University of Virginia Library

源順

康和三年八月四日、五つになるをの子を失ひつ、ことにふれて悲しみの泪乾かず、古萬葉集の中に「世の中を何にたとへん」といふことを上にすゑて下の句あまたよめる

世の中を何にたとへん
あかねさす朝日まつまの花の上の露
夕つゆもまたで枯れぬる朝顏の花
飛鳥川定めなきせにたぎつ水泡の
うたたねの夢路ばかりにかよふ玉鉾
風ふけば行くへも知らぬ峯の白雲
水はやみかつ崩れゆく岸の姫松
秋の田を仄にてらす宵のいなづま
濁り江のそこに半ばは舍る月影
草も木も枯れゆくほどの野べの蟲の音
冬寒みふると見るまにけぬる白雪