University of Virginia Library

秋雜歌

1996

[題詞]七夕

[原文]天漢 水左閇而照 舟竟 舟人 妹等所見寸哉
[訓読]天の川水さへに照る舟泊てて舟なる人は妹と見えきや
[仮名],あまのがは,みづさへにてる,ふねはてて,ふねなるひとは,いもとみえきや
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]歌 [西] 謌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

1997

[題詞](七夕)

[原文]久方之 天漢原丹 奴延鳥之 裏歎座<都> 乏諸手丹
[訓読]久方の天の川原にぬえ鳥のうら歎げましつすべなきまでに
[仮名],ひさかたの,あまのかはらに,ぬえどりの,うらなげましつ,すべなきまでに
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]津 → 都 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

1998

[題詞](七夕)

[原文]吾戀 嬬者知遠 徃船乃 過而應来哉 事毛告火
[訓読]我が恋を嬬は知れるを行く舟の過ぎて来べしや言も告げなむ
[仮名],あがこひを,つまはしれるを,ゆくふねの,すぎてくべしや,こともつげなむ
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

1999

[題詞](七夕)

[原文]朱羅引 色妙子 數見者 人妻故 吾可戀奴
[訓読]赤らひく色ぐはし子をしば見れば人妻ゆゑに我れ恋ひぬべし
[仮名],あからひく,いろぐはしこを,しばみれば,ひとづまゆゑに,あれこひぬべし
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2000

[題詞](七夕)

[原文]天漢 安渡丹 船浮而 秋立待等 妹告与具
[訓読]天の川安の渡りに舟浮けて秋立つ待つと妹に告げこそ
[仮名],あまのがは,やすのわたりに,ふねうけて,あきたつまつと,いもにつげこそ
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2001

[題詞](七夕)

[原文]従蒼天 徃来吾等須良 汝故 天漢道 名積而叙来
[訓読]大空ゆ通ふ我れすら汝がゆゑに天の川道をなづみてぞ来し
[仮名],おほそらゆ,かよふわれすら,ながゆゑに,あまのかはぢを,なづみてぞこし
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2002

[題詞](七夕)

[原文]八千<戈> 神自御世 乏つ 人知尓来 告思者
[訓読]八千桙の神の御代よりともし妻人知りにけり継ぎてし思へば
[仮名],やちほこの,かみのみよより,ともしづま,ひとしりにけり,つぎてしおもへば
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]才 → 戈 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2003

[題詞](七夕)

[原文]吾等戀 丹穂面 今夕母可 天漢原 石枕巻
[訓読]我が恋ふる丹のほの面わこよひもか天の川原に石枕まかむ
[仮名],あがこふる,にのほのおもわ,こよひもか,あまのかはらに,いしまくらまかむ
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2004

[題詞](七夕)

[原文]己つ 乏子等者 竟津 荒礒巻而寐 君待難
[訓読]己夫にともしき子らは泊てむ津の荒礒巻きて寝む君待ちかてに
[仮名],おのづまに,ともしきこらは,はてむつの,ありそまきてねむ,きみまちかてに
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2005

[題詞](七夕)

[原文]天地等 別之時従 自つ 然叙<年>而在 金待吾者
[訓読]天地と別れし時ゆ己が妻しかぞ年にある秋待つ我れは
[仮名],あめつちと,わかれしときゆ,おのがつま,しかぞかれてあり,あきまつわれは
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]手 → 年 [万葉集童蒙抄]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2006

[題詞](七夕)

[原文]孫星 嘆須つ 事谷毛 告<尓>叙来鶴 見者苦弥
[訓読]彦星は嘆かす妻に言だにも告げにぞ来つる見れば苦しみ
[仮名],ひこほしは,なげかすつまに,ことだにも,つげにぞきつる,みればくるしみ
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]余 → 尓 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2007

[題詞](七夕)

[原文]久方 天印等 水無<川> 隔而置之 神世之恨
[訓読]ひさかたの天つしるしと水無し川隔てて置きし神代し恨めし
[仮名],ひさかたの,あまつしるしと,みなしがは,へだてておきし,かむよしうらめし
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]河 → 川 [元][類][京]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2008

[題詞](七夕)

[原文]黒玉 宵霧隠 遠鞆 妹傳 速告与
[訓読]ぬばたまの夜霧に隠り遠くとも妹が伝へは早く告げこそ
[仮名],ぬばたまの,よぎりにこもり,とほくとも,いもがつたへは,はやくつげこそ
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2009

[題詞](七夕)

[原文]汝戀 妹命者 飽足尓 袖振所見都 及雲隠
[訓読]汝が恋ふる妹の命は飽き足らに袖振る見えつ雲隠るまで
[仮名],ながこふる,いものみことは,あきだらに,そでふるみえつ,くもがくるまで
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2010

[題詞](七夕)

[原文]夕星毛 徃来天道 及何時鹿 仰而将待 月人<壮>
[訓読]夕星も通ふ天道をいつまでか仰ぎて待たむ月人壮士
[仮名],ゆふつづも,かよふあまぢを,いつまでか,あふぎてまたむ,つきひとをとこ
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]牡 → 壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2011

[題詞](七夕)

[原文]天漢 已向立而 戀等尓 事谷将告 つ言及者
[訓読]天の川い向ひ立ちて恋しらに言だに告げむ妻と言ふまでは
[仮名],あまのがは,いむかひたちて,こひしらに,ことだにつげむ,つまといふまでは
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2012

[題詞](七夕)

[原文]水良玉 五百<都>集乎 解毛不<見> 吾者干可太奴 相日待尓
[訓読]白玉の五百つ集ひを解きもみず我は干しかてぬ逢はむ日待つに
[仮名],しらたまの,いほつつどひを,ときもみず,わはほしかてぬ,あはむひまつに
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]部 → 都 [元][類] / 及 → 見 [西(訂正右書)][元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2013

[題詞](七夕)

[原文]天漢 水陰草 金風 靡見者 時来之
[訓読]天の川水蔭草の秋風に靡かふ見れば時は来にけり
[仮名],あまのがは,みづかげくさの,あきかぜに,なびかふみれば,ときはきにけり
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]之 [元][類](塙) 々
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2014

[題詞](七夕)

[原文]吾等待之 白芽子開奴 今谷毛 尓寶比尓徃奈 越方人邇
[訓読]我が待ちし秋萩咲きぬ今だにもにほひに行かな彼方人に
[仮名],わがまちし,あきはぎさきぬ,いまだにも,にほひにゆかな,をちかたひとに
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2015

[題詞](七夕)

[原文]吾世子尓 裏戀居者 天<漢> 夜船滂動 梶音所聞
[訓読]我が背子にうら恋ひ居れば天の川夜舟漕ぐなる楫の音聞こゆ
[仮名],わがせこに,うらこひをれば,あまのがは,よふねこぐなる,かぢのおときこゆ
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]河 → 漢 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2016

[題詞](七夕)

[原文]真氣長 戀心自 白風 妹音所聴 紐解徃名
[訓読]ま日長く恋ふる心ゆ秋風に妹が音聞こゆ紐解き行かな
[仮名],まけながく,こふるこころゆ,あきかぜに,いもがおときこゆ,ひもときゆかな
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2017

[題詞](七夕)

[原文]戀敷者 氣長物乎 今谷 乏<之>牟可哉 可相夜谷
[訓読]恋ひしくは日長きものを今だにもともしむべしや逢ふべき夜だに
[仮名],こひしくは,けながきものを,いまだにも,ともしむべしや,あふべきよだに
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]<> → 之 [元][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2018

[題詞](七夕)

[原文]天漢 去歳渡代 遷閇者 河瀬於踏 夜深去来
[訓読]天の川去年の渡りで移ろへば川瀬を踏むに夜ぞ更けにける
[仮名],あまのがは,こぞのわたりで,うつろへば,かはせをふむに,よぞふけにける
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2019

[題詞](七夕)

[原文]自古 擧而之服 不顧 天河津尓 年序經去来
[訓読]いにしへゆあげてし服も顧みず天の川津に年ぞ経にける
[仮名],いにしへゆ,あげてしはたも,かへりみず,あまのかはづに,としぞへにける
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2020

[題詞](七夕)

[原文]天漢 夜船滂而 雖明 将相等念夜 袖易受将有
[訓読]天の川夜船を漕ぎて明けぬとも逢はむと思ふ夜袖交へずあらむ
[仮名],あまのがは,よふねをこぎて,あけぬとも,あはむとおもふよ,そでかへずあらむ
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2021

[題詞](七夕)

[原文]遥ほ等 手枕易 寐夜 鶏音莫動 明者雖明
[訓読]遠妻と手枕交へて寝たる夜は鶏がねな鳴き明けば明けぬとも
[仮名],とほづまと,たまくらかへて,ねたるよは,とりがねななき,あけばあけぬとも
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2022

[題詞](七夕)

[原文]相見久 Q雖不足 稲目 明去来理 舟出為牟つ
[訓読]相見らく飽き足らねどもいなのめの明けさりにけり舟出せむ妻
[仮名],あひみらく,あきだらねども,いなのめの,あけさりにけり,ふなでせむつま
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2023

[題詞](七夕)

[原文]左尼始而 何太毛不在者 白栲 帶可乞哉 戀毛不<過>者
[訓読]さ寝そめていくだもあらねば白栲の帯乞ふべしや恋も過ぎねば
[仮名],さねそめて,いくだもあらねば,しろたへの,おびこふべしや,こひもすぎねば
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]遏 → 過 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2024

[題詞](七夕)

[原文]万世 携手居而 相見鞆 念可過 戀<尓>有莫國
[訓読]万代にたづさはり居て相見とも思ひ過ぐべき恋にあらなくに
[仮名],よろづよに,たづさはりゐて,あひみとも,おもひすぐべき,こひにあらなくに
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]奈 → 尓 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2025

[題詞](七夕)

[原文]万世 可照月毛 雲隠 苦物叙 将相登雖念
[訓読]万代に照るべき月も雲隠り苦しきものぞ逢はむと思へど
[仮名],よろづよに,てるべきつきも,くもがくり,くるしきものぞ,あはむとおもへど
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2026

[題詞](七夕)

[原文]白雲 五百遍隠 雖遠 夜不去将見 妹當者
[訓読]白雲の五百重に隠り遠くとも宵さらず見む妹があたりは
[仮名],しらくもの,いほへにかくり,とほくとも,よひさらずみむ,いもがあたりは
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2027

[題詞](七夕)

[原文]為我登 織女之 其屋戸尓 織白布 織弖兼鴨
[訓読]我がためと織女のそのやどに織る白栲は織りてけむかも
[仮名],あがためと,たなばたつめの,そのやどに,おるしろたへは,おりてけむかも
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2028

[題詞](七夕)

[原文]君不相 久時 織服 白栲衣 垢附麻弖尓
[訓読]君に逢はず久しき時ゆ織る服の白栲衣垢付くまでに
[仮名],きみにあはず,ひさしきときゆ,おるはたの,しろたへころも,あかつくまでに
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2029

[題詞](七夕)

[原文]天漢 梶音聞 孫星 与織女 今夕相霜
[訓読]天の川楫の音聞こゆ彦星と織女と今夜逢ふらしも
[仮名],あまのがは,かぢのおときこゆ,ひこほしと,たなばたつめと,こよひあふらしも
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2030

[題詞](七夕)

[原文]秋去者 <川>霧 天川 河向居而 戀夜多
[訓読]秋されば川霧立てる天の川川に向き居て恋ふる夜ぞ多き
[仮名],あきされば,かはぎりたてる,あまのがは,かはにむきゐて,こふるよぞおほき
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]河 → 川 [元][類] / 霧 [温](塙) 霧立
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2031

[題詞](七夕)

[原文]吉哉 雖不直 奴延鳥 浦嘆居 告子鴨
[訓読]よしゑやし直ならずともぬえ鳥のうら嘆げ居りと告げむ子もがも
[仮名],よしゑやし,ただならずとも,ぬえどりの,うらなげをりと,つげむこもがも
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,略体,七夕

2032

[題詞](七夕)

[原文]一年邇 七夕耳 相人之 戀毛不<過>者 夜深徃久毛 [一云 不盡者 佐宵曽明尓来 ]
[訓読]一年に七日の夜のみ逢ふ人の恋も過ぎねば夜は更けゆくも [一云 尽きねばさ 夜ぞ明けにける]
[仮名],ひととせに,なぬかのよのみ,あふひとの,こひもすぎねば,よはふけゆくも,[つき ねば,さよぞあけにける]
[_]
[左注](右柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]遏 → 過 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2033

[題詞](七夕)

[原文]天漢 安川原 定而神競者磨待無
[訓読]天の川安の川原定而神競者磨待無
[仮名],あまのがは,やすのかはら*,*****,*******,*******
[_]
[左注]此歌一首庚辰年作之 / 右柿本朝臣人麻呂之歌集出
[_]
[校異]歌 [西] 謌 / 歌 [西] 謌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,七夕

2034

[題詞](七夕)

[原文]棚機之 五百機立而 織布之 秋去衣 孰取見
[訓読]織女の五百機立てて織る布の秋さり衣誰れか取り見む
[仮名],たなばたの,いほはたたてて,おるぬのの,あきさりごろも,たれかとりみむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2035

[題詞](七夕)

[原文]年有而 今香将巻 烏玉之 夜霧隠 遠妻手乎
[訓読]年にありて今か巻くらむぬばたまの夜霧隠れる遠妻の手を
[仮名],としにありて,いまかまくらむ,ぬばたまの,よぎりこもれる,とほづまのてを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2036

[題詞](七夕)

[原文]吾待之 秋者来沼 妹与吾 何事在曽 紐不解在牟
[訓読]我が待ちし秋は来りぬ妹と我れと何事あれぞ紐解かずあらむ
[仮名],わがまちし,あきはきたりぬ,いもとあれと,なにことあれぞ,ひもとかずあらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2037

[題詞](七夕)

[原文]年之戀 今夜盡而 明日従者 如常哉 吾戀居牟
[訓読]年の恋今夜尽して明日よりは常のごとくや我が恋ひ居らむ
[仮名],としのこひ,こよひつくして,あすよりは,つねのごとくや,あがこひをらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2038

[題詞](七夕)

[原文]不合者 氣長物乎 天漢 隔又哉 吾戀将居
[訓読]逢はなくは日長きものを天の川隔ててまたや我が恋ひ居らむ
[仮名],あはなくは,けながきものを,あまのがは,へだててまたや,あがこひをらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2039

[題詞](七夕)

[原文]戀家口 氣長物乎 可合有 夕谷君之 不来益有良武
[訓読]恋しけく日長きものを逢ふべくある宵だに君が来まさずあるらむ
[仮名],こひしけく,けながきものを,あふべくある,よひだにきみが,きまさずあるらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]武 [元][類][紀](塙) 牟
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2040

[題詞](七夕)

[原文]牽牛 与織女 今夜相 天漢門尓 浪立勿謹
[訓読]彦星と織女と今夜逢ふ天の川門に波立つなゆめ
[仮名],ひこほしと,たなばたつめと,こよひあふ,あまのかはとに,なみたつなゆめ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2041

[題詞](七夕)

[原文]秋風 吹漂蕩 白雲者 織女之 天津領巾毳
[訓読]秋風の吹きただよはす白雲は織女の天つ領巾かも
[仮名],あきかぜの,ふきただよはす,しらくもは,たなばたつめの,あまつひれかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2042

[題詞](七夕)

[原文]數裳 相不見君矣 天漢 舟出速為 夜不深間
[訓読]しばしばも相見ぬ君を天の川舟出早せよ夜の更けぬ間に
[仮名],しばしばも,あひみぬきみを,あまのがは,ふなではやせよ,よのふけぬまに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2043

[題詞](七夕)

[原文]秋風之 清夕 天漢 舟滂度 月人<壮>子
[訓読]秋風の清き夕に天の川舟漕ぎ渡る月人壮士
[仮名],あきかぜの,きよきゆふへに,あまのがは,ふねこぎわたる,つきひとをとこ
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [類][紀][温]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2044

[題詞](七夕)

[原文]天漢 霧立度 牽牛之 楫音所聞 夜深徃
[訓読]天の川霧立ちわたり彦星の楫の音聞こゆ夜の更けゆけば
[仮名],あまのがは,きりたちわたり,ひこほしの,かぢのおときこゆ,よのふけゆけば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2045

[題詞](七夕)

[原文]君舟 今滂来良之 天漢 霧立度 此川瀬
[訓読]君が舟今漕ぎ来らし天の川霧立ちわたるこの川の瀬に
[仮名],きみがふね,いまこぎくらし,あまのがは,きりたちわたる,このかはのせに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2046

[題詞](七夕)

[原文]秋風尓 河浪起 ま 八十舟津 三舟停
[訓読]秋風に川波立ちぬしましくは八十の舟津にみ舟留めよ
[仮名],あきかぜに,かはなみたちぬ,しましくは,やそのふなつに,みふねとどめよ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2047

[題詞](七夕)

[原文]天漢 <河>聲清之 牽牛之 秋滂船之 浪せ香
[訓読]天の川川の音清し彦星の秋漕ぐ舟の波のさわきか
[仮名],あまのがは,かはのおときよし,ひこほしの,あきこぐふねの,なみのさわきか
[_]
[左注]
[_]
[校異]川 → 河 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2048

[題詞](七夕)

[原文]天漢 <河>門立 吾戀之 君来奈里 紐解待 [一云 天<河> <川>向立]
[訓読]天の川川門に立ちて我が恋ひし君来ますなり紐解き待たむ [一云 天の川川に 向き立ち]
[仮名],あまのがは,かはとにたちて,あがこひし,きみきますなり,ひもときまたむ,[あま のがは,かはにむきたち]
[_]
[左注]
[_]
[校異]川 → 河 [元][類][紀] / 川 → 河 [元][紀][温] / 河 → 川 [元][紀][温]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕,異伝

2049

[題詞](七夕)

[原文]天漢 <河>門座而 年月 戀来君 今夜會可母
[訓読]天の川川門に居りて年月を恋ひ来し君に今夜逢へるかも
[仮名],あまのがは,かはとにをりて,としつきを,こひこしきみに,こよひあへるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]川 → 河 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2050

[題詞](七夕)

[原文]明日従者 吾玉床乎 打拂 公常不宿 孤可母寐
[訓読]明日よりは我が玉床をうち掃ひ君と寐ねずてひとりかも寝む
[仮名],あすよりは,あがたまどこを,うちはらひ,きみといねずて,ひとりかもねむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2051

[題詞](七夕)

[原文]天原 徃射跡 白檀 挽而隠在 月人<壮>子
[訓読]天の原行きて射てむと白真弓引きて隠れる月人壮士
[仮名],あまのはら,ゆきていてむと,しらまゆみ,ひきてこもれる,つきひとをとこ
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [類][紀][温]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2052

[題詞](七夕)

[原文]此夕 零来雨者 男星之 早滂船之 賀伊乃散鴨
[訓読]この夕降りくる雨は彦星の早漕ぐ舟の櫂の散りかも
[仮名],このゆふへ,ふりくるあめは,ひこほしの,はやこぐふねの,かいのちりかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2053

[題詞](七夕)

[原文]天漢 八十瀬霧合 男星之 時待船 今滂良之
[訓読]天の川八十瀬霧らへり彦星の時待つ舟は今し漕ぐらし
[仮名],あまのがは,やそせきらへり,ひこほしの,ときまつふねは,いましこぐらし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2054

[題詞](七夕)

[原文]風吹而 河浪起 引船丹 度裳来 夜不降間尓
[訓読]風吹きて川波立ちぬ引き船に渡りも来ませ夜の更けぬ間に
[仮名],かぜふきて,かはなみたちぬ,ひきふねに,わたりもきませ,よのふけぬまに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2055

[題詞](七夕)

[原文]天河 遠<渡>者 無友 公之舟出者 年尓社候
[訓読]天の川遠き渡りはなけれども君が舟出は年にこそ待て
[仮名],あまのがは,とほきわたりは,なけれども,きみがふなでは,としにこそまて
[_]
[左注]
[_]
[校異]度 → 渡 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2056

[題詞](七夕)

[原文]天<漢> 打橋度 妹之家道 不止通 時不待友
[訓読]天の川打橋渡せ妹が家道やまず通はむ時待たずとも
[仮名],あまのがは,うちはしわたせ,いもがいへぢ,やまずかよはむ,ときまたずとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]河 → 漢 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2057

[題詞](七夕)

[原文]月累 吾思妹 會夜者 今之七夕 續巨勢奴鴨
[訓読]月重ね我が思ふ妹に逢へる夜は今し七夜を継ぎこせぬかも
[仮名],つきかさね,あがおもふいもに,あへるよは,いましななよを,つぎこせぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2058

[題詞](七夕)

[原文]年丹装 吾舟滂 天河 風者吹友 浪立勿忌
[訓読]年に装る我が舟漕がむ天の川風は吹くとも波立つなゆめ
[仮名],としにかざる,わがふねこがむ,あまのがは,かぜはふくとも,なみたつなゆめ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2059

[題詞](七夕)

[原文]天河 浪者立友 吾舟者 率滂出 夜之不深間尓
[訓読]天の川波は立つとも我が舟はいざ漕ぎ出でむ夜の更けぬ間に
[仮名],あまのがは,なみはたつとも,わがふねは,いざこぎいでむ,よのふけぬまに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2060

[題詞](七夕)

[原文]直今夜 相有兒等尓 事問母 未為而 左夜曽明二来
[訓読]ただ今夜逢ひたる子らに言どひもいまだせずしてさ夜ぞ明けにける
[仮名],ただこよひ,あひたるこらに,ことどひも,いまだせずして,さよぞあけにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2061

[題詞](七夕)

[原文]天河 白浪高 吾戀 公之舟出者 今為下
[訓読]天の川白波高し我が恋ふる君が舟出は今しすらしも
[仮名],あまのがは,しらなみたかし,あがこふる,きみがふなでは,いましすらしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2062

[題詞](七夕)

[原文]機 さ木持徃而 天<漢> 打橋度 公之来為
[訓読]機物のまね木持ち行きて天の川打橋渡す君が来むため
[仮名],はたものの,まねきもちゆきて,あまのがは,うちはしわたす,きみがこむため
[_]
[左注]
[_]
[校異]河 → 漢 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2063

[題詞](七夕)

[原文]天漢 霧立上 棚幡乃 雲衣能 飄袖鴨
[訓読]天の川霧立ち上る織女の雲の衣のかへる袖かも
[仮名],あまのがは,きりたちのぼる,たなばたの,くものころもの,かへるそでかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2064

[題詞](七夕)

[原文]古 織義之八多乎 此暮 衣縫而 君待吾乎
[訓読]いにしへゆ織りてし服をこの夕衣に縫ひて君待つ我れを
[仮名],いにしへゆ,おりてしはたを,このゆふへ,ころもにぬひて,きみまつわれを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2065

[題詞](七夕)

[原文]足玉母 手珠毛由良尓 織旗乎 公之御衣尓 縫将堪可聞
[訓読]足玉も手玉もゆらに織る服を君が御衣に縫ひもあへむかも
[仮名],あしだまも,ただまもゆらに,おるはたを,きみがみけしに,ぬひもあへむかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2066

[題詞](七夕)

[原文]擇月日 逢義之有者 別乃 惜有君者 明日副裳欲得
[訓読]月日おき逢ひてしあれば別れまく惜しくある君は明日さへもがも
[仮名],つきひおき,あひてしあれば,わかれまく,をしくあるきみは,あすさへもがも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2067

[題詞](七夕)

[原文]天漢 渡瀬深弥 泛船而 掉来君之 楫<音>所聞
[訓読]天の川渡り瀬深み舟浮けて漕ぎ来る君が楫の音聞こゆ
[仮名],あまのがは,わたりぜふかみ,ふねうけて,こぎくるきみが,かぢのおときこゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]之音 → 音 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2068

[題詞](七夕)

[原文]天原 振放見者 天漢 霧立渡 公者来良志
[訓読]天の原降り放け見れば天の川霧立ちわたる君は来ぬらし
[仮名],あまのはら,ふりさけみれば,あまのがは,きりたちわたる,きみはきぬらし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2069

[題詞](七夕)

[原文]天漢 瀬毎幣 奉 情者君乎 幸来座跡
[訓読]天の川瀬ごとに幣をたてまつる心は君を幸く来ませと
[仮名],あまのがは,せごとにぬさを,たてまつる,こころはきみを,さきくきませと
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2070

[題詞](七夕)

[原文]久<堅>之 天河津尓 舟泛而 君待夜等者 不明毛有寐鹿
[訓読]久方の天の川津に舟浮けて君待つ夜らは明けずもあらぬか
[仮名],ひさかたの,あまのかはづに,ふねうけて,きみまつよらは,あけずもあらぬか
[_]
[左注]
[_]
[校異]方 → 堅 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2071

[題詞](七夕)

[原文]天河 足沾渡 君之手毛 未枕者 夜之深去良久
[訓読]天の川なづさひ渡る君が手もいまだまかねば夜の更けぬらく
[仮名],あまのがは,なづさひわたる,きみがても,いまだまかねば,よのふけぬらく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2072

[題詞](七夕)

[原文]渡守 船度世乎跡 呼音之 不至者疑 梶<聲之>不為
[訓読]渡り守舟渡せをと呼ぶ声の至らねばかも楫の音のせぬ
[仮名],わたりもり,ふねわたせをと,よぶこゑの,いたらねばかも,かぢのおとのせぬ
[_]
[左注]
[_]
[校異]之聲 → 聲之 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2073

[題詞](七夕)

[原文]真氣長 河向立 有之袖 今夜巻跡 念之吉沙
[訓読]ま日長く川に向き立ちありし袖今夜巻かむと思はくがよさ
[仮名],まけながく,かはにむきたち,ありしそで,こよひまかむと,おもはくがよさ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2074

[題詞](七夕)

[原文]天<河> 渡湍毎 思乍 来之雲知師 逢有久念者
[訓読]天の川渡り瀬ごとに思ひつつ来しくもしるし逢へらく思へば
[仮名],あまのがは,わたりぜごとに,おもひつつ,こしくもしるし,あへらくおもへば
[_]
[左注]
[_]
[校異]漢 → 河 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2075

[題詞](七夕)

[原文]人左倍也 見不継将有 牽牛之 嬬喚舟之 近附徃乎 [一云 見乍有良武]
[訓読]人さへや見継がずあらむ彦星の妻呼ぶ舟の近づき行くを [一云 見つつあるら む]
[仮名],ひとさへや,みつがずあらむ,ひこほしの,つまよぶふねの,ちかづきゆくを,[みつ つあるらむ]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2076

[題詞](七夕)

[原文]天漢 瀬乎早鴨 烏珠之 夜者闌尓乍 不合牽牛
[訓読]天の川瀬を早みかもぬばたまの夜は更けにつつ逢はぬ彦星
[仮名],あまのがは,せをはやみかも,ぬばたまの,よはふけにつつ,あはぬひこほし
[_]
[左注]
[_]
[校異]闌 [元][類] 開
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2077

[題詞](七夕)

[原文]渡守 舟早渡世 一年尓 二遍徃来 君尓有勿久尓
[訓読]渡り守舟早渡せ一年にふたたび通ふ君にあらなくに
[仮名],わたりもり,ふねはやわたせ,ひととせに,ふたたびかよふ,きみにあらなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2078

[題詞](七夕)

[原文]玉葛 不絶物可良 佐宿者 年之度尓 直一夜耳
[訓読]玉葛絶えぬものからさ寝らくは年の渡りにただ一夜のみ
[仮名],たまかづら,たえぬものから,さぬらくは,としのわたりに,ただひとよのみ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2079

[題詞](七夕)

[原文]戀日者 <食>長物乎 今夜谷 令乏應哉 可相物乎
[訓読]恋ふる日は日長きものを今夜だにともしむべしや逢ふべきものを
[仮名],こふるひは,けながきものを,こよひだに,ともしむべしや,あふべきものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]氣 → 食 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2080

[題詞](七夕)

[原文]織女之 今夜相奈婆 如常 明日乎阻而 年者将長
[訓読]織女の今夜逢ひなば常のごと明日を隔てて年は長けむ
[仮名],たなばたの,こよひあひなば,つねのごと,あすをへだてて,としはながけむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2081

[題詞](七夕)

[原文]天漢 棚橋渡 織女之 伊渡左牟尓 棚橋渡
[訓読]天の川棚橋渡せ織女のい渡らさむに棚橋渡せ
[仮名],あまのがは,たなはしわたせ,たなばたの,いわたらさむに,たなはしわたせ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2082

[題詞](七夕)

[原文]天漢 河門八十有 何尓可 君之三船乎 吾待将居
[訓読]天の川川門八十ありいづくにか君がみ舟を我が待ち居らむ
[仮名],あまのがは,かはとやそあり,いづくにか,きみがみふねを,わがまちをらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2083

[題詞](七夕)

[原文]秋風乃 吹西日従 天漢 瀬尓出立 待登告許曽
[訓読]秋風の吹きにし日より天の川瀬に出で立ちて待つと告げこそ
[仮名],あきかぜの,ふきにしひより,あまのがは,せにいでたちて,まつとつげこそ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2084

[題詞](七夕)

[原文]天漢 去年之渡湍 有二家里 君<之>将来 道乃不知久
[訓読]天の川去年の渡り瀬荒れにけり君が来まさむ道の知らなく
[仮名],あまのがは,こぞのわたりぜ,あれにけり,きみがきまさむ,みちのしらなく
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 之 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2085

[題詞](七夕)

[原文]天漢 湍瀬尓白浪 雖高 直渡来沼 時者苦三
[訓読]天の川瀬々に白波高けども直渡り来ぬ待たば苦しみ
[仮名],あまのがは,せぜにしらなみ,たかけども,ただわたりきぬ,またばくるしみ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2086

[題詞](七夕)

[原文]牽牛之 嬬喚舟之 引<綱>乃 将絶跡君乎 吾<之>念勿國
[訓読]彦星の妻呼ぶ舟の引き綱の絶えむと君を我が思はなくに
[仮名],ひこほしの,つまよぶふねの,ひきづなの,たえむときみを,わがおもはなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]綱 [西(上書訂正)][元][類][紀] / 久 → 之 [万葉考]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2087

[題詞](七夕)

[原文]渡守 舟出為将出 今夜耳 相見而後者 不相物可毛
[訓読]渡り守舟出し出でむ今夜のみ相見て後は逢はじものかも
[仮名],わたりもり,ふなでしいでむ,こよひのみ,あひみてのちは,あはじものかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2088

[題詞](七夕)

[原文]吾隠有 楫棹無而 渡守 舟将借八方 須臾者有待
[訓読]我が隠せる楫棹なくて渡り守舟貸さめやもしましはあり待て
[仮名],わがかくせる,かぢさをなくて,わたりもり,ふねかさめやも,しましはありまて
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2089

[題詞](七夕)

[原文]乾坤之 初時従 天漢 射向居而 一年丹 兩遍不遭 妻戀尓 物念人 天漢 安乃川 原乃 有通 出々乃渡丹 具穂船乃 艫丹裳舳丹裳 船装 真梶繁<抜> 旗<芒> 本葉裳具世 丹 秋風乃 吹<来>夕丹 天<河> 白浪凌 落沸 速湍渉 稚草乃 妻手枕迹 大<舟>乃 思憑 而 滂来等六 其夫乃子我 荒珠乃 年緒長 思来之 戀将盡 七月 七日之夕者 吾毛悲焉
[訓読]天地の 初めの時ゆ 天の川 い向ひ居りて 一年に ふたたび逢はぬ 妻恋ひに 物思ふ人 天の川 安の川原の あり通ふ 出の渡りに そほ舟の 艫にも舳にも 舟装ひ ま楫しじ貫き 旗すすき 本葉もそよに 秋風の 吹きくる宵に 天の川 白波しのぎ 落 ちたぎつ 早瀬渡りて 若草の 妻を巻かむと 大船の 思ひ頼みて 漕ぎ来らむ その夫 の子が あらたまの 年の緒長く 思ひ来し 恋尽すらむ 七月の 七日の宵は 我れも悲し も
[仮名],あめつちの,はじめのときゆ,あまのがは,いむかひをりて,ひととせに,ふたたび あはぬ,つまごひに,ものもふひと,あまのがは,やすのかはらの,ありがよふ,いでのわた りに,そほぶねの,ともにもへにも,ふなよそひ,まかぢしじぬき,はたすすき,もとはもそ よに,あきかぜの,ふきくるよひに,あまのがは,しらなみしのぎ,おちたぎつ,はやせわた りて,わかくさの,つまをまかむと,おほぶねの,おもひたのみて,こぎくらむ,そのつまの こが,あらたまの,としのをながく,おもひこし,こひつくすらむ,ふみつきの,なぬかのよ ひは,われもかなしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]出々 (塙)(楓) 出 / <> → 抜 [西(右書)][元][類][紀] / 荒 → 芒 [万葉考] / <> → 来 [元][類][紀] / 川 → 河 [元][類][紀] / 船 → 舟 [元][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2090

[題詞](七夕)反歌

[原文]狛錦 紐解易之 天人乃 妻問夕叙 吾裳将偲
[訓読]高麗錦紐解きかはし天人の妻問ふ宵ぞ我れも偲はむ
[仮名],こまにしき,ひもときかはし,あめひとの,つまどふよひぞ,われもしのはむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2091

[題詞](七夕)(反歌)

[原文]彦星之 <河>瀬渡 左小舟乃 得行而将泊 河津石所念
[訓読]彦星の川瀬を渡るさ小舟のい行きて泊てむ川津し思ほゆ
[仮名],ひこほしの,かはせをわたる,さをぶねの,いゆきてはてむ,かはづしおもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]川 → 河 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2092

[題詞](七夕)

[原文]天地跡 別之時従 久方乃 天驗常 <定>大王 天之河原尓 璞 月累而 妹尓相 時 候跡 立待尓 吾衣手尓 秋風之 吹反者 立<座> 多土伎乎不知 村肝 心不欲 解衣 思乱 而 何時跡 吾待今夜 此川 行長 有得鴨
[訓読]天地と 別れし時ゆ 久方の 天つしるしと 定めてし 天の川原に あらたまの 月重なりて 妹に逢ふ 時さもらふと 立ち待つに 我が衣手に 秋風の 吹きかへらへば 立ちて居て たどきを知らに むらきもの 心いさよひ 解き衣の 思ひ乱れて いつしか と 我が待つ今夜 この川の 流れの長く ありこせぬかも
[仮名],あめつちと,わかれしときゆ,ひさかたの,あまつしるしと,さだめてし,あまのか はらに,あらたまの,つきかさなりて,いもにあふ,ときさもらふと,たちまつに,わがころ もでに,あきかぜの,ふきかへらへば,たちてゐて,たどきをしらに,むらきもの,こころい さよひ,とききぬの,おもひみだれて,いつしかと,わがまつこよひ,このかはの,ながれの ながく,ありこせぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]弖 → 定 [元][類][紀] / 坐 → 座 [元][類][紀] / 欲 [万葉集古義](塙)(楓) 知欲比
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2093

[題詞](七夕)反歌

[原文]妹尓相 時片待跡 久方乃 天之漢原尓 月叙經来
[訓読]妹に逢ふ時片待つとひさかたの天の川原に月ぞ経にける
[仮名],いもにあふ,ときかたまつと,ひさかたの,あまのかはらに,つきぞへにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]歌 [西] 謌 [西(訂正)] 歌
[_]
[KW],秋雑歌,七夕

2094

[題詞]詠花

[原文]竿志鹿之 心相念 秋芽子之 <鍾>礼零丹 落僧惜毛
[訓読]さを鹿の心相思ふ秋萩のしぐれの降るに散らくし惜しも
[仮名],さをしかの,こころあひおもふ,あきはぎの,しぐれのふるに,ちらくしをしも
[_]
[左注](右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]鐘 → 鍾 [紀]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,動物,植物,季節

2095

[題詞](詠花)

[原文]夕去 野邊秋芽子 末若 露枯 金待難
[訓読]夕されば野辺の秋萩うら若み露にぞ枯るる秋待ちかてに
[仮名],ゆふされば,のへのあきはぎ,うらわかみ,つゆにぞかるる,あきまちかてに
[_]
[左注]右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
[_]
[校異]歌 [西] 謌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,略体,植物,季節

2096

[題詞](詠花)

[原文]真葛原 名引秋風 <毎吹> 阿太乃大野之 芽子花散
[訓読]真葛原靡く秋風吹くごとに阿太の大野の萩の花散る
[仮名],まくずはら,なびくあきかぜ,ふくごとに,あだのおほのの,はぎのはなちる
[_]
[左注]
[_]
[校異]吹毎 → 毎吹 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良県,五条市,地名,植物,季節

2097

[題詞](詠花)

[原文]鴈鳴之 来喧牟日及 見乍将有 此芽子原尓 雨勿零根
[訓読]雁がねの来鳴かむ日まで見つつあらむこの萩原に雨な降りそね
[仮名],かりがねの,きなかむひまで,みつつあらむ,このはぎはらに,あめなふりそね
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,植物

2098

[題詞](詠花)

[原文]奥山尓 住云男鹿之 初夜不去 妻問芽子乃 散久惜裳
[訓読]奥山に棲むといふ鹿の夕さらず妻どふ萩の散らまく惜しも
[仮名],おくやまに,すむといふしかの,よひさらず,つまどふはぎの,ちらまくをしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,植物

2099

[題詞](詠花)

[原文]白露乃 置巻惜 秋芽子乎 折耳折而 置哉枯
[訓読]白露の置かまく惜しみ秋萩を折りのみ折りて置きや枯らさむ
[仮名],しらつゆの,おかまくをしみ,あきはぎを,をりのみをりて,おきやからさむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2100

[題詞](詠花)

[原文]秋田苅 借廬之宿 <丹>穂經及 咲有秋芽子 雖見不飽香聞
[訓読]秋田刈る刈廬の宿りにほふまで咲ける秋萩見れど飽かぬかも
[仮名],あきたかる,かりいほのやどり,にほふまで,さけるあきはぎ,みれどあかぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]尓 → 丹 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,叙景

2101

[題詞](詠花)

[原文]吾衣 <揩>有者不在 高松之 野邊行之者 芽子之<揩>類曽
[訓読]我が衣摺れるにはあらず高松の野辺行きしかば萩の摺れるぞ
[仮名],あがころも,すれるにはあらず,たかまつの,のへゆきしかば,はぎのすれるぞ
[_]
[左注]
[_]
[校異]摺 → 揩 [元] / 摺 → 揩 [元]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,高円,地名,植物

2102

[題詞](詠花)

[原文]此暮 秋風吹奴 白露尓 荒争芽子之 明日将咲見
[訓読]この夕秋風吹きぬ白露に争ふ萩の明日咲かむ見む
[仮名],このゆふへ,あきかぜふきぬ,しらつゆに,あらそふはぎの,あすさかむみむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2103

[題詞](詠花)

[原文]秋風 冷成<奴 馬>並而 去来於野行奈 芽子花見尓
[訓読]秋風は涼しくなりぬ馬並めていざ野に行かな萩の花見に
[仮名],あきかぜは,すずしくなりぬ,うまなめて,いざのにゆかな,はぎのはなみに
[_]
[左注]
[_]
[校異]駑 → 奴馬 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2104

[題詞](詠花)

[原文]朝<杲> 朝露負 咲雖云 暮陰社 咲益家礼
[訓読]朝顔は朝露負ひて咲くといへど夕影にこそ咲きまさりけり
[仮名],あさがほは,あさつゆおひて,さくといへど,ゆふかげにこそ,さきまさりけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]果 → 杲 [元][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,叙景

2105

[題詞](詠花)

[原文]春去者 霞隠 不所見有師 秋芽子咲 折而将挿頭
[訓読]春されば霞隠りて見えずありし秋萩咲きぬ折りてかざさむ
[仮名],はるされば,かすみがくりて,みえずありし,あきはぎさきぬ,をりてかざさむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2106

[題詞](詠花)

[原文]沙額田乃 野邊乃秋芽子 時有者 今盛有 折而将挿頭
[訓読]沙額田の野辺の秋萩時なれば今盛りなり折りてかざさむ
[仮名],さぬかたの,のへのあきはぎ,ときなれば,いまさかりなり,をりてかざさむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,地名,植物

2107

[題詞](詠花)

[原文]事更尓 衣者不<揩> 佳人部為 咲野之芽子尓 丹穂日而将居
[訓読]ことさらに衣は摺らじをみなへし佐紀野の萩ににほひて居らむ
[仮名],ことさらに,ころもはすらじ,をみなへし,さきののはぎに,にほひてをらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]摺 → 揩 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,地名,植物

2108

[題詞](詠花)

[原文]秋風者 急<々>吹来 芽子花 落巻惜三 競<立見>
[訓読]秋風は疾く疾く吹き来萩の花散らまく惜しみ競ひ立たむ見む
[仮名],あきかぜは,とくとくふきこ,はぎのはな,ちらまくをしみ,きほひたたむみむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]之 → 々 [元][紀][温][矢] / 竟 → 立見 [万葉考]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2109

[題詞](詠花)

[原文]我屋前之 芽子之若末長 秋風之 吹南時尓 将開跡思<手>
[訓読]我が宿の萩の末長し秋風の吹きなむ時に咲かむと思ひて
[仮名],わがやどの,はぎのうれながし,あきかぜの,ふきなむときに,さかむとおもひて
[_]
[左注]
[_]
[校異]乎 → 手 [類]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2110

[題詞](詠花)

[原文]人皆者 芽子乎秋云 縦吾等者 乎花之末乎 秋跡者将言
[訓読]人皆は萩を秋と言ふよし我れは尾花が末を秋とは言はむ
[仮名],ひとみなは,はぎをあきといふ,よしわれは,をばながうれを,あきとはいはむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2111

[題詞](詠花)

[原文]玉梓 公之使乃 手折来有 此秋芽子者 雖見不飽鹿裳
[訓読]玉梓の君が使の手折り来るこの秋萩は見れど飽かぬかも
[仮名],たまづさの,きみがつかひの,たをりける,このあきはぎは,みれどあかぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2112

[題詞](詠花)

[原文]吾屋前尓 開有秋芽子 常有者 我待人尓 令見猿物乎
[訓読]我がやどに咲ける秋萩常ならば我が待つ人に見せましものを
[仮名],わがやどに,さけるあきはぎ,つねならば,わがまつひとに,みせましものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2113

[題詞](詠花)

[原文]手寸<十>名相 殖之名知久 出見者 屋前之早芽子 咲尓家類香聞
[訓読]手寸十名相植ゑしなしるく出で見れば宿の初萩咲きにけるかも
[仮名],*****,うゑしなしるく,いでみれば,やどのはつはぎ,さきにけるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 十 [西(右書)][元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,難訓

2114

[題詞](詠花)

[原文]吾屋外尓 殖生有 秋芽子乎 誰標刺 吾尓不所知
[訓読]我が宿に植ゑ生ほしたる秋萩を誰れか標刺す我れに知らえず
[仮名],わがやどに,うゑおほしたる,あきはぎを,たれかしめさす,われにしらえず
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2115

[題詞](詠花)

[原文]手取者 袖并丹覆 美人部師 此白露尓 散巻惜
[訓読]手に取れば袖さへにほふをみなへしこの白露に散らまく惜しも
[仮名],てにとれば,そでさへにほふ,をみなへし,このしらつゆに,ちらまくをしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2116

[題詞](詠花)

[原文]白露尓 荒争金手 咲芽子 散惜兼 雨莫零根
[訓読]白露に争ひかねて咲ける萩散らば惜しけむ雨な降りそね
[仮名],しらつゆに,あらそひかねて,さけるはぎ,ちらばをしけむ,あめなふりそね
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2117

[題詞](詠花)

[原文]D嬬等<尓> 行相乃速稲乎 苅時 成来下 芽子花咲
[訓読]娘女らに行相の早稲を刈る時になりにけらしも萩の花咲く
[仮名],をとめらに,ゆきあひのわせを,かるときに,なりにけらしも,はぎのはなさく
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 尓 [類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2118

[題詞](詠花)

[原文]朝霧之 棚引小野之 芽子花 今哉散濫 未Q尓
[訓読]朝霧のたなびく小野の萩の花今か散るらむいまだ飽かなくに
[仮名],あさぎりの,たなびくをのの,はぎのはな,いまかちるらむ,いまだあかなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節

2119

[題詞](詠花)

[原文]戀之久者 形見尓為与登 吾背子我 殖之秋芽子 花咲尓家里
[訓読]恋しくは形見にせよと我が背子が植ゑし秋萩花咲きにけり
[仮名],こひしくは,かたみにせよと,わがせこが,うゑしあきはぎ,はなさきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2120

[題詞](詠花)

[原文]秋芽子 戀不盡跡 雖念 思恵也安多良思 又将相八方
[訓読]秋萩に恋尽さじと思へどもしゑやあたらしまたも逢はめやも
[仮名],あきはぎに,こひつくさじと,おもへども,しゑやあたらし,またもあはめやも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,恋情

2121

[題詞](詠花)

[原文]秋風者 日異吹奴 高圓之 野邊之秋芽子 散巻惜裳
[訓読]秋風は日に異に吹きぬ高円の野辺の秋萩散らまく惜しも
[仮名],あきかぜは,ひにけにふきぬ,たかまとの,のへのあきはぎ,ちらまくをしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,地名,植物

2122

[題詞](詠花)

[原文]大夫之 心者無而 秋芽子之 戀耳八方 奈積而有南
[訓読]大夫の心はなしに秋萩の恋のみにやもなづみてありなむ
[仮名],ますらをの,こころはなしに,あきはぎの,こひのみにやも,なづみてありなむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2123

[題詞](詠花)

[原文]吾待之 秋者来奴 雖然 芽子之花曽毛 未開家類
[訓読]我が待ちし秋は来たりぬしかれども萩の花ぞもいまだ咲かずける
[仮名],わがまちし,あきはきたりぬ,しかれども,はぎのはなぞも,いまださかずける
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2124

[題詞](詠花)

[原文]欲見 吾待戀之 秋芽子者 枝毛思美三荷 花開二家里
[訓読]見まく欲り我が待ち恋ひし秋萩は枝もしみみに花咲きにけり
[仮名],みまくほり,あがまちこひし,あきはぎは,えだもしみみに,はなさきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,属目

2125

[題詞](詠花)

[原文]春日野之 芽子落者 朝東 風尓副而 此間尓落来根
[訓読]春日野の萩し散りなば朝東風の風にたぐひてここに散り来ね
[仮名],かすがのの,はぎしちりなば,あさごちの,かぜにたぐひて,ここにちりこね
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,地名,植物

2126

[題詞](詠花)

[原文]秋芽子者 於鴈不相常 言有者香 [一云 言有可聞] 音乎聞而者 花尓散去流
[訓読]秋萩は雁に逢はじと言へればか [一云 言へれかも] 声を聞きては花に散りぬる
[仮名],あきはぎは,かりにあはじと,いへればか,[いへれかも],こゑをききては,はなにち りぬる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,植物,異伝

2127

[題詞](詠花)

[原文]秋去者 妹令視跡 殖之芽子 露霜負而 散来毳
[訓読]秋さらば妹に見せむと植ゑし萩露霜負ひて散りにけるかも
[仮名],あきさらば,いもにみせむと,うゑしはぎ,つゆしもおひて,ちりにけるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2128

[題詞]詠鴈

[原文]秋風尓 山跡部越 鴈鳴者 射矢遠放 雲隠筒
[訓読]秋風に大和へ越ゆる雁がねはいや遠ざかる雲隠りつつ
[仮名],あきかぜに,やまとへこゆる,かりがねは,いやとほざかる,くもがくりつつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,地名,動物

2129

[題詞](詠鴈)

[原文]明闇之 朝霧隠 鳴而去 鴈者言戀 於妹告社
[訓読]明け暮れの朝霧隠り鳴きて行く雁は我が恋妹に告げこそ
[仮名],あけぐれの,あさぎりごもり,なきてゆく,かりはあがこひ,いもにつげこそ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物

2130

[題詞](詠鴈)

[原文]吾屋戸尓 鳴之鴈哭 雲上尓 今夜喧成 國方可聞遊群
[訓読]我が宿に鳴きし雁がね雲の上に今夜鳴くなり国へかも行く
[仮名],わがやどに,なきしかりがね,くものうへに,こよひなくなり,くにへかもゆく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物

2131

[題詞](詠鴈)

[原文]左小<壮>鹿之 妻問時尓 月乎吉三 切木四之泣所聞 今時来等霜
[訓読]さを鹿の妻どふ時に月をよみ雁が音聞こゆ今し来らしも
[仮名],さをしかの,つまどふときに,つきをよみ,かりがねきこゆ,いましくらしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [定本万葉集]
[_]
[KW],秋雑歌,動物

2132

[題詞](詠鴈)

[原文]天雲之 外鴈鳴 従聞之 薄垂霜零 寒此夜者 [一云 弥益々尓 戀許曽増焉]
[訓読]天雲の外に雁が音聞きしよりはだれ霜降り寒しこの夜は [一云 いやますます に恋こそまされ]
[仮名],あまくもの,よそにかりがね,ききしより,はだれしもふり,さむしこのよは,[いや ますますに,こひこそまされ]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,恋情

2133

[題詞](詠鴈)

[原文]秋田 吾苅婆可能 過去者 鴈之喧所聞 冬方設而
[訓読]秋の田の我が刈りばかの過ぎぬれば雁が音聞こゆ冬かたまけて
[仮名],あきのたの,わがかりばかの,すぎぬれば,かりがねきこゆ,ふゆかたまけて
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,季節

2134

[題詞](詠鴈)

[原文]葦邊在 荻之葉左夜藝 秋風之 吹来苗丹 鴈鳴渡 [一云 秋風尓 鴈音所聞 今四 来霜]
[訓読]葦辺なる荻の葉さやぎ秋風の吹き来るなへに雁鳴き渡る [一云 秋風に雁が音 聞こゆ今し来らしも]
[仮名],あしへなる,をぎのはさやぎ,あきかぜの,ふきくるなへに,かりなきわたる,[あき かぜに,かりがねきこゆ,いましくらしも]
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,動物,異伝

2135

[題詞](詠鴈)

[原文]押照 難波穿江之 葦邊者 鴈宿有疑 霜乃零尓
[訓読]おしてる難波堀江の葦辺には雁寝たるかも霜の降らくに
[仮名],おしてる,なにはほりえの,あしへには,かりねたるかも,しものふらくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,大阪,地名,動物,植物

2136

[題詞](詠鴈)

[原文]秋風尓 山飛越 鴈鳴之 聲遠離 雲隠良思
[訓読]秋風に山飛び越ゆる雁がねの声遠ざかる雲隠るらし
[仮名],あきかぜに,やまとびこゆる,かりがねの,こゑとほざかる,くもがくるらし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,属目

2137

[題詞](詠鴈)

[原文]朝尓徃 鴈之鳴音者 如吾 物<念>可毛 聲之悲
[訓読]朝に行く雁の鳴く音は我がごとく物思へれかも声の悲しき
[仮名],あさにゆく,かりのなくねは,あがごとく,ものもへれかも,こゑのかなしき
[_]
[左注]
[_]
[校異]尓 → 念 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,動物

2138

[題詞](詠鴈)

[原文]多頭我鳴乃 今朝鳴奈倍尓 鴈鳴者 何處指香 雲隠良<武>
[訓読]鶴がねの今朝鳴くなへに雁がねはいづくさしてか雲隠るらむ
[仮名],たづがねの,けさなくなへに,かりがねは,いづくさしてか,くもがくるらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]哉 → 武 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,動物

2139

[題詞](詠鴈)

[原文]野干玉之 夜<渡>鴈者 欝 幾夜乎歴而鹿 己名乎告
[訓読]ぬばたまの夜渡る雁はおほほしく幾夜を経てかおのが名を告る
[仮名],ぬばたまの,よわたるかりは,おほほしく,いくよをへてか,おのがなをのる
[_]
[左注]
[_]
[校異]度 → 渡 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,枕詞,動物

2140

[題詞](詠鴈)

[原文]璞 年之經徃者 阿跡念登 夜渡吾乎 問人哉誰
[訓読]あらたまの年の経ゆけばあどもふと夜渡る我れを問ふ人や誰れ
[仮名],あらたまの,としのへゆけば,あどもふと,よわたるわれを,とふひとやたれ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,枕詞

2141

[題詞]詠鹿鳴

[原文]比日之 秋朝開尓 霧隠 妻呼雄鹿之 音之亮左
[訓読]このころの秋の朝明に霧隠り妻呼ぶ鹿の声のさやけさ
[仮名],このころの,あきのあさけに,きりごもり,つまよぶしかの,こゑのさやけさ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,叙景

2142

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]左男<壮>鹿之 妻整登 鳴音之 将至極 靡芽子原
[訓読]さを鹿の妻ととのふと鳴く声の至らむ極み靡け萩原
[仮名],さをしかの,つまととのふと,なくこゑの,いたらむきはみ,なびけはぎはら
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [元]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,植物

2143

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]於君戀 裏觸居者 敷野之 秋芽子凌 左<小壮>鹿鳴裳
[訓読]君に恋ひうらぶれ居れば敷の野の秋萩しのぎさを鹿鳴くも
[仮名],きみにこひ,うらぶれをれば,しきののの,あきはぎしのぎ,さをしかなくも
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 小壮 [元]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,植物,恋情,地名

2144

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]鴈来 芽子者散跡 左小<壮>鹿之 鳴成音毛 裏觸丹来
[訓読]雁は来ぬ萩は散りぬとさを鹿の鳴くなる声もうらぶれにけり
[仮名],かりはきぬ,はぎはちりぬと,さをしかの,なくなるこゑも,うらぶれにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [元]
[_]
[KW],秋雑歌,,動物,植物,季節

2145

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]秋芽子之 戀裳不盡者 左<壮>鹿之 聲伊續伊継 戀許増益焉
[訓読]秋萩の恋も尽きねばさを鹿の声い継ぎい継ぎ恋こそまされ
[仮名],あきはぎの,こひもつきねば,さをしかの,こゑいつぎいつぎ,こひこそまされ
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [元]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,動物,恋情

2146

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]山近 家哉可居 左小<壮>鹿乃 音乎聞乍 宿不勝鴨
[訓読]山近く家や居るべきさを鹿の声を聞きつつ寐ねかてぬかも
[仮名],やまちかく,いへやをるべき,さをしかの,こゑをききつつ,いねかてぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [類]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,恋情

2147

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]山邊尓 射去薩雄者 雖大有 山尓文野尓文 沙小<壮>鹿鳴母
[訓読]山の辺にい行くさつ男は多かれど山にも野にもさを鹿鳴くも
[仮名],やまのへに,いゆくさつをは,さはにあれど,やまにものにも,さをしかなくも
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,叙景

2148

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]足日木<笶> 山従来世波 左小<壮>鹿之 妻呼音 聞益物乎
[訓読]あしひきの山より来せばさを鹿の妻呼ぶ声を聞かましものを
[仮名],あしひきの,やまよりきせば,さをしかの,つまよぶこゑを,きかましものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]笑 → 笶 [西(訂正)][元] / 牡 → 壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,枕詞,動物

2149

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]山邊庭 薩雄乃<祢>良比 恐跡 小<壮>鹿鳴成 妻之眼乎欲焉
[訓読]山辺にはさつ男のねらひ畏けどを鹿鳴くなり妻が目を欲り
[仮名],やまへには,さつをのねらひ,かしこけど,をしかなくなり,つまがめをほり
[_]
[左注]
[_]
[校異]尓 → 祢 [元][矢][京] / 牡 → 壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,動物

2150

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]秋芽子之 散去見 欝三 妻戀為良思 棹<壮>鹿鳴母
[訓読]秋萩の散りゆく見ればおほほしみ妻恋すらしさを鹿鳴くも
[仮名],あきはぎの,ちりゆくみれば,おほほしみ,つまごひすらし,さをしかなくも
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,動物

2151

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]山遠 京尓之有者 狭小<壮>鹿之 妻呼音者 乏毛有香
[訓読]山遠き都にしあればさを鹿の妻呼ぶ声は乏しくもあるか
[仮名],やまとほき,みやこにしあれば,さをしかの,つまよぶこゑは,ともしくもあるか
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,動物

2152

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]秋芽子之 散過去者 左<小壮>鹿者 和備鳴将為名 不見者乏焉
[訓読]秋萩の散り過ぎゆかばさを鹿はわび鳴きせむな見ずはともしみ
[仮名],あきはぎの,ちりすぎゆかば,さをしかは,わびなきせむな,みずはともしみ
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 小壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,動物

2153

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]秋芽子之 咲有野邊者 左小<壮>鹿曽 露乎別乍 嬬問四家類
[訓読]秋萩の咲きたる野辺はさを鹿ぞ露を別けつつ妻どひしける
[仮名],あきはぎの,さきたるのへは,さをしかぞ,つゆをわけつつ,つまどひしける
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,動物

2154

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]奈何<壮>鹿之 和備鳴為成 蓋毛 秋野之芽子也 繁将落
[訓読]なぞ鹿のわび鳴きすなるけだしくも秋野の萩や繁く散るらむ
[仮名],なぞしかの,わびなきすなる,けだしくも,あきののはぎや,しげくちるらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,植物

2155

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]秋芽子之 開有野邊 左<壮>鹿者 落巻惜見 鳴去物乎
[訓読]秋萩の咲たる野辺にさを鹿は散らまく惜しみ鳴き行くものを
[仮名],あきはぎの,さきたるのへに,さをしかは,ちらまくをしみ,なきゆくものを
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,動物

2156

[題詞](詠鹿鳴)

[原文]足日木乃 山之跡陰尓 鳴鹿之 聲聞為八方 山田守酢兒
[訓読]あしひきの山の常蔭に鳴く鹿の声聞かすやも山田守らす子
[仮名],あしひきの,やまのとかげに,なくしかの,こゑきかすやも,やまたもらすこ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,枕詞,動物

2157

[題詞]詠蝉

[原文]暮影 来鳴日晩之 幾許 毎日聞跡 不足音可聞
[訓読]夕影に来鳴くひぐらしここだくも日ごとに聞けど飽かぬ声かも
[仮名],ゆふかげに,きなくひぐらし,ここだくも,ひごとにきけど,あかぬこゑかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,季節

2158

[題詞]詠<蟋>

[原文]秋風之 寒吹奈倍 吾屋前之 淺茅之本尓 蟋蟀鳴毛
[訓読]秋風の寒く吹くなへ我が宿の浅茅が本にこほろぎ鳴くも
[仮名],あきかぜの,さむくふくなへ,わがやどの,あさぢがもとに,こほろぎなくも
[_]
[左注]
[_]
[校異]蟋蟀 → 蟋 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,季節

2159

[題詞](詠<蟋>)

[原文]影草乃 生有屋外之 暮陰尓 鳴蟋蟀者 雖聞不足可聞
[訓読]蔭草の生ひたる宿の夕影に鳴くこほろぎは聞けど飽かぬかも
[仮名],かげくさの,おひたるやどの,ゆふかげに,なくこほろぎは,きけどあかぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物

2160

[題詞](詠<蟋>)

[原文]庭草尓 村雨落而 蟋蟀之 鳴音聞者 秋付尓家里
[訓読]庭草に村雨降りてこほろぎの鳴く声聞けば秋づきにけり
[仮名],にはくさに,むらさめふりて,こほろぎの,なくこゑきけば,あきづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,季節

2161

[題詞]詠蝦

[原文]三吉野乃 石本不避 鳴川津 諾文鳴来 河乎浄
[訓読]み吉野の岩もとさらず鳴くかはづうべも鳴きけり川をさやけみ
[仮名],みよしのの,いはもとさらず,なくかはづ,うべもなきけり,かはをさやけみ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,吉野,地名,動物,叙景

2162

[題詞](詠蝦)

[原文]神名火之 山下動 去水丹 川津鳴成 秋登将云鳥屋
[訓読]神なびの山下響み行く水にかはづ鳴くなり秋と言はむとや
[仮名],かむなびの,やましたとよみ,ゆくみづに,かはづなくなり,あきといはむとや
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,飛鳥,地名,動物,季節

2163

[題詞](詠蝦)

[原文]草枕 客尓物念 吾聞者 夕片設而 鳴川津可聞
[訓読]草枕旅に物思ひ我が聞けば夕かたまけて鳴くかはづかも
[仮名],くさまくら,たびにものもひ,わがきけば,ゆふかたまけて,なくかはづかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,枕詞,動物,叙景

2164

[題詞](詠蝦)

[原文]瀬呼速見 落當知足 白浪尓 <河>津鳴奈里 朝夕毎
[訓読]背を早み落ちたぎちたる白波にかはづ鳴くなり朝夕ごとに
[仮名],せをはやみ,おちたぎちたる,しらなみに,かはづなくなり,あさよひごとに
[_]
[左注]
[_]
[校異]川 → 河 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,動物

2165

[題詞](詠蝦)

[原文]上瀬尓 河津妻呼 暮去者 衣手寒三 妻将枕跡香
[訓読]上つ瀬にかはづ妻呼ぶ夕されば衣手寒み妻まかむとか
[仮名],かみつせに,かはづつまよぶ,ゆふされば,ころもでさむみ,つままかむとか
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物

2166

[題詞]詠鳥

[原文]妹手<呼> 取石池之 浪間従 鳥音異鳴 秋過良之
[訓読]妹が手を取石の池の波の間ゆ鳥が音異に鳴く秋過ぎぬらし
[仮名],いもがてを,とろしのいけの,なみのまゆ,とりがねけになく,あきすぎぬらし
[_]
[左注]
[_]
[校異]乎 → 呼 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,大阪府,高石市,地名,枕詞,動物,季節

2167

[題詞](詠鳥)

[原文]秋野之 草花我末 鳴<百舌>鳥 音聞濫香 片聞吾妹
[訓読]秋の野の尾花が末に鳴くもずの声聞きけむか片聞け我妹
[仮名],あきののの,をばながうれに,なくもずの,こゑききけむか,かたきけわぎも
[_]
[左注]
[_]
[校異]舌百 → 百舌 [類] / 濫 [元][類][紀](塙) 監
[_]
[KW],秋雑歌,植物,動物

2168

[題詞]詠露

[原文]冷芽子丹 置白霧 朝々 珠<年>曽見流 置白霧
[訓読]秋萩に置ける白露朝な朝な玉としぞ見る置ける白露
[仮名],あきはぎに,おけるしらつゆ,あさなさな,たまとしぞみる,おけるしらつゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]斗 → 年 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,属目

2169

[題詞](詠露)

[原文]暮立之 雨落毎 [一云 打零者] 春日野之 尾花之上乃 白霧所念
[訓読]夕立ちの雨降るごとに [一云 うち降れば] 春日野の尾花が上の白露思ほゆ
[仮名],ゆふだちの,あめふるごとに[うちふれば],かすがのの,をばながうへの,しらつゆ おもほゆ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,地名,植物

2170

[題詞](詠露)

[原文]秋芽子之 枝毛十尾丹 露霜置 寒毛時者 成尓家類可聞
[訓読]秋萩の枝もとををに露霜置き寒くも時はなりにけるかも
[仮名],あきはぎの,えだもとををに,つゆしもおき,さむくもときは,なりにけるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節

2171

[題詞](詠露)

[原文]白露 与秋芽子者 戀乱 別事難 吾情可聞
[訓読]白露と秋萩とには恋ひ乱れ別くことかたき我が心かも
[仮名],しらつゆと,あきはぎとには,こひみだれ,わくことかたき,あがこころかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2172

[題詞](詠露)

[原文]吾屋戸之 麻花押靡 置露尓 手觸吾妹兒 落巻毛将見
[訓読]我が宿の尾花押しなべ置く露に手触れ我妹子散らまくも見む
[仮名],わがやどの,をばなおしなべ,おくつゆに,てふれわぎもこ,ちらまくもみむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2173

[題詞](詠露)

[原文]白露乎 取者可消 去来子等 露尓争而 芽子之遊将為
[訓読]白露を取らば消ぬべしいざ子ども露に競ひて萩の遊びせむ
[仮名],しらつゆを,とらばけぬべし,いざこども,つゆにきほひて,はぎのあそびせむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2174

[題詞](詠露)

[原文]秋田苅 借廬乎作 吾居者 衣手寒 露置尓家留
[訓読]秋田刈る刈廬を作り我が居れば衣手寒く露ぞ置きにける
[仮名],あきたかる,かりいほをつくり,わがをれば,ころもでさむく,つゆぞおきにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,季節

2175

[題詞](詠露)

[原文]日来之 秋風寒 芽子之花 令散白露 置尓来下
[訓読]このころの秋風寒し萩の花散らす白露置きにけらしも
[仮名],このころの,あきかぜさむし,はぎのはな,ちらすしらつゆ,おきにけらしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節

2176

[題詞](詠露)

[原文]秋田苅 苫手揺奈利 白露<志> 置穂田無跡 告尓来良思 [一云 告尓来良思母]
[訓読]秋田刈る苫手動くなり白露し置く穂田なしと告げに来ぬらし [一云 告げに来 らしも]
[仮名],あきたかる,とまでうごくなり,しらつゆし,おくほだなしと,つげにきぬらし,[つ げにくらしも]
[_]
[左注]
[_]
[校異]者 → 志 [元][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,異伝

2177

[題詞]詠山

[原文]春者毛要 夏者緑丹 紅之 綵色尓所見 秋山可聞
[訓読]春は萌え夏は緑に紅のまだらに見ゆる秋の山かも
[仮名],はるはもえ,なつはみどりに,くれなゐの,まだらにみゆる,あきのやまかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,属目,季節

2178

[題詞]詠黄葉

[原文]妻隠 矢野神山 露霜尓 々寶比始 散巻惜
[訓読]妻ごもる矢野の神山露霜ににほひそめたり散らまく惜しも
[仮名],つまごもる,やののかむやま,つゆしもに,にほひそめたり,ちらまくをしも
[_]
[左注](右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出)
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,地名,季節

2179

[題詞](詠黄葉)

[原文]朝露尓 染始 秋山尓 <鍾>礼莫零 在渡金
[訓読]朝露ににほひそめたる秋山にしぐれな降りそありわたるがね
[仮名],あさつゆに,にほひそめたる,あきやまに,しぐれなふりそ,ありわたるがね
[_]
[左注]右二首柿本朝臣人麻呂之歌集出
[_]
[校異]鐘 → 鍾 [元][紀] / 歌 [西] 謌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,季節

2180

[題詞](詠黄葉)

[原文]九月乃 <鍾>礼乃雨丹 沾通 春日之山者 色付丹来
[訓読]九月のしぐれの雨に濡れ通り春日の山は色づきにけり
[仮名],ながつきの,しぐれのあめに,ぬれとほり,かすがのやまは,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]鐘 → 鍾 [元][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,地名,季節,属目

2181

[題詞](詠黄葉)

[原文]鴈鳴之 寒朝開之 露有之 春日山乎 令黄物者
[訓読]雁が音の寒き朝明の露ならし春日の山をもみたすものは
[仮名],かりがねの,さむきあさけの,つゆならし,かすがのやまを,もみたすものは
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,地名,動物

2182

[題詞](詠黄葉)

[原文]比日之 暁露丹 吾屋前之 芽子乃下葉者 色付尓家里
[訓読]このころの暁露に我がやどの萩の下葉は色づきにけり
[仮名],このころの,あかときつゆに,わがやどの,はぎのしたばは,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節

2183

[題詞](詠黄葉)

[原文]鴈<音>者 今者来鳴沼 吾待之 黄葉早継 待者辛苦母
[訓読]雁がねは今は来鳴きぬ我が待ちし黄葉早継げ待たば苦しも
[仮名],かりがねは,いまはきなきぬ,わがまちし,もみちはやつげ,またばくるしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]鳴 → 音 [元][類][温][京]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,植物

2184

[題詞](詠黄葉)

[原文]秋山乎 謹人懸勿 忘西 其黄葉乃 所思君
[訓読]秋山をゆめ人懸くな忘れにしその黄葉の思ほゆらくに
[仮名],あきやまを,ゆめひとかくな,わすれにし,そのもみちばの,おもほゆらくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2185

[題詞](詠黄葉)

[原文]大坂乎 吾越来者 二上尓 黄葉流 志具礼零乍
[訓読]大坂を我が越え来れば二上に黄葉流るしぐれ降りつつ
[仮名],おほさかを,わがこえくれば,ふたかみに,もみちばながる,しぐれふりつつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良県,地名,植物,季節

2186

[題詞](詠黄葉)

[原文]秋去者 置白露尓 吾門乃 淺茅何浦葉 色付尓家里
[訓読]秋されば置く白露に我が門の浅茅が末葉色づきにけり
[仮名],あきされば,おくしらつゆに,わがかどの,あさぢがうらば,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節

2187

[題詞](詠黄葉)

[原文]妹之袖 巻来乃山之 朝露尓 仁寶布黄葉之 散巻惜裳
[訓読]妹が袖巻来の山の朝露ににほふ黄葉の散らまく惜しも
[仮名],いもがそで,まききのやまの,あさつゆに,にほふもみちの,ちらまくをしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]巻 [元][類](塙) 莫
[_]
[KW],秋雑歌,地名,枕詞,植物,季節

2188

[題詞](詠黄葉)

[原文]黄葉之 丹穂日者繁 然鞆 妻梨木乎 手折可佐寒
[訓読]黄葉のにほひは繁ししかれども妻梨の木を手折りかざさむ
[仮名],もみちばの,にほひはしげし,しかれども,つまなしのきを,たをりかざさむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2189

[題詞](詠黄葉)

[原文]露霜乃 寒夕之 秋風丹 黄葉尓来毛 妻梨之木者
[訓読]露霜の寒き夕の秋風にもみちにけらし妻梨の木は
[仮名],つゆしもの,さむきゆふへの,あきかぜに,もみちにけらし,つまなしのきは
[_]
[左注]
[_]
[校異]毛 (塙)(楓) 之
[_]
[KW],秋雑歌,植物,属目,季節

2190

[題詞](詠黄葉)

[原文]吾門之 淺茅色就 吉魚張能 浪柴乃野之 黄葉散良新
[訓読]我が門の浅茅色づく吉隠の浪柴の野の黄葉散るらし
[仮名],わがかどの,あさぢいろづく,よなばりの,なみしばののの,もみちちるらし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,桜井市,地名,植物,季節

2191

[題詞](詠黄葉)

[原文]鴈之鳴乎 聞鶴奈倍尓 高松之 野上<乃>草曽 色付尓家留
[訓読]雁が音を聞きつるなへに高松の野の上の草ぞ色づきにける
[仮名],かりがねを,ききつるなへに,たかまつの,ののうへのくさぞ,いろづきにける
[_]
[左注]
[_]
[校異]之 → 乃 [元][類][紀][温]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,高円,地名,動物,植物,季節,属目

2192

[題詞](詠黄葉)

[原文]吾背兒我 白細衣 徃觸者 應染毛 黄變山可聞
[訓読]我が背子が白栲衣行き触ればにほひぬべくももみつ山かも
[仮名],わがせこが,しろたへころも,ゆきふれば,にほひぬべくも,もみつやまかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,季節,属目

2193

[題詞](詠黄葉)

[原文]秋風之 日異吹者 水莫能 岡之木葉毛 色付尓家里
[訓読]秋風の日に異に吹けば水茎の岡の木の葉も色づきにけり
[仮名],あきかぜの,ひにけにふけば,みづくきの,をかのこのはも,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節,属目

2194

[題詞](詠黄葉)

[原文]鴈鳴乃 来鳴之共 韓衣 裁田之山者 黄始南
[訓読]雁がねの来鳴きしなへに韓衣龍田の山はもみちそめたり
[仮名],かりがねの,きなきしなへに,からころも,たつたのやまは,もみちそめたり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良県,生駒郡,地名,動物,植物,枕詞,季節

2195

[題詞](詠黄葉)

[原文]鴈之鳴 聲聞苗荷 明日従者 借香能山者 黄始南
[訓読]雁がねの声聞くなへに明日よりは春日の山はもみちそめなむ
[仮名],かりがねの,こゑきくなへに,あすよりは,かすがのやまは,もみちそめなむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,地名,動物,季節

2196

[題詞](詠黄葉)

[原文]四具礼能雨 無間之零者 真木葉毛 争不勝而 色付尓家里
[訓読]しぐれの雨間なくし降れば真木の葉も争ひかねて色づきにけり
[仮名],しぐれのあめ,まなくしふれば,まきのはも,あらそひかねて,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節

2197

[題詞](詠黄葉)

[原文]灼然 四具礼乃雨者 零勿國 大城山者 色付尓家里 [謂大城山者 在筑前<國>御 笠郡之大野山頂 号曰大城者也]
[訓読]いちしろくしぐれの雨は降らなくに大城の山は色づきにけり [謂大城山者 在 筑前<國>御笠郡之大野山頂 号曰大城者也]
[仮名],いちしろく,しぐれのあめは,ふらなくに,おほきのやまは,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 國 [元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,福岡県,太宰府,地名,季節,属目

2198

[題詞](詠黄葉)

[原文]風吹者 黄葉散乍 小雲 吾松原 清在莫國
[訓読]風吹けば黄葉散りつつすくなくも吾の松原清くあらなくに
[仮名],かぜふけば,もみちちりつつ,すくなくも,あがのまつばら,きよくあらなくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,三重県,地名,植物

2199

[題詞](詠黄葉)

[原文]物念 隠座而 今日見者 春日山者 色就尓家里
[訓読]物思ふと隠らひ居りて今日見れば春日の山は色づきにけり
[仮名],ものもふと,こもらひをりて,けふみれば,かすがのやまは,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,地名,季節,属目

2200

[題詞](詠黄葉)

[原文]九月 白露負而 足日木乃 山之将黄變 見幕下吉
[訓読]九月の白露負ひてあしひきの山のもみたむ見まくしもよし
[仮名],ながつきの,しらつゆおひて,あしひきの,やまのもみたむ,みまくしもよし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,枕詞,季節,植物

2201

[題詞](詠黄葉)

[原文]妹許跡 馬鞍置而 射駒山 撃越来者 紅葉散筒
[訓読]妹がりと馬に鞍置きて生駒山うち越え来れば黄葉散りつつ
[仮名],いもがりと,うまにくらおきて,いこまやま,うちこえくれば,もみちちりつつ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良県,地名,植物,季節,属目

2202

[題詞](詠黄葉)

[原文]黄葉為 時尓成良之 月人 楓枝乃 色付見者
[訓読]黄葉する時になるらし月人の桂の枝の色づく見れば
[仮名],もみちする,ときになるらし,つきひとの,かつらのえだの,いろづくみれば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節,属目

2203

[題詞](詠黄葉)

[原文]里異 霜者置良之 高松 野山司之 色付見者
[訓読]里ゆ異に霜は置くらし高松の野山づかさの色づく見れば
[仮名],さとゆけに,しもはおくらし,たかまつの,のやまづかさの,いろづくみれば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,高円,地名,季節,属目

2204

[題詞](詠黄葉)

[原文]秋風之 日異吹者 露重 芽子之下葉者 色付来
[訓読]秋風の日に異に吹けば露を重み萩の下葉は色づきにけり
[仮名],あきかぜの,ひにけにふけば,つゆをおもみ,はぎのしたばは,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節,属目

2205

[題詞](詠黄葉)

[原文]秋芽子乃 下葉赤 荒玉乃 月之歴去者 風疾鴨
[訓読]秋萩の下葉もみちぬあらたまの月の経ぬれば風をいたみかも
[仮名],あきはぎの,したばもみちぬ,あらたまの,つきのへぬれば,かぜをいたみかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節

2206

[題詞](詠黄葉)

[原文]真十鏡 見名淵山者 今日鴨 白露置而 黄葉将散
[訓読]まそ鏡南淵山は今日もかも白露置きて黄葉散るらむ
[仮名],まそかがみ,みなぶちやまは,けふもかも,しらつゆおきて,もみちちるらむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,飛鳥,地名,季節,枕詞

2207

[題詞](詠黄葉)

[原文]吾屋戸之 淺茅色付 吉魚張之 夏身之上尓 四具礼零疑
[訓読]我がやどの浅茅色づく吉隠の夏身の上にしぐれ降るらし
[仮名],わがやどの,あさぢいろづく,よなばりの,なつみのうへに,しぐれふるらし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良県,桜井市,地名,植物,季節

2208

[題詞](詠黄葉)

[原文]鴈鳴之 寒鳴従 水茎之 岡乃葛葉者 色付尓来
[訓読]雁がねの寒く鳴きしゆ水茎の岡の葛葉は色づきにけり
[仮名],かりがねの,さむくなきしゆ,みづくきの,をかのくずはは,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,枕詞,動物,植物,季節

2209

[題詞](詠黄葉)

[原文]秋芽子之 下葉乃黄葉 於花継 時過去者 後将戀鴨
[訓読]秋萩の下葉の黄葉花に継ぎ時過ぎゆかば後恋ひむかも
[仮名],あきはぎの,したばのもみち,はなにつぎ,ときすぎゆかば,のちこひむかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2210

[題詞](詠黄葉)

[原文]明日香河 黄葉流 葛木 山之木葉者 今之<落>疑
[訓読]明日香川黄葉流る葛城の山の木の葉は今し散るらし
[仮名],あすかがは,もみちばながる,かづらきの,やまのこのはは,いましちるらし
[_]
[左注]
[_]
[校異]散 → 落 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,飛鳥,地名,植物,季節

2211

[題詞](詠黄葉)

[原文]妹之紐 解登結而 立田山 今許曽黄葉 始而有家礼
[訓読]妹が紐解くと結びて龍田山今こそもみちそめてありけれ
[仮名],いもがひも,とくとむすびて,たつたやま,いまこそもみち,そめてありけれ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良県,生駒郡,地名,植物,季節

2212

[題詞](詠黄葉)

[原文]鴈鳴之 <寒>喧之従 春日有 三笠山者 色付丹家里
[訓読]雁がねの寒く鳴きしゆ春日なる御笠の山は色づきにけり
[仮名],かりがねの,さむくなきしゆ,かすがなる,みかさのやまは,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]<> → 寒 [新校]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,地名,動物,季節,属目

2213

[題詞](詠黄葉)

[原文]比者之 五更露尓 吾屋戸乃 秋之芽子原 色付尓家里
[訓読]このころの暁露に我が宿の秋の萩原色づきにけり
[仮名],このころの,あかときつゆに,わがやどの,あきのはぎはら,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節,属目

2214

[題詞](詠黄葉)

[原文]夕去者 鴈之越徃 龍田山 四具礼尓競 色付尓家里
[訓読]夕されば雁の越え行く龍田山しぐれに競ひ色づきにけり
[仮名],ゆふされば,かりのこえゆく,たつたやま,しぐれにきほひ,いろづきにけり
[_]
[左注]
[_]
[校異]尓 [元][類](塙) 丹
[_]
[KW],秋雑歌,奈良県,生駒郡,地名,動物,季節,属目

2215

[題詞](詠黄葉)

[原文]左夜深而 四具礼勿零 秋芽子之 本葉之黄葉 落巻惜裳
[訓読]さ夜更けてしぐれな降りそ秋萩の本葉の黄葉散らまく惜しも
[仮名],さよふけて,しぐれなふりそ,あきはぎの,もとはのもみち,ちらまくをしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,哀惜,季節

2216

[題詞](詠黄葉)

[原文]古郷之 始黄葉乎 手折<以> 今日曽吾来 不見人之為
[訓読]故郷の初黄葉を手折り持ち今日ぞ我が来し見ぬ人のため
[仮名],ふるさとの,はつもみちばを,たをりもち,けふぞわがこし,みぬひとのため
[_]
[左注]
[_]
[校異]以而 → 以 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2217

[題詞](詠黄葉)

[原文]君之家<乃> 黄葉早者 落 四具礼乃雨尓 所沾良之母
[訓読]君が家の黄葉は早く散りにけりしぐれの雨に濡れにけらしも
[仮名],きみがいへの,もみちばははやく,ちりにけり,しぐれのあめに,ぬれにけらしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]乃之 → 乃 [紀] / 早者 (塙) 者早
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節

2218

[題詞](詠黄葉)

[原文]一年 二遍不行 秋山乎 情尓不飽 過之鶴鴨
[訓読]一年にふたたび行かぬ秋山を心に飽かず過ぐしつるかも
[仮名],ひととせに,ふたたびゆかぬ,あきやまを,こころにあかず,すぐしつるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,季節

2219

[題詞]詠水田

[原文]足曳之 山田佃子 不秀友 縄谷延与 守登知金
[訓読]あしひきの山田作る子秀でずとも縄だに延へよ守ると知るがね
[仮名],あしひきの,やまたつくるこ,ひでずとも,なはだにはへよ,もるとしるがね
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,比喩

2220

[題詞](詠水田)

[原文]左小<壮>鹿之 妻喚山之 岳邊在 早田者不苅 霜者雖零
[訓読]さを鹿の妻呼ぶ山の岡辺なる早稲田は刈らじ霜は降るとも
[仮名],さをしかの,つまよぶやまの,をかへなる,わさだはからじ,しもはふるとも
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [元][類]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,比喩

2221

[題詞](詠水田)

[原文]<我>門尓 禁田乎見者 沙穂内之 秋芽子為酢寸 所念鴨
[訓読]我が門に守る田を見れば佐保の内の秋萩すすき思ほゆるかも
[仮名],わがかどに,もるたをみれば,さほのうちの,あきはぎすすき,おもほゆるかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]祇 → 我 [西(右書)][元][類][紀]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節

2222

[題詞]詠河

[原文]暮不去 河蝦鳴成 三和河之 清瀬音乎 聞師吉毛
[訓読]夕さらずかはづ鳴くなる三輪川の清き瀬の音を聞かくしよしも
[仮名],ゆふさらず,かはづなくなる,みわがはの,きよきせのおとを,きかくしよしも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良県,桜井市,地名,動物,土地讃美

2223

[題詞]詠月

[原文]天海 月船浮 桂梶 懸而滂所見 月人<壮>子
[訓読]天の海に月の舟浮け桂楫懸けて漕ぐ見ゆ月人壮士
[仮名],あめのうみに,つきのふねうけ,かつらかぢ,かけてこぐみゆ,つきひとをとこ
[_]
[左注]
[_]
[校異]牡 → 壮 [類][紀][温]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2224

[題詞](詠月)

[原文]此夜等者 沙夜深去良之 鴈鳴乃 所聞空従 月立度
[訓読]この夜らはさ夜更けぬらし雁が音の聞こゆる空ゆ月立ち渡る
[仮名],このよらは,さよふけぬらし,かりがねの,きこゆるそらゆ,つきたちわたる
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,属目

2225

[題詞](詠月)

[原文]吾背子之 挿頭之芽子尓 置露乎 清見世跡 月者照良思
[訓読]我が背子がかざしの萩に置く露をさやかに見よと月は照るらし
[仮名],わがせこが,かざしのはぎに,おくつゆを,さやかにみよと,つきはてるらし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,属目

2226

[題詞](詠月)

[原文]無心 秋月夜之 物念跡 寐不所宿 照乍本名
[訓読]心なき秋の月夜の物思ふと寐の寝らえぬに照りつつもとな
[仮名],こころなき,あきのつくよの,ものもふと,いのねらえぬに,てりつつもとな
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,季節,風景讃美

2227

[題詞](詠月)

[原文]不念尓 四具礼乃雨者 零有跡 天雲霽而 月夜清焉
[訓読]思はぬにしぐれの雨は降りたれど天雲晴れて月夜さやけし
[仮名],おもはぬに,しぐれのあめは,ふりたれど,あまくもはれて,つくよさやけし
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,讃美

2228

[題詞](詠月)

[原文]芽子之花 開乃乎再入緒 見代跡可聞 月夜之清 戀益良國
[訓読]萩の花咲きのををりを見よとかも月夜の清き恋まさらくに
[仮名],はぎのはな,さきのををりを,みよとかも,つくよのきよき,こひまさらくに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物

2229

[題詞](詠月)

[原文]白露乎 玉作有 九月 在明之月夜 雖見不飽可聞
[訓読]白露を玉になしたる九月の有明の月夜見れど飽かぬかも
[仮名],しらつゆを,たまになしたる,ながつきの,ありあけのつくよ,みれどあかぬかも
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,讃美

2230

[題詞]詠風

[原文]戀乍裳 稲葉掻別 家居者 乏不有 秋之暮風
[訓読]恋ひつつも稲葉かき別け家居れば乏しくもあらず秋の夕風
[仮名],こひつつも,いなばかきわけ,いへをれば,ともしくもあらず,あきのゆふかぜ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,季節

2231

[題詞](詠風)

[原文]芽子花 咲有野邊 日晩之乃 鳴奈流共 秋風吹
[訓読]萩の花咲きたる野辺にひぐらしの鳴くなるなへに秋の風吹く
[仮名],はぎのはな,さきたるのへに,ひぐらしの,なくなるなへに,あきのかぜふく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,動物,季節

2232

[題詞](詠風)

[原文]秋山之 木葉文未赤者 今旦吹風者 霜毛置應久
[訓読]秋山の木の葉もいまだもみたねば今朝吹く風は霜も置きぬべく
[仮名],あきやまの,このはもいまだ,もみたねば,けさふくかぜは,しももおきぬべく
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,季節

2233

[題詞]詠芳

[原文]高松之 此峯迫尓 笠立而 盈盛有 秋香乃吉者
[訓読]高松のこの峰も狭に笠立てて満ち盛りたる秋の香のよさ
[仮名],たかまつの,このみねもせに,かさたてて,みちさかりたる,あきのかのよさ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,奈良,高円,地名,讃美,季節

2234

[題詞]詠雨

[原文]一日 千重敷布 我戀 妹當 為暮零礼見
[訓読]一日には千重しくしくに我が恋ふる妹があたりにしぐれ降れ見む
[仮名],ひとひには,ちへしくしくに,あがこふる,いもがあたりに,しぐれふれみむ
[_]
[左注]右一首柿本朝臣人<麻呂>之歌集出
[_]
[校異]麿 → 麻呂 [元][紀][温] / 歌 [西] 謌
[_]
[KW],秋雑歌,作者:柿本人麻呂歌集,非略体,恋情,季節

2235

[題詞](詠雨)

[原文]秋田苅 客乃廬入尓 四具礼零 我袖沾 干人無二
[訓読]秋田刈る旅の廬りにしぐれ降り我が袖濡れぬ干す人なしに
[仮名],あきたかる,たびのいほりに,しぐれふり,わがそでぬれぬ,ほすひとなしに
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,羈旅

2236

[題詞](詠雨)

[原文]玉手次 不懸時無 吾戀 此具礼志零者 沾乍毛将行
[訓読]玉たすき懸けぬ時なし我が恋はしぐれし降らば濡れつつも行かむ
[仮名],たまたすき,かけぬときなし,あがこひは,しぐれしふらば,ぬれつつもゆかむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,枕詞,恋情

2237

[題詞](詠雨)

[原文]黄葉乎 令落四具礼能 零苗尓 夜副衣寒 一之宿者
[訓読]黄葉を散らすしぐれの降るなへに夜さへぞ寒きひとりし寝れば
[仮名],もみちばを,ちらすしぐれの,ふるなへに,よさへぞさむき,ひとりしぬれば
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,植物,季節,恋情

2238

[題詞]詠霜

[原文]天飛也 鴈之翅乃 覆羽之 何處漏香 霜之零異牟
[訓読]天飛ぶや雁の翼の覆ひ羽のいづく漏りてか霜の降りけむ
[仮名],あまとぶや,かりのつばさの,おほひばの,いづくもりてか,しものふりけむ
[_]
[左注]
[_]
[校異]
[_]
[KW],秋雑歌,動物,季節