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14. 菟玖波集卷第十四
雜連歌三
從二位家隆
後鳥羽院御時、百韻の連歌たてまつりける中に
にほてるや鳰のさざ波うつり來て
後深草院少將
あさりする汐干のかたのうつせ貝
後嵯峨院御製
うら悲しきは浦のともし火
源家長朝臣
伊勢をの蜑の夜半の釣舟
前中納言爲相
風あるる浦の小舟に波こえて
後鳥羽院御製
芦火たくなだの鹽屋のうら風に
讀人しらず
釣たるる舟をこよひの隣にて
承胤法親王
波風をあらそふ音や聞ゆらん
前中納言有光
浦ははや汐さす程に鳴海潟
夢窓國師
波にうきたる浦の松原
救濟法師
難波の芦は伊勢の濱荻
道生法師
洲崎なる松の梢に風越えて
中原遠康
波の上なる山の松原
勝圓法師
うしほより吹きたる風の音聞きて
大江宣清
捨舟の中にはたまる水ありて
後深草院辨内侍
沖中にわれたる舟の綱手繩
二品法親王
青葉の松を高砂の浦
良阿法師
たらちねのおふの浦波うつたびに
權少僧都永運
浦島みえて近きみづうみ
寂意法師
松原のあなたの浦は汐干にて
源氏種
蜑人は誰を友とか思ふらん
藤原定信
藻汐くむ海士の衣をほしかねて
禪顯法師
浦にある松一むらと見えながら
中原遠實
島がくれなる浦の松原
寂忍法師
袖までぬらす須磨のうら波
關白前左大臣
なかなかに佗びぬは海士の心にて
寂意法師
ともす火や遠き夜舟を知らすらん
道元法師
海士のすむ里には家もつづかぬに
眞阿法師
浦々の里かと思ふゆふけぶり
胤憲法師
山見えぬ波の上より夜は明けて
頓阿法師
入日にちかき沖の釣舟
藏人清藤
後醍醐院の御時、節會の日御劍のうせたりけるに
紀宗基
と侍りしに
寂忍法師
和歌の浦に多かる玉を拾ふとて
救濟法師
しほ竈を都にうつす殿作り
京月法師
山のゆきあひの水のしらなみ
六條内大臣
ひだたくみ杣の筏を下すかな
慈願法師
きしの額を洗ふ白波
導譽法師
鳰のふるすの殘る芦原
前右近大將頼朝
秀衡征討の爲に奧州にむかひ侍りける時、名取川を渡るとて
平景時
法印時宗
山川のはしのかたがた先落ちて
善阿法師
古き筧は水もつたはず
覺勝法師
水つたふ竹の筧の末たえて
前大納言忠信
後鳥羽院の御時、百韻連歌奉りける中に
吹く風に拾ふ玉藻のみがくれて
救濟法師
川越えのむかひの里に人住みて
林阿法師
谷川の淺き流れは橋もなし
藤原冬隆朝臣
せき入るる心のみゆる音羽川
藤原知春
網代にかかる宇治の川波
大江成種
山風の音より上に瀧おちて
神爲清
これやこの妹背の川の瀧つ波
樂阿法師
山水の流れは松に木がくれて
信實朝臣
ふき重ねたる芦の屋の里
伊勢大輔
水の泡よりげにぞはかなき
素暹法師
はやき瀬の水のうたかた消えもせで
二品法親王
岩こす波も松風ぞ吹く
後嵯峨院御製
はつせ川汲めどたまらぬ水車
西山の瀧おとしたるところの障子に
俊頼朝臣
と書きて侍りけるに、そばに書き付け侍りける
よみ人しらず
まつ人のこよひは橋の下にゐて
導譽法師
捨舟の古きや橋となりぬらん
たかぬ火の煙は松に見えながら
藤原高秀
山人のこよひは浦にとどまりて
素阿法師
川波は水の車の輪をこえて
木鎭法師
檜原のあらし三輪の川音
前大納言尊氏
あさ瀬も淵も雨とこそなれ
前大納言尊氏
芹川のさざれふみたる跡なれや
前大納言公任
殿上のをの子ども桂川に逍遙し侍りけるに、夜に入りて歸るとて、川を渡り侍るに、星の影の水にうつりて見えければ、
實方朝臣
と侍るに
貞任・宗任が衣の城おとしておひかけて
安倍貞任
と侍るに、馬の鼻をかへして
二品法親王
いましむるその盃を手にとるな
信照法師
十寸鏡うらにはうつる影もなし
小槻千宣
玉くしげあらぬかけごを取りかへて
六條内大臣
麻ぎぬのはたばりせばきまくり手に
關白前左大臣
物にそむ心はとなり斯くなりて
前大納言尊氏
四つの時の花ほととぎす月雪に
前大納言尊氏
ただしばし肱を枕の醉の中
信照法師
同じ木に二度ぞ見る花紅葉
南佛法師
春秋のなごり二たびしたひ來て
二品法親王
花紅葉いづれも散るを惜しむまに
素阿法師
かずあまた見えたる文の卷卷に
蓮知法師
今までは代々にたえせぬ倭歌
順覺法師
うき戀の心をよめる歌合
安倍宗時
ちかづくべきはまことある人
藤原宗秀
武士の野にふしまきの弓かげに
善阿法師
とり馴るるその左手のしらま弓
源信武
今までもとりつたへたる梓弓
前大納言尊氏
車を作るたくみなりけり
性遵法師
市に賣る炭一車やり出だし
素阿法師
小車をやり止むるにしぢ立てて
常曉法師
野に放つ駒のあしたに跡とひて
源顯氏朝臣
弓とりは引き返さぬを道にして
源秀賢
弓矢をばその家々にとるものを
周阿法師
弓取は馬の口をも引きつべし
導譽法師
爭ふは左り右りのきほひ馬
性遵法師
唐國の虎まだら毛の犬吠えて
救濟法師
猿叫ぶ岩根がくれの苔の水
源成賢朝臣
うきことは誰もましらの鳴く聲に
前大納言尊氏
鳥は南の枝にこそすめ
十佛法師
籠のうちを忘れ易きは放ち鳥
建長の頃、毘舍門堂の花の下の連歌に
素暹法師
といふ難句の侍りけるに
源光憲
鷺鴉ひとつ梢の松にゐて
妙葩上人
竹に騷ぐやね鳥なるらん
周阿法師
友鶴の相生に鳴く音をそへて
藤原長泰
鷄のおのが時しる音を鳴きて
後光明照院前關白左大臣
夕はわきて立つ煙かな
西園寺入道前太政大臣
後鳥羽院御時、百韻連歌奉りけるに
風騷ぐ雲の旗手の夕暮に
信實朝臣
夕暮はその色とだに見えわかで
遊女龜王
我ははや奈良の都を住みかへて
源頼康
これもまた百敷なりし小島山
禪源法師
山里は雲もけぶりも夕にて
中原貞頼
篠の屋のひまもる風を枕にて
二品法親王
雨にまよふや嵐なるらん
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