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こと%\なるもの

法師の詞。男女の詞。下司の詞にはかならず文字あまりしたり。

おもはん子を法師になしたらんこそは、いと心苦しけれ。さるは、いとたのもしきわざを、唯木のはしなどのやうに思ひたらんこそ、いといとほしけれ。精進物のあしきを食ひ、寐ぬるをも、若きは物もゆかしからん。女などのある所をも、などか忌みたるやうに、さしのぞかずもあらん。それをも安からずいふ。まして驗者などのかたは、いと苦しげなり。御獄、熊野、かからぬ山なく歩くほどに、恐しき目も見、驗あるきこえ出できぬれば、ここかしこによばれ、時めくにつけて安げもなし。いたく煩ふ人にかかりて、物怪てうずるも、いと苦しければ、困じてうち眠れば、「ねぶりなどのみして」と咎むるも、いと所狹く、いかに思はんと。これは昔のことなり。今樣はやすげなり。

大進生昌が家に、宮の出でさせ給ふに、東の門は四足になして、それより御輿は 入らせ給ふ。北の門より女房の車ども、陣屋の居ねば入りなんやと思ひて、髮つきわ ろき人も、いたくもつくろはず、寄せて下るべきものと思ひあなづりたるに、檳榔毛の車などは、門ちひさければ、さはりてえ入らねば、例の筵道しきておるるに、いとにくく腹だたしけれど、いかがはせん。殿上人、地下なるも、陣に立ちそひ見るもねたし。御前に參りて、ありつるやう啓すれば、「ここにも人は見るまじくやは。などかはさしもうち解けつる」と笑はせ給ふ。「されど、それは皆めなれて侍れば、よくしたてて侍らんにしこそ驚く人も侍らめ。さてもかばかりなる家に、車入らぬ門やはあらん。見えば笑はん」などいふ程にしも、「これまゐらせん」とて、御硯などさしいる。「いで、いとわろくこそおはしけれ。などてかその門狹く造りて、住み給ひけるぞ」といへば、笑ひて、「家のほど身のほどに合せて侍るなり」と答ふ。「されど門の限を、高く造りける人も聞ゆるは」といへば、「あなおそろし」と驚きて、「それは于定國がことにこそ侍るなれ。ふるき進士などに侍らずば、承り知るべくも侍らざりけり。たま/\この道にまかり入りにければ、かうだに辨へられ侍る」といふ。「その御道もかしこからざめり。筵道敷きたれば、皆おち入りて騒ぎつるは」といへば、「雨の降り侍れば、實にさも侍らん。よし/\、また仰せかくべき事もぞ侍る、罷り立ち侍らん」とていぬ。「何事ぞ、生昌がいみじうおぢつるは」と問はせ給ふ。「あらず、車の入らざりつることいひ侍る」と申しておりぬ。同じ局に住む若き人々などして、萬の事も知らず、ねぶたければ皆寢ぬ。東の對の西の廂かけてある北の障子には、かけがねもなかりけるを、それも尋ねず。家主なれば、案内をよく知りてあけてけり。あやしう涸ればみたるものの聲にて、「侍はんにはいかが」と數多たびいふ聲に、驚きて見れば、儿帳の後に立てたる燈臺の光もあらはなり。障子を五寸ばかりあけていふなりけり。いみじうをかし。更にかやうのすき%\しきわざ、ゆめにせぬものの、家におはしましたりとて、無下に心にまかするなめりと思ふもいとをかし。わが傍なる人を起して、「かれ見給へ、かかる見えぬものあめるを」といへば、頭をもたげて見やりて、いみじう笑ふ。「あれは誰ぞ、顯證に」といへば、「あらず、家主人、局主人と定め申すべき事の侍るなり」といへば、「門の事をこそ申しつれ、障子開け給へとやはいふ」「なほその事申し侍らん、そこに侍はんはいかに/\」といへば、「いと見苦しきこと、更にえおはせじ」とて笑ふめれば、「若き人々おはしけり」とて、ひきたてていぬる、後に笑ふこといみじ。あけぬとならば、唯まづ入りねかし。消息をするに、よかなりとは誰かはいはんと、げにをかしきに、つとめて、御前に參りて啓すれば、「さる事も聞えざりつるを、昨夜のことに愛でて、入りにたりけるなめり。あはれ彼をはしたなく言ひけんこそ、いとほしけれ」と笑はせ給ふ。

姫宮の御かたの童女に、裝束せさすべきよし仰せらるるに、「わらはの袙の上襲 は何色に仕う奉るべき」と申すを、又笑ふもことわりなり。「姫宮の御前のものは、 例のやうにては惡氣に候はん。ちうせい折敷、ちうせい高杯にてこそよく候はめ」と 申すを、「さてこそは、上襲著たる童女もまゐりよからめ」といふを、「猶例の人の やうに、かくないひ笑ひそ、いときすくなるものを、いとほしげに」と制したまふも をかし。中間なるをりに、「大進ものきこえんとあり」と、人の告ぐるを聞し召して、「又なでふこといひて笑はれんとならん」と仰せらるるもいとをかし。「行きて聞け」とのたまはすれば、わざと出でたれば、「一夜の門のことを中納言に語り侍りしかば、いみじう感じ申されて、いかでさるべからんをりに對面して、申しうけたまはらんとなん申されつる」とて、またこともなし。一夜のことやいはんと、心ときめきしつれど、「今しづかに御局にさぶらはん」と辭していぬれば、歸り參りたるに、「さて何事ぞ」とのたまはすれば、申しつる事を、さなんとまねび啓して、「わざと消息し、呼び出づべきことにもあらぬを、おのづからしづかに局などにあらんにもいへかし」とて笑へば、「おのが心地に賢しとおもふ人の譽めたるを、嬉しとや思ふとて、告げ知らするならん」とのたまはする御氣色もいとめでたし。

うへに侍ふ御猫は、かうふり給はりて、命婦のおもととて、いとをかしければ、 寵かせ給ふが、端に出でたるを、乳母の馬の命婦「あなまさなや、入り給へ」とよぶ に、聞かで、日のさしあたりたるにうち眠りてゐたるを、おどすとて、「翁丸いづら、命婦のおもと食へ」といふに、まことかとて、しれもの走りかかりたれば、おびえ惑 ひて、御簾の内に入りぬ。朝餉の間にうへはおはします。御覽じて、いみじう驚かせ 給ふ。猫は御懷に入れさせ給ひて、男ども召せば、藏人忠隆まゐりたるに、「この翁 丸打ち調じて、犬島につかはせ。只今」と仰せらるれば、集りて狩りさわぐ。馬の命婦もさいなみて、「乳母かへてん、いとうしろめたし」と仰せらるれば、かしこまりて、御前にも出でず。犬は狩り出でて、瀧口などして追ひつかはしつ。「あはれ、いみじくゆるぎ歩きつるものを。三月三日に、頭の辨柳のかづらをせさせ、桃の花かざしにささせ、櫻腰にささせなどして、ありかせ給ひしをり、かかる目見んとは思ひかけけんや」とあはれがる。「御膳のをりは、必むかひさぶらふに、さう%\しくこそあれ」などいひて、三四日になりぬ。ひるつかた、犬のいみじく泣く聲のすれば、なにぞの犬の、かく久しくなくにかあらんと聞くに、よろづの犬ども走り騒ぎとぶらひに行く。御厠人なるもの走り來て、「あないみじ、犬を藏人二人して打ちたまひ、死ぬべし。流させ給ひけるが歸りまゐりたるとて、調じ給ふ」といふ。心うのことや。翁丸なり。「忠隆實房なん打つ」といへば、制しに遣るほどに、辛うじてなき止みぬ。「死にければ門の外にひき棄てつ」といへば、あはれがりなどする夕つかた、いみじげに腫れ、あさましげなる犬のわびしげなるが、わななきありけば、「あはれ丸か、かかる犬やはこのごろは見ゆる」などいふに、翁丸と呼べど耳にも聞き入れず。それぞといひ、あらずといひ、口々申せば、「右近ぞ見知りたる、呼べ」とて、下なるを「まづとみのこと」とて召せば參りたり。「これは翁丸か」と見せ給ふに、「似て侍れども、これはゆゆしげにこそ侍るめれ。また翁丸と呼べば、悦びてまうで來るものを、呼べど寄りこず、あらぬなめり。それは打ち殺して、棄て侍りぬとこそ申しつれ。さるものどもの二人して打たんには、生きなんや」と申せば、心うがらせ給ふ。暗うなりて、物くはせたれど食はねば、あらぬものにいひなして止みぬる。つとめて、御梳櫛にまゐり、御手水まゐりて、御鏡もたせて御覽ずれば、侍ふに、犬の柱のもとについ居たるを、「あはれ昨日、翁丸をいみじう打ちしかな。死にけんこそ悲しけれ。何の身にかこのたびはなりぬらん。いかにわびしき心地しけん」とうちいふほどに、この寢たる犬ふるひわななきて、涙をただ落しにおとす。いとあさまし。さはこれ翁丸にこそありけれ。よべは隱れ忍びてあるなりけりと、あはれにて、をかしきことかぎりなし。御鏡をもうちおきて、「さは翁丸」といふに、ひれ伏していみじくなく。御前にもうち笑はせ給ふ。人々まゐり集りて、右近内侍召して、かくなど仰せらるれば、笑ひののしるを、うへにも聞し召して、渡らせおはしまして、「あさましう犬などもかかる心あるものなりけり」と笑はせ給ふ。うへの女房たちなども來りまゐり集りて呼ぶにも、今ぞ立ちうごく。なほ顏など腫れためり。「物調ぜさせばや」といへば、「終にいひあらはしつる」など笑はせ給ふに、忠隆聞きて、臺盤所のかたより、「まことにや侍らん、かれ見侍らん」といひたれば、「あなゆゆし、さる者なし」といはすれば、「さりとも終に見つくる折もはべらん、さのみもえかくさせ給はじ」といふなり。さて後畏勘事許されて、もとのやうになりにき。猶あはれがられて、ふるひなき出でたりし程こそ、世に知らずをかしくあはれなりしか。人々にもいはれて泣きなどす。

正月一日、三月三日は、いとうららかなる。五月五日は曇りくらしたる。七月七 日は曇り、夕がたは晴れたる空に月いとあかく、星のすがた見えたる。九月九日は、 曉がたより雨少し降りて、菊の露もこちたくそぼち、おほひたる綿などもいたくぬれ、うつしの香ももてはやされたる。つとめては止みにたれど、なほ曇りて、ややもすれば、降り落ちぬべく見えたるもをかし。

よろこび奏するこそをかしけれ。後をまかせて、笏とりて、御前の方に向ひてたてるを。拜し舞踏しさわぐよ。

今内裏の東をば、北の陣とぞいふ。楢の木の遙にたかきが立てるを、常に見て、 「幾尋かあらん」などいふに、權中將の、「もとより打ちきりて、定證僧都の枝扇に せさせばや」とのたまひしを、山階寺の別當になりて、よろこび申すの日、近衞府に て、この君の出で給へるに、高き屐子をさへはきたれば、ゆゆしく高し。出でぬる後 こそ、「などその枝扇はもたせ給はぬ」といへば、「ものわすれせず」と笑ひ給ふ。