云者 益所念
[訓読]笹の葉にはだれ降り覆ひ消なばかも忘れむと言へばまして思ほゆ
[仮名],ささのはに,はだれふりおほひ,けなばかも,わすれむといへば,ましておもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,植物,恋情

2338

[題詞](寄雪)

[原文]霰落 板敢風吹 寒夜也 旗野尓今夜 吾獨寐牟
[訓読]霰降りいたく風吹き寒き夜や旗野に今夜我が独り寝む
[仮名],あられふり,いたもかぜふき,さむきよや,はたのにこよひ,わがひとりねむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,奈良,飛鳥,地名,孤独,恋情

2339

[題詞](寄雪)

[原文]吉名張乃 野木尓零覆 白雪乃 市白霜 将戀吾鴨
[訓読]吉隠の野木に降り覆ふ白雪のいちしろくしも恋ひむ我れかも
[仮名],よなばりの,のぎにふりおほふ,しらゆきの,いちしろくしも,こひむあれかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,桜井,地名,恋情,序詞

2340

[題詞](寄雪)

[原文]一眼見之 人尓戀良久 天霧之 零来雪之 可消所念
[訓読]一目見し人に恋ふらく天霧らし降りくる雪の消ぬべく思ほゆ
[仮名],ひとめみし,ひとにこふらく,あまぎらし,ふりくるゆきの,けぬべくおもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,恋情

2341

[題詞](寄雪)

[原文]思出 時者為便無 豊國之 木綿山雪之 可消<所>念
[訓読]思ひ出づる時はすべなみ豊国の由布山雪の消ぬべく思ほゆ
[仮名],おもひいづる,ときはすべなみ,とよくにの,ゆふやまゆきの,けぬべくおもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]可 → 所 [西(右書)][元][類][紀]
[_]
[KW],冬相聞,大分,地名,懐旧,恋情,序詞

2342

[題詞](寄雪)

[原文]如夢 君乎相見而 天霧之 落来雪之 可消所念
[訓読]夢のごと君を相見て天霧らし降りくる雪の消ぬべく思ほゆ
[仮名],いめのごと,きみをあひみて,あまぎらし,ふりくるゆきの,けぬべくおもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,恋情,序詞

2343

[題詞](寄雪)

[原文]吾背子之 言愛美 出去者 裳引将知 雪勿零
[訓読]我が背子が言うるはしみ出でて行かば裳引きしるけむ雪な降りそね
[仮名],わがせこが,ことうるはしみ,いでてゆかば,もびきしるけむ,ゆきなふりそね
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,逢会

2344

[題詞](寄雪)

[原文]梅花 其跡毛不所見 零雪之 市白兼名 間使遣者 [一云 零雪尓 間使遣者 其将 知<奈>]
[訓読]梅の花それとも見えず降る雪のいちしろけむな間使遣らば [一云 降る雪に間 使遣らばそれと知らなむ]
[仮名],うめのはな,それともみえず,ふるゆきの,いちしろけむな,まつかひやらば,[ふる ゆきに,まつかひやらば,それとしらなむ]
[_]
[左注]
[_]
[校異]名 → 奈 [元][類][紀]
[_]
[KW],冬相聞,植物,序詞

2345

[題詞](寄雪)

[原文]天霧相 零来雪之 消友 於君合常 流經度
[訓読]天霧らひ降りくる雪の消なめども君に逢はむとながらへわたる
[仮名],あまぎらひ,ふりくるゆきの,けなめども,きみにあはむと,ながらへわたる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,恋情

2346

[題詞](寄雪)

[原文]窺良布 跡見山雪之 灼然 戀者妹名 人将知可聞
[訓読]うかねらふ跡見山雪のいちしろく恋ひば妹が名人知らむかも
[仮名],うかねらふ,とみやまゆきの,いちしろく,こひばいもがな,ひとしらむかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,桜井,地名,恋情

2347

[題詞](寄雪)

[原文]海小船 泊瀬乃山尓 落雪之 消長戀師 君之音曽為流
[訓読]海人小舟泊瀬の山に降る雪の日長く恋ひし君が音ぞする
[仮名],あまをぶね,はつせのやまに,ふるゆきの,けながくこひし,きみがおとぞする
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,桜井,地名,恋情

2348

[題詞](寄雪)

[原文]和射美能 嶺徃過而 零雪乃 Q毛無跡 白其兒尓
[訓読]和射見の嶺行き過ぎて降る雪のいとひもなしと申せその子に
[仮名],わざみの,みねゆきすぎて,ふるゆきの,いとひもなしと,まをせそのこに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,岐阜県,関ヶ原,地名

2349

[題詞]寄花

[原文]吾屋戸尓 開有梅乎 月夜好美 夕々令見 君乎祚待也
[訓読]我が宿に咲きたる梅を月夜よみ宵々見せむ君をこそ待て
[仮名],わがやどに,さきたるうめを,つくよよみ,よひよひみせむ,きみをこそまて
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,植物

2350

[題詞]寄夜

[原文]足桧木乃 山下風波 雖不吹 君無夕者 豫寒毛
[訓読]あしひきの山のあらしは吹かねども君なき宵はかねて寒しも
[仮名],あしひきの,やまのあらしは,ふかねども,きみなきよひは,かねてさむしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],冬相聞,恋情