蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||
郢月泉のあるじ巴人庵の門に入て予とちぎり深き人なり、ことし末の冬中の五日なきひとの數に入ぬときゝて
耳さむし其もち月の頃留り
借具足われになじまぬ寒哉
井のもとへ薄刄を落す寒哉
水鳥も見へぬ江わたるさむさ哉
眞金はむ鼠の牙の音寒し
雪舟の不二雪信が佐野いづれか寒き
炭賣に日のくれかゝる師走哉
面影のかはらけ/\としのくれ
行年や氷にのこすもとの水
行年の女歌舞妓や夜の梅
行としのめざまし草や茶筌賣
冬ざれや北の家陰の韮を刈
冬ざれて韮の羹喰ひけり
石となる樟の梢や冬の月
のり合に渡唐の僧や冬の月
寒月に薪を割寺の男かな
寒月や僧に行合ふ橋の上
寒月や開山堂の木の間より
寒月や小石のさはる沓の底
寒月や松の落葉の石を射ル
たえ%\の雲しのびずよ初時雨
一わたし遲れた人にしぐれ哉
榎時雨して淺間の煙餘所にたつ
禪寺の廊下たのしめ北時雨
又嘘を月夜に釜のしぐれ哉
化さうな傘かす寺のしぐれかな
水ぎはもなくて古江の時雨哉
釣人の情のこはさよ夕しぐれ
窓の灯の佐田はまだ寢ぬ時雨哉
鶯の竹に來そめてしぐれかな
蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||