University of Virginia Library

百貫の坊は賣盡すともこよひの月ながめざらんやは

名月やあるじをとへば芋掘に

五六升芋煮る坊の月夜哉

三井寺や月の詩つくる踏落し

鬼老て河原の院の月に泣ク

月見ぶねきせるを落す淺瀬哉

櫻なきもろこしかけてけふの月

盗人の首領哥よむけふの月

いさよひや鯨來初し熊野うら

鰯煮る宿にとまりつ後の月

後の月賢き人をとふ夜哉

後の月鴫たつあとの水の中

三井寺に緞子の夜着や後の月

殿原のいづち急ぞ草のつゆ

しら露の身や葛の葉の裏借家

白露や家こぼちたる萱のうへ

鍋釜もゆかしき宿やけさの露

旅人の火を打こぼす秋の露

人をとる淵はかしこ歟霧の中

朝霧や畫に書く夢の人通り

おもひ出て酢作る僧よ秋の風

秋風に散や卒都婆の鉋屑

唐黍のおどろきやすし秋の風

岡の家の海より明て野分哉

野分やんで鼠のわたるながれかな

鴻の巣の網代にかゝる野分かな

船頭の棹とられたる野分かな

曉の家根に矢のたつのわき哉

關の火をともせば滅る野分かな

いな妻や佐渡なつかしき舟便り

稻妻やはし居うれしき旅舎り

きく川に公家衆泊けり天の河

秋の空昨日や霍を放ちたる

帛を裂琵琶の流や秋の聲

野路の秋我後ロより人や來る

松明消て海すこし見ゆる花野哉

廣道へ出て日の高き花野かな

初潮や旭の中に伊豆相摸

初しほや枕にちかき濱屋敷

二またに細るあはれや秋の水

落し水柳に遠くなりにけり

たなばしはゆがみなりなりおとし水