University of Virginia Library

Search this document 

collapse section 
 1,2,3,4,5. 
 6,7,8,9,10,11,12. 
 13. 
 15. 
 16. 
 14. 
 17. 
 18. 
 20. 
 19. 
 22, 23, 24. 
[22、23、24]
 25. 
 26. 
 27. 
 28. 
 29. 
 30. 
 31, 32, 33, 34, 35, 36, 50, 51, 52, 53, 54, 55 . 
 37. 
 38. 
 39. 
 40. 
 41. 
 42. 
 43, 44. 
 45, 46, 47, 48, 49, 56, 57, 58, 59, 60. 
 61. 
 62. 
 64. 
 65. 
 66. 
 68. 
 69. 
 67. 
 70. 
 71, 72, 73, 74. 
 75, 76, 77, 78. 
 79. 
  
 76, 76, 77, 78. 
 80, 81,82,83,84. 
 85. 
 88. 
 89,90,91,92,93,94. 
 95. 
 96. 
 97. 
 98,99,101,102,103,104,105,106. 
 107,108. 
 111. 
 112. 
  
 115. 
 116. 
 117,118. 
 119,120. 
 121. 
 122. 
 123. 
 124. 
 125,126. 
 127,128,129,130,131,132,133,134,135,136,137,138. 
 139. 
 140. 
 141. 
 142,143,144,145,146. 
 147. 
 148. 
  
 149. 
 150. 
 151. 
 152. 
 153. 
 154. 
 155. 
 156. 
 157. 
 158. 
 159. 
 160,161,162. 
 163. 
 164,165. 
 166. 
 167. 
 168. 
  
  
 178,179,181,182,183,184. 
 185,186. 
 197,198,199,200. 
 201. 
 204. 
 205. 
 205. 
 208. 
 209. 
 211. 
 210. 
 212. 
  
 213. 
  
 215. 
 216. 
 217. 
  
 218. 
 219,220,221,223,224,230,232. 
 233. 
 234. 
 235,236,237,238,239. 
 242. 
  
 243. 
 250. 
 252. 
 253. 
 254. 
 255. 
  
 256. 
  
 258. 
 259. 
  
  
  
  
  
 247,248. 
 260. 
 261. 
 263. 
 264. 
 265,266,267,268,269,270,271. 
 276,277,278. 
 279. 
 280. 
 281. 
 282. 
 283. 
  
 284. 
 285. 
 286. 
 287. 
 288. 
 289,290,291,292,293,294. 
 295,296,297,298,299,300,301,302,303. 
 304. 
 305,306,307,308,309,310,311,313,314,315,316,317. 
 A6. 
 A7. 
 A8. 
 A9. 
 A10. 
 A11. 
 188. 
  
 A23, A24. 
 109,319. 

[22、23、24]

家は

近衞の御門。二條。一條もよし。染殿の宮。清和院。菅原の院。冷泉院。朱雀院。とうゐん。小野宮。紅梅。縣の井戸。東三條。小六條。小一條。清涼殿のうしとらの 隅の北のへだてなる御障子には、荒海の繪、生きたるものどものおそろしげなる、手 長足長をぞ書かれたる。うへの御局の戸、押しあけたれば、常に目に見ゆるを、にく みなどして笑ふほどに、高欄のもとに、青き瓶の大なる据ゑて、櫻のいみじくおもし ろき枝の五尺ばかりなるを、いと多くさしたれば、高欄のもとまでこぼれ咲きたるに、ひるかつた、大納言殿、櫻の直衣の少しなよらかなるに、濃き紫の指貫、白き御衣ど も、うへに濃き綾の、いとあざやかなるを出して參り給へり。うへのこなたにおはし ませば、戸口の前なる細き板敷に居給ひて、ものなど奏し給ふ。御簾のうちに、女房 櫻の唐衣どもくつろかにぬぎ垂れつつ、藤山吹などいろ/\にこのもしく、あまた小 半蔀の御簾より押し出でたるほど、晝御座のかたに御膳まゐる。足音高し。けはひな ど、をし/\といふ聲聞ゆ。うら/\とのどかなる日の景色いとをかしきに、終の御飯もたる藏人參りて、御膳奏すれば、中の戸より渡らせ給ふ。御供に大納言參らせ給ひて、ありつる花のもとに歸り居給へり。宮の御前の御儿帳押しやりて、長押のもとに出でさせ給へるなど、唯何事もなく萬にめでたきを、さぶらふ人も、思ふことなき心地するに、月も日もかはりゆけどもひさにふるみ室の山のといふ故事を、ゆるるかにうち詠み出して居給へる、いとをかしと覺ゆる。げにぞ千歳もあらまほしげなる御ありさまなるや。

陪膳つかうまつる人の、男どもなど召すほどもなくわたらせ給ひぬ。「御硯の墨 すれ」と仰せらるるに、目はそらにのみにて、唯おはしますをのみ見奉れば、ほど遠 き目も放ちつべし。白き色紙おしたたみて、「これに只今覺えん故事、一つづつ書け」と仰せらるる。外に居給へるに、「これはいかに」と申せば、「疾く書きて參らせ給へ、男はことくはへ侍ふべきにもあらず」とて、御硯とりおろして、「とく/\ただ思ひめぐらさで、難波津も何もふと覺えん事を」と責めさせ給ふに、などさは臆せしにか、すべて面さへ赤みてぞ思ひみだるるや。春の歌、花の心など、さいふ/\も、上臈二つ三つ書きて、これにとあるに、

年經れば齡は老いぬしかはあれど花をし見れは物おもひもなし

といふことを、君をし見ればと書きなしたるを御覽じて、「唯このこころばへど もの、ゆかしかりつるぞ」と仰せらる。ついでに、「圓融院の御時、御前にて、草紙 に歌一つ書けと、殿上人に仰せられけるを、いみじう書きにくく、すまひ申す人々あ りける。更に手の惡しさ善さ、歌の折にあはざらんをも知らじと仰せられければ、わ びて皆書きける中に、ただいまの關白殿の、三位の中將と聞えけるとき、

しほのみついづもの浦のいつも/\君をばふかくおもふはやわが

といふ歌の末を、たのむはやわがと書き給へりけるをなん、いまじくめでさせ給 ひける」と仰せらるるも、すずろに汗あゆる心地ぞしける。若からん人は、さもえ書 くまじき事のさまにやとぞ覺ゆる。例いとよく書く人も、あいなく皆つつまれて、書 きけがしなどしたるもあり。古今の草紙 を御前に置かせ給ひて、歌どもの本を仰せられて、「これが末はいかに」と仰せらるるに、すべて夜晝心にかかりて、おぼゆるもあり。げによく覺えず、申し出でられぬことは、いかなることぞ。宰相の君ぞ十ばかり。それもおぼゆるかは。まいて五つ六つなどは、ただ覺えぬよしをぞ啓すべけれど、「さやはけ惡くく、仰事をはえなくもてなすべき」といひ口をしがるもをかし。知ると申す人なきをば、やがて詠みつづけさせ給ふを、さてこれは皆知りたる事ぞかし。「などかく拙くはあるぞ」といひ歎く中にも、古今あまた書き寫しなどする人は、皆覺えぬべきことぞかし。「村上の御時、宣耀殿の女御と聞えけるは、小一條の左大臣殿の御女におはしましければ、誰かは知り聞えざらん。まだ姫君におはしける時、父大臣の教へ聞えさせ給ひけるは、一つには御手を習ひ給へ、次にはきんの御琴を、いかで人にひきまさらんとおぼせ、さて古今の歌二十卷を、皆うかべさせ給はんを、御學問にはさせたまへとなん聞えさせ給ひけると、きこしめしおかせ給ひて、御物忌なりける日、古今をかくして、持てわたらせ給ひて、例ならず御几帳をひきたてさせ給ひければ、女御あやしとおぼしけるに、御草紙をひろげさせたまひて、その年その月、何のをり、その人の詠みたる歌はいかにと、問ひきこえさせたまふに、かうなりと心得させたまふもをかしきものの、ひがおぼえもし、わすれたるなどもあらば、いみじかるべき事と、わりなく思し亂れぬべし。そのかたおぼめかしからぬ人、二三人ばかり召し出でて、碁石して數を置かせ給はんとて、聞えさせ給ひけんほど、いかにめでたくをかしかりけん。御前に侍ひけん人さへこそ羨しけれ。せめて申させ給ひければ、賢しうやがて末までなどにはあらねど、すべてつゆ違ふ事なかりけり。いかでなほ少しおぼめかしく、僻事見つけてを止まんと、ねたきまで思しける。十卷にもなりぬ。更に不用なりけりとて、御草紙に夾算して、みとのごもりぬるもいとめでたしかし。いと久しうありて起きさせ給へるに、なほこの事左右なくて止まん、いとわろかるべしとて、下の十卷を、明日にもならば他をもぞ見給ひ合するとて、今宵定めんと、おほとなぶら近くまゐりて、夜更くるまでなんよませ給ひける。されど終に負け聞えさせ給はずなりにけり。うへ渡らせ給ひて後、かかる事なんと、人々殿に申し奉りければ、いみじう思し騒ぎて、御誦經など數多せさせ給ひて、そなたに向ひてなん念じ暮させ給ひけるも、すき%\しくあはれなる事なり」など語り出させ給ふ。うへも聞しめして、めでさせ給ひ、「いかでさ多くよませ給ひけん、われは三卷四卷だにもえよみはてじ」と仰せらる。「昔はえせものも皆數寄をかしうこそありけれ。このごろかやうなる事やは聞ゆる」など、御前に侍ふ人々、うへの女房のこなたゆるされたるなど參りて、口々いひ出でなどしたる程は、誠に思ふ事なくこそ覺ゆれ。おひさきなく、まめやかに、えせさいはひなど見てゐたらん人は、いぶせくあなづらはしく思ひやられて、猶さりぬべからん人の女などは、さしまじらはせ、世の中の有樣も見せならはさまほしう、内侍などにても暫時あらせばやとこそ覺ゆれ。宮仕する人をば、あは/\しうわろきことに思ひゐたる男こそ、いとにくけれ。げにそもまたさる事ぞかし。かけまくも畏き御前を始め奉り、上達部、殿上人、四位、五位、六位、女房は更にもいはず、見ぬ人は少くこそはあらめ。女房の從者ども、その里より來るものども、長女、御厠人、たびしかはらといふまで、いつかはそれを耻ぢかくれたりし。殿ばらなどは、いとさしもあらずやあらん。それもある限は、さぞあらん。うへなどいひてかしづきすゑたるに、心にくからず覺えん理なれど、内侍のすけなどいひて、をり/\内裏へ參り、祭の使などに出でたるも、おもだたしからずやはある。さて籠りゐたる人はいとよし。受領の五節など出すをり、さりともいたうひなび、見知らぬ他人に問ひ聞きなどはせじと、心にくきものなり。