蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||
初春
しら梅に明る夜ばかりとなりにけり
具足師が古きやどりや梅の花
御勝手に春正が妻か梅の月
一羽來て寢る鳥は何梅の月
さむしろを畠に敷て梅見哉
かはほりのふためき飛や梅の月
野路の梅白くも赤くもあらぬ哉
紅梅や入日の襲ふ松かしは
梅が香の立のぼりてや月の暈
松下の障子に梅の日影哉
梅が香に夕暮早き麓哉
水に散ツて花なくなりぬ岸の梅
傀儡の赤き頭巾やうめの花
梅がゝやひそかにおもき裘
むくつけき僕倶したる梅見哉
莚帆に香をうつし飛岸のうめ
こちの梅も隣のむめも咲にけり
一軒の茶見世の柳老にけり
君ゆくや柳みどりに道長し
不二おろし十三州のやなぎ哉
門前の嫗が柳絲かけぬ
風吹かぬ夜はものすごき柳哉
やなぎから日のくれかゝる野道哉
三尺の鯉くゞりけり柳影
雨の日や都に遠きもゝのやど
交へ折て白桃くるゝうれしさよ
桃の花ちるや任口去てのち
海棠や白粉に紅をあやまてる
椿落て昨日の雨をこぼしけり
蕪翁句集 巻之上
几菫著 (Haikushu [volume 1]) | ||