University of Virginia Library

附録 寛保四年蕪村歳旦帖

寛保四甲子
歳旦歳暮吟
追加春興句
野州宇都宮
溪霜蕪村輯

正朔吟

いふき山の御燈に古年の光をのこしかも川の水音にやゝ春を告た り

鶏は羽にはつねをうつの宮柱 宰鳥

神馬しつかに春の白たへ 露鳩

谷水の泡たつかたは根芹にて 素玉

萬歳の袖に汲とやはつ霞 露長

表をうらに裏を裡白 嶺月

殿原は繼尾の鷹の細工して 條風

朔日を小槌の小口玉のはる 江雨

先たはらから寶ふね書 素玉

海苔買てしら魚買てこと買て 露鳩

名月の根分の芋を雜煮かな 嶺月

大黒舞の氣にも子の年 宰鳥

二のかはり宗十良か状見せて 江雨

玉川や若水配る朝ほらけ 素玉

箱根を越すと活る双六 條風

春の味犬もむしろに舌出して 露長

明星の影に聲あり年男 露鳩

目見へもきらひ世盛の春 江雨

野路の梅むめをかきりの道付て 嶺月

朝湯から春の匂ひやきそ始 條風

寶引綱もみる喰の紅 露長

のとかさは又鐵槌の柄かぬけて 宰鳥

東君

大紋の袖もさはらす君かはる 湖艸

華鰹とても雜煮は吉野椀 富長

先へ逢ふ四方屋敷のかさり蠅 官梅

東都を思ふ

萬歳や染井をかけて三河島

俵子や田つくりよりの名なるへし 露岳

横雲に注連も免さし峯の松 八橘

聖節

船長の聲の走りや初日和 古藤

老人のけさの身持そ御代の春 露筍

元日や霞か關の人通り 露澗

目には山耳に鶯華のはる 雉扇

青帝

懸相文御所もとくゐと成に鳧 魯[bung ]

元日や昔もかゝる松の門 露圭

おとなしき人の歩みや御代の春 露谷

門松や羽衣かゝる氣色有 嶺杖

いさましきものゝかしらや大餝 嶺吟

元日や屋敷々々の門構 桃船改 過星

叔氣

山のみを爪紅ひの初日かな 秀二

間拍子も順に程よし福壽艸 白羽

明行や時計の側の福壽草 秀山

吹そめや其一ふしの竹の鶴 寸流

履端

小山ほと越て亦候門の松 八十翁 元秀

歳末 坐順昆交

本船や棚の上から厄はらひ 江雨

大年や見附ケ/\は其通り 魯[bung ]

寢に這入一間を年の匂ひ哉 雉扇

十呂盤にかはる鼓や年忘 白羽

世中や師走まきれの小祝言 條風

行々て大津泊りや年一夜 東曉

としの尾や王子の里の灯の 露長

年の内に空もしつかや若みとり 露筍

煤はきや木陰へたのむ華見笠 素玉

福はらに結ふや年の赤いはし 露澗

年の豆何か迯行鞍馬道 秀二

隣にはまた人聲や除夜の鐘 露圭

雪の友笠にその輪のとし忘 古藤

煤はきを根にふくみてや寒見舞 元秀

藥子も預りもの歟年の暮 寸流

餅ついて梢に華を咲せけり 嶺秋

福は内と蒔たる豆を茶うけ哉 嶺[kuchikin ]

飯時のくるふも御代の師走かな 嶺月

納戸への細道付よ餅むしろ 露谷

兎や角と亥は子に積る年の雪 露鳩

背中から春の近つく樵夫かな 過星

水引も穗に出けりな衣くはり 宰鳥

春興

梅かゝや能瓶持て酒一斗 結城 雁宕

青柳にうたれて眠る牛の面 花麥

鶯も來たり井けたは杉丸太 もゝ彦

しら梅や御室を出る兒法師 田洪

うくひすや樵夫か宿の食烟 高原

鶯や猿も眠たく老けりな 丈羽

迯水に羽をこく雉子の光哉 下館 大濟

船引の尻を/\と胡蝶かな 高我

武藏野や杉菜を出る旭影 呉言

麥洗ふ流の末のむめ椿 十城

梅さくや膳所の家中の迎駕 風篁

梅かゝや畫具のはける御所車 關宿さか井 阿誰

砂川や土を見付てつく/\し 文樓

一株のみとり流すな若菜川 巴井

梅さくや宿は昔のけはひ坂 岱呂

蒲公や塘の下の茶の匂ひ 楚由

何ものゝ梅こほしけむ炭たはら 喜雀

梅かゝや隣の娘嫁せし後 佐久山 潭北

梅さくや大佛は日のうつくまり 松井田 千之

むめかゝや烏帽子着始る男ふり 潭考

草の戸の艸履にとまる胡蝶哉 露長

きのふけふに解てや梅の二三輪 條風

無太良と名のるものなし夜梅 江雨

いそかれて誰も羽たゝく薺かな 嶺月

殘雪一株つゝや麥はたけ 素玉

傘持や子の日の松の置合せ 魯[bung ]

二三里は曲らぬ道や土筆 過星

梅かゝや塀のあなたは雲のうへ 越水

垣間見の鼻をはちくや園の梅 秀二

若艸につなかれけりな放れ馬 秀山

かはらけを干やかけろふ一ツつゝ 露鳩

古庭に鶯啼きぬ日もすから 蕪村

追加

のとかさの跡へ流るゝ小舟かな 東都 可客

明る寒はあやなし梅の花 雲帳

鼻よせて心見らるゝむめの華 連馬

鞠沓に思ひよせたり若菜摘 燕山

音樂を地へは落さぬ柳かな 故一

追附

うくひすの身に預らぬ光かな 祇丞

梅酒のたしなき比やんめの花 筆端

七草を打おさめたる空手かな 其川

目の下につはき見らるゝ胡蝶かな 蝸名

四十のはるを迎へて

七種やはしめて老の寢覺より 存義