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三 長歌

しき島や  やまとの國は  あめつちの  ひらけ初めし
むかしより  岩戸をあけて  おもしろき  かぐらのことば
うたひてし  さればかしこき  ためしとて  ひじりの御世の
みちしるく  人のこゝろを  たねとして  よろづのわざを
ことのはに  おにがみまでも  あはれとて  八島の外の
よつのうみ  波もしづかに  をさまりて  空ふく風も
やはらかに  枝もならさず  ふるあめも  時さだまれば
きみぎみの  みことのまゝに  したがひて  わかの浦路の
もしほぐさ  かきあつめたる  あとおほく  それが中にも
名をとめて  三代までつぎし  人の子の  親のとりわき
ゆづりてし  そのまことさへ  ありながら  おもへばいやし
しなのなる  そのはゝき木の  そのはらに  たねをまきたる
とがとてや  世にもつかへよ  いける世の  身をたすけよと
ちぎりおく  須磨と明石の  つゞきなる  細川山の
山がはの  わづかにいのち  かけひとて  つたひし水の
みなかみも  せきとめられて  いまはたゞ  くがにあがれる
いをのごと  かぢをたえたる  ふねのごと  よるかたもなく
わびはつる  子を思ふとて  よるのつる  なく/\みやこ
いでしかど  身はかずならず  かまくらの  世のまつりごと
しげければ  きこえあげてし  ことのはも  枝にこもりて
梅のはな  四とせの春に  なりにけり  行くへもしらぬ
なかぞらの  風にまかする  ふるさとは  軒端もあれて
さゝがにの  いかさまにかは  なりぬらん  世々の跡ある
玉づさも  さて朽ちはてば  あしはらの  道もすたれて
いかならん  これをおもへば  わたくしの  なげきのみかは
世のためも  つらきためしと  なりぬべし  行くさきかけて
さま%\に  かきのこされし  筆のあと  かへす%\も
いつはりと  おもはましかば  ことわりを  たゞすの森の
ゆふしでに  やよやいさゝか  かけてとへ  みだりがはしき
すゑの世に  麻はあとなく  なりぬとか  いさめおきしを
わすれずば  ゆがめることを  またたれか  ひき直すべき
とばかりに  身をかへりみず  たのむぞよ  そのよを聞けば
さてもさは  のこるよもぎと  かこちてし  人のなさけも
かゝりけり  おなじ播磨の  さかひとて  一つながれを
くみしかば  野中の清水  よどむとも  もとのこゝろに
まかせつゝ  とゞこほりなき  みづくきの  あとさへあらば
いとゞしく  鶴が岡べの  朝日かげ  八千代のひかり
さしそへて  あきらけき世の  なほもさかえむ
ながかれと朝夕いのる君が代を
やまとことばにけふぞのべつる
十六夜日記 終