University of Virginia Library

大中臣能宣集に世の中の常なきことを見て、萬葉集の中に「世の中を何にたとへん」といふ歌をもとにして下句をかへて十づつ大中臣能宣・源順・紀時文などして讀み侍りし中に

世の中を何にととへん
下きえの氷閉ぢたる春の池水
夏草に舍る螢のよるの灯
ささがにの絲もてぬける露の白玉
ぬま水のあはれゆくへを頼む浮草
さ夜ふけて半ば入りぬる山の端の月
風寒み暮れ行く秋のうつせみの聲
吹く風にとまり定めぬ蜑の釣舟
神無月時雨つきぬる紅葉の色
霜をいたみ色かはりゆく淺茅生の野邊
和田の原うちきらし降る波の上の雪
ともし火を見つつ集る夏の夜の蟲
草の葉の露にやどりて見ゆる月影