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 A9. 
 A10. 
 A11. 
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 A23, A24. 
[一本二十三、一本二十四]
 109,319. 

[一本二十三、一本二十四]

いひにくきもの

人の消息、仰事などの多かるを、序のままに、初より奧までいといひにくし。返事また申しにくし。恥しき人の物おこせたるかへりごと。おとなになりたる子の、思はずなること聞きつけたる、前にてはいといひにくし。

四位五位は冬、六位は夏。宿直すがたなども、品こそ男も女もあらまほしきことなめれ。家の君にてあるにも、誰かはよしあしを定むる。それだに物見知りたる使人ゆきて、おのづからいふべかめり。ましてまじらひする人はいとこよなし。猫の土におりたるやうにて。工匠の物くふこそいと怪しけれ。新殿を建てて、東の對だちたる屋を作るとて、工匠ども居竝みて物くふを、東面に出で居て見れば、まづ持てくるや遲きと、汁物取りて皆飮みて、土器はついすゑつつ、次にあはせを皆くひつれば、おものは不用なめりと見るほどに、やがてこそ失せにしか。二三人居たりし者、皆させしかば、工匠のさるなめりと思ふなり。あなもたいなの事どもや。

物語をもせよ、昔物語もせよ、さかしらに答うちして、こと人どものいひまぎらはす人いと憎し。

ある所に、中の君とかやいひける人の許に、君達にはあらねども、その心いたくすきたる者にいはれ、心ばせなどある人の、九月ばかりに往きて、有明の月のいみじう照りておもしろきに、名殘思ひ出でられんと、言の葉を盡していへるに、今はいぬらんと遠く見送るほどに、えもいはず艶なる程なり。出づるやうに見せて立ち歸り、立蔀あいたる陰のかたに添ひ立ちて、猶ゆきやらぬさまもいひ知らせんと思ふに、「有明の月のありつつも」とうちいひて、さしのぞきたるかみの頭にも寄りこず、五寸ばかりさがりて、火ともしたるやうなる月の光、催されて驚かさるる心地しければ、やをら立ち出でにけりとこそかたりしか。

女房のまゐりまかでするには、車を借る折もあるに、こころよそひしたる顏にうちいひて貸したるに、牛飼童の、例の牛よりもしもざまにうちいひて、いたう走り打つも、あなうたてと覺ゆかし。男どもなどの、物むづかしげなる氣色にて、「いかで夜更けぬさきに、追ひて歸りなん」といふは、なほ主の心おしはかられて、頓の事なりと、又いひ觸れんとも覺えず。業遠朝臣の車のみや、夜中あかつきわかず人の乘るに、聊さる事なかりけん、よくぞ教へ習はせたりしか。道に逢ひたりける女車の、深き所におとし入れて、え引き上げで、牛飼のはらだちければ、わが從者してうたせさへしければ、まして心のままに、誡めおきたるに見えたり。

すき%\しくて獨住する人の、夜はいづらにありつらん、曉に歸りて、やがて起きたる、まだねぶたげなる氣色なれど、硯とり寄せ、墨こまやかに押し磨りて、事なしびに任せてなどはあらず、心とどめて書く。まひろげ姿をかしう見ゆ。白き衣どものうへに、山吹紅などをぞ著たる。白き單衣のいたく萎みたるを、うちまもりつつ書き立てて、前なる人にも取らせず、わざとたちて、小舎人童のつき%\しきを、身近く呼び寄せて、うちささめきて、往ぬる後も久しく詠めて、經のさるべき所々など、忍びやかに口ずさびに爲居たり。奧のかたに、御手水、粥などしてそそのかせば、歩み入りて、文机に押しかかりて文をぞ見る。おもしろかりける所々は、うち誦じたるもいとをかし。手洗ひて、直衣ばかりうち著て、禄をぞそらに讀む。實にいとたふとき程に、近き所なるべし、ありつる使うちけしきばめば、ふと讀みさして、返事に心入るるこそいとほしけれ。

清げなるわかき人の、直衣も袍も狩衣も、いとよくて、きぬがちに、袖口あつく見えたるが、馬に乘りて往くままに、供なるをのこ、たて文を、目をそらにて取りたるこそをかしけれ。

前の木だち高う庭廣き家の、東南の格子どもあげ渡したれば、涼しげに透きて見ゆるに、母屋に四尺の几帳立てて、前に圓座をおきて、三十餘ばかりの僧の、いとにくげならぬが、薄墨の衣、羅の袈裟など、いとあざやかにうちさうぞきて、香染の扇うちつかひ、千手陀羅尼讀み居たり。物怪にいたうなやむ人にや、うつすべき人とて、おほきやかなる童の、髮など麗しき、生絹の單、あざやかなる袴長く著なして、ゐざり出でて、横ざまに立てたる三尺の几帳の前に居たれば、外ざまにひねり向きて、いとほそう、にほやかなる獨鈷を取らせて、ををと目うち塞ぎて讀む陀羅尼も、いとたふとし。顯證の女房あまた居て、集ひまもらへたり。久しくあらでふるひ出でぬれば、もとの心失ひて、行ふままに隨ひ給へる護法も、げにたふとし。兄の袿きたる、細冠者どもなどの、後に居て團扇するもあり。皆たふとがりて集りたるも、例の心ならば、いかに恥しと惑はん。みづからは苦しからぬ事と知りながら、いみじうわび歎きたるさまの心苦しさを、附人の知人などは、らうたく覺えて、几帳のもと近く居て、衣ひきつくろひなどする程に、よろしとて、御湯など北面に取り次ぐほどをも、わかき人々は心もとなし。盤も引きさげながらいそいでくるや。單など清げに、薄色の裳など萎えかかりてはあらず、いと清げなり。申の時にぞ、いみじうことわりいはせなどして許しつ。「几帳の内にとこそ思ひつれ、あさましうも出でにけるかな。いかなる事ありつらん」と恥しがりて、髮を振りかけてすべり入りぬれば、しばしとどめて、加持少しして、「いかに、さわやかになり給へりや」とてうち笑みたるも恥しげなり。「しばし侍ふべきを、時のほどにもなり侍りぬべければ」とまかり申して出づるを、「しばし、ほうちはうたう參らせん」などとどむるを、いみじう急げば、所につけたる上臈とおぼしき人、簾のもとにゐざり出でて、「いと嬉しく立ちよらせ給へりつるしるしに、いと堪へがたく思ひ給へられつるを、只今おこたるやうに侍れば、かへす%\悦び聞えさする。明日も御暇の隙には、物せさせ給へ」などいひつつ。「いとしうねき御物怪に侍るめるを、たゆませ給はざらんなんよく侍るべき。よろしく物せさせ給ふなるをなん、悦び申し侍る」と、詞ずくなにて出づるは、いと尊きに、佛のあらはれ給へるとこそ覺ゆれ。

清げなる童の髮ながき。また大やかなるが、髯生ひたれど、思はずに髮うるはしき 又したたかに、むくつけげなるなど多くて、いとなげにて、ここかしこに、やんごとなきおぼえあるこそ、法師もあらまほしきわざなめれ。親などいかに嬉しからんとこそ、おしはからるれ。