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竹林抄卷第十 發句
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

10. 竹林抄卷第十
發句

春立ける日

[三〇九七]花の春たてるところや吉野山

法眼專順

正月五日北野の會所の百韻に

[三〇九八]春きぬといへは花なることはかな

宗砌法師

[三〇九九]春霞ゆたかにおほへ天津そて

能阿法師

霞を

[三一〇〇]かさし折袖かひはらのはるかすみ

權大僧都心敬

[三一〇一]世は春とかすめはおもふ花もなし

[三一〇二]朝霞いろつく雨の木末かな

平賢盛

[三一〇三]朝かすみめにたつ春の木末かな

智薀法師

[三一〇四]遠近にかすむ一木のこすゑかな

專順

[三一〇五]種遠き松はかすみのふた葉哉

心敬

世のさわかしきころおもふ事や侍りけん

[三一〇六]老のなみこほりを出る春もかな

春の雪を

[三一〇七]春のこゑきえて雪ふるあらし哉

專順

[三一〇八]遠山のまゆすみ青き雪間かな

賢盛

[三一〇九]水青し消ていくかの春のゆき

心敬

[三一一〇]松の葉は霞やおもき雪もなし

[三一一一]あさみどり空さへ春の雪間かな

法印行助

[三一一二]ちるを見て花おそけなる雪もなし

心敬

[三一一三]ちるを見よ庭は露けき春の雪

正月五日北野會所の連歌に

[三一一四]いく春も神そやとりき梅の花

能阿

堀川のわたりにしる人の亭にてはへりし會に

[三一一五]影移るほしか河邊の梅の花

賢盛

梅を

[三一一六]風のまも梅のふき來るにほひ哉

[三一一七]梅か香にふかすは去年の嵐かな

專順

[三一一八]梅いつくにほひ空なるあさかすみ

[三一一九]袖にふけたか梅か香そ春の風

[三一二〇]折にあひて梅さく柴のかきほかな

能阿

東山の坊にて正月十日比侍りし會に

[三一二一]梅か香をとふ人なれやこけの庭

心敬

會所の奉行承し翌年宿所の會に

[三一二二]もとつ香ににほへよもきか宿の梅

宗砌

題しらす

[三一二三]梅はわか花にかくるゝ老木かな

[三一二四]花とほしにほひに霞む軒の梅

心敬

[三一二五]梅の花たかぬ衣なきにほひかな

[三一二六]木々の香や春のあはする梅の花

專順

[三一二七]水たまり梅ちる庭のなかめかな

宗砌

あつまへ下りける人の馬のはなむけし侍しときの會に

[三一二八]春風にゆく人したふ柳かな

ある山さとにて

[三一二九]こきませて來るにまゆある柳かな

春の草を

[三一三〇]露またてなひく若葉の千草かな

心敬

題しらす

[三一三一]若草にましる二葉の小松かな

智薀

[三一三二]むらさきのちりをすゑのゝ蕨かな

[三一三三]風ふかぬ松は春にやなひくらん

行助

春の月を

[三一三四]月かすみ追風よはのかつらかな

心敬

待花の心を

[三一三五]またるとてさかはそおそき春のはな

專順

[三一三六]花さけといはぬはかりそ雨の聲

[三一三七]よしやまてさけは程へぬ春の花

[三一三八]吹つくせ花さかぬまの春のかせ

能阿

花の發句に

[三一三九]咲けりと花のものいふにほひ哉

賢盛

[三一四〇]待えたるたかはつ花ぞ山さくら

宗砌

[三一四一]花やさくとほ山人のつてもかな

專順

[三一四二]遠山の雪に花さく宮古かな

行助

[三一四三]花に來てをのゝえくたす山もかな

賢盛

[三一四四]朝かすみ風にかくすや花もなし

專順

[三一四五]花そ雲かけても吹な天津風

[三一四六]花鳥もときなるかなや櫻かり

宗砌

[三一四七]さす花やかめのうへなる山櫻

太神宮に參詣の時千句連歌侍し其第一に

[三一四八]日の御影花ににほへるあした哉

心敬

春の發句のうちに

[三一四九]いとみたれ花ほころふる春日かな

[三一五〇]霞む日の花よりいつる山もかな

專順

[三一五一]日そをしき花はゆふへの色もなし

宗砌

[三一五二]山櫻まてや宮古の花さかり

專順

遠き國よりのほりける人京にて千句連歌し侍し時

[三一五三]花盛人はたひなる都かな

能阿

花を

[三一五四]山櫻とほからぬ花のみやこかな

[三一五五]花一木うゑぬ宮古の宿もなし

智薀

伊勢の國より人の所望し侍しに

[三一五六]櫻さく山さへ磯のみるめかな

[三一五七]櫻さく遠山もりや宮古人

宗砌

題しらす

[三一五八]老木まてなれこし花の山路かな

能阿

[三一五九]花はたゝこゝろの老のかさしかな

心敬

[三一六〇]櫻色に世はうち霞むにほひ哉

[三一六一]花さかりおもへは似たる雲もなし

專順

[三一六二]時雨にも見さかりし花の千人かな

心敬

[三一六三]花に鳥音をさへおれる錦かな

行助

[三一六四]飛ふ鳥をうらやむ花の千里かな

專順

[三一六五]鳥やしるいつくの雲か山さくら

[三一六六]雲鳥のかへるはあやな花の春

智薀

[三一六七]月夜よしよしや花こそ春の雲

行助

[三一六八]花に月こゝろつくしの木の間かな

宗砌

[三一六九]花にそへおほる月夜の今朝の雲

[三一七〇]月やまつ夕暮とほき花のかけ

心敬

[三一七一]いつれ宿さくらかもとのゆふ月夜

能阿

[三一七二]月に見ぬおほろは花のにほひかな

心敬

[三一七三]ゆく嵐花のこなたに宿もかな

專順

[三一七四]春はみな花まちをしむ日數かな

[三一七五]雨に今朝花の香ならぬ水もなし

[三一七六]雲や花にほひをそゝく春の雨

智薀

[三一七七]若草に花の露そふ木陰かな

行助

[三一七八]きのふ見し花か鳥なく朝かすみ

心敬

[三一七九]散る花に明日はうらみん風もなし

[三一八〇]雲と見し高ねにかへる花もかな

智薀

吉野の花見侍し時かの山寺にてはへりし會に

[三一八一]花に來て雲にこもりの深山かな

能阿

春の發句の中に

[三一八二]外にちる花まちえたり山さくら

專順

[三一八三]花に春ゆくか歸るかおそ櫻

行助

[三一八四]木をきれは花こそとふさ春の風

專順

醍醐寂靜谷といふ所の花見侍りしとき

[三一八五]ちる花の音きく程の深山かな

心敬

栂尾にて細川京兆すゝめられし一座に

[三一八六]ちる花の雪さへさむきみ山かな

ある山家にて侍し會に

[三一八七]花落て小笹露けき山路かな

大原野の花見侍し次にかのわたりにて會侍しに

[三一八八]山櫻ちるををしほのかひもなし

專順

落花を

[三一八九]さけはちることわりしらぬ花もかな

[三一九〇]人はちり花は風ふくゆふへかな

心敬

題しらす

[三一九一]花にみぬゆふ暮ふかき青葉かな

[三一九二]雨しらぬかすみの軒の雫かな

專順

藤を

[三一九三]なみに見ん鴨の羽色の松の藤

[三一九四]紫にさすやはひえの藤のはな

宗砌

[三一九五]ねはみねとむらさきしるし藤の花

專順

[三一九六]藤さけはをられぬなみの花もなし

行助

暮春のこゝろを

[三一九七]花そなきかさして春やかへる覽

心敬

宗祇草庵にて千句侍しに同春の心を

[三一九八]花落て鳥なく春のわかれかな

賢盛

三月盡に

[三一九九]ちらてけふ三月をしたふ花もかな

宗砌

卯月の初のころ侍し會に新樹を

[三二〇〇]花殘り若葉いろこき木末かな

おなしこゝろを

[三二〇一]若葉よりまた花おとす露もかな

心敬

[三二〇二]しける木ははつ山あゐの染葉かな

賢盛

[三二〇三]花の枝もかくなるものか夏木立

智薀

[三二〇四]夏と秋いかて若葉のうす紅葉

專順

[三二〇五]秋はまたとほ山そむる若葉かな

心敬

[三二〇六]雨もまたこゑなき桐の若葉かな

會所の奉行し時はしめて社頭の會に

[三二〇七]しけりきぬ神そうゑ木の御代の陰

能阿

題しらす

[三二〇八]茂る木は葉もりの神の舍りかな

宗砌

[三二〇九]しけるまて秋の葉くちぬ深山かな

心敬

[三二一〇]峰高みしけるかうへの木末かな

能阿

あつまに下りし時日光山といふ寺に上りて會侍しに卯花を

[三二一一]卯花にとほき高ねや去年の雪

心敬

おなしこゝろを

[三二一二]卯花の月にかたふく籬かな

智薀

[三二一三]をりてほすあさてか露の花うつき

宗砌

卯月はかりに千句連歌侍しとき

[三二一四]花も名になのるや卯月郭公

專順

北畠大納言于時宰相長谷寺にて餘花十首を題にて侍し千句に

[三二一五]郭公花もまちけるみやまかな

時鳥を

[三二一六]世にさらはきかぬ鳥なれほとゝきす

心敬

[三二一七]ねたしとやまたすはんかん郭公

專順

長谷寺より所望の發句に

[三二一八]はつせ山ゆふこゑもらせほとゝきす

行助

世中わひ侍しころ我坊にて會侍りしに

[三二一九]山にすむこゝろをつけよほとゝきす

夏の發句の中に

[三二二〇]一聲にみぬ山ふかし郭公

心敬

[三二二一]郭公たかねになのる山路かな

宗砌

[三二二二]時鳥うらめつらしき舟路かな

行助

[三二二三]杜宇もゝちの鳥はこゑもなし

心敬

[三二二四]杉むらに聲のあやおれほとゝきす

獨吟の百韻に夏の月を

[三二二五]月ほそしかつらや茂りかくすらん

專順

おなし題にて

[三二二六]あけやすし空おほれする月もかな

五月六日侍し會に

[三二二七]今朝かゝるあやめや軒の一夜つま

宗砌

五月雨を

[三二二八]なか雨のあしのいとなき五月かな

[三二二九]夏引のいとくりかへすなかめかな

行助

[三二三〇]春雨にふるを五月のはれ間かな

心敬

[三二三一]五月雨のあめこまかなるはれ間かな

賢盛

[三二三二]紅葉せは五月そさかり木々のあめ

專順

[三二三三]雨あをし五月の雲のむら柏

心敬

千句の連歌中に人に替りてたち花を

[三二三四]立花にはらひし程の雪もかな

宗祇草庵をむすひてはしめて會侍りし時

[三二三五]しけれ猶代々の言葉の園の竹

賢盛

題しらす

[三二三六]口なしの花はこゝろのある世かな

行助

[三二三七]風に露きえぬ草葉の螢かな

專順

[三二三八]小松おひなてしこさける岩ほかな

智薀

[三二三九]夕立はたき殿ならぬ宿もなし

心敬

夏の發句の中に

[三二四〇]雨すゝしふる日はいかに水のこゑ

專順

[三二四一]夏をせき水をたのしむ栖かな

賢盛

二條關白家にてつかうまつりける

[三二四二]夜もくめ月はいつみの夕凉み

專順

題しらす

[三二四三]夏の日は草葉をよるの露もなし

心敬

納凉のこゝろを

[三二四四]露もひぬ槇の葉涼し朝曇り

[三二四五]庭涼し夜のまの露の朝しめり

專順

雲林院近きわたりにて同し心を

[三二四六]雨に今日涼しき雲のはやし哉

智薀

おなしこゝろを

[三二四七]かけ涼したれもこゝろやひとつ松

行助

[三二四八]涼しさを夏は花なる木かけかな

宗砌

[三二四九]秋をひけ袖もなつその朝すゝみ

秋立ける日

[三二五〇]露なからちるは風なき一葉かな

行助

會所奉行承しその秋私家にて侍し連歌に

[三二五一]塵をつき風をつたふる一葉かな

宗砌

七夕のこゝろを

[三二五二]いのりきや七日にほしのあま衣

心敏

[三二五三]石川やふむ跡遠きあふせかな

賢盛

[三二五四]秋風をうらみぬ星のちきりかな

行助

[三二五五]星もけふ二あゐをかすころもかな

專順

七月十日のころ侍し會に

[三二五六]日くらしの聲に月まつ朝かな

荻を

[三二五七]松風やしたに秋ふく荻のこゑ

伊勢の二見のわたりにて同し心を

[三二五八]はま荻の風やなかはゝ松の聲

行助

又同しこゝろを

[三二五九]都にもあらし吹けり荻のこゑ

專順

題しらす

[三二六〇]言の葉におく露ちらせ秋のせみ

賢盛

[三二六一]言の葉にさくやむくさの秋の花

宗砌

萩を

[三二六二]露なからをれはをられぬ小萩かな

[三二六三]遠山はをしかなくらし萩か花

心敬

雲林院ちかき所にて八月はかりに

[三二六四]秋の野は千草の花の宮古かな

宗砌

北野の會所の連歌に草花を

[三二六五]河風の吹あけににほふ花野かな

能阿

おなしこゝろを

[三二六六]名もしらぬ小草花さく河邊かな

智薀

朝貌を

[三二六七]むかふ日はうき朝貌の鏡かな

宗砌

われもかうなと植たる庭を人の見せし時侍し會に

[三二六八]さそひ來てわれもかうはし秋の風

賢盛

露を

[三二六九]朝露は野を花そめの時雨かな

心敬

東へ下り侍りし時海つらちかきやとりにて

[三二七〇]朝しほはひさき風ふくはまへかな

題しらす

[三二七一]柳ちりかりかねさむき河邊かな

[三二七二]梅か枝をわきて秋なる木の葉かな

賢盛

[三二七三]櫻色にうつろふ春の青葉かな

心敬

[三二七四]うら葉ふく秋風しろき木末かな

能阿

[三二七五]はし紅葉またうす霧の立朶かな

專順

[三二七六]繪をうつす秋の草木の千枝かな

月を

[三二七七]先出て月にまたるゝゆふへかな

心敬

[三二七八]見る人を色なる月のひかりかな

[三二七九]曇る夜は月にみゆへきこゝろ哉

[三二八〇]くらからぬ月のかつらの木陰かな

宗砌

八月十五夜に

[三二八一]月夜よし代々の最中の秋の空

專順

[三二八二]四方にちるひかりや月の秋の花

賢盛

[三二八三]名や光今夜はかりの月もなし

宗砌

[三二八四]月やあらぬ似たる時なき今夜かな

[三二八五]なかめつゝ月にわするゝ今夜かな

心敬

[三二八六]月にそむ人は今夜の空もなし

[三二八七]名をえたることわりしるき月夜かな

能阿

月を

[三二八八]月は今朝とほ山とりのかゝみかな

智薀

東にあまた年を送りしころ月を見て

[三二八九]月にこひ月にわするゝ宮古かな

心敬

題しらす

[三二九〇]染のこせ月のかつらの初しくれ

宗砌

九月十三夜のこゝろを

[三二九一]秋の葉はおちて花なる月夜かな

行助

[三二九二]月は猶てりそふほしの二夜かな

賢盛

題しらす

[三二九三]くらからぬ錦や月の下紅葉

專順

白河の關見侍けるに修理大夫入道のもとにて

[三二九四]關もせき木すゑも秋の木末かな

心敬

同し所より立歸りける時人のはなむけし侍し會に

[三二九五]秋風にかへらは花の宮古かな

題しらす

[三二九六]山ふかし眞木たつ庭の秋の色

霧を

[三二九七]下草と見るは霧まの木すゑかな

專順

[三二九八]瀧なかは霧より落て山もなし

心敬

菊を

[三二九九]きくに今朝雲井の鴈のこゑもかな

[三三〇〇]庭にくむ水や菊さく谷の露

專順

[三三〇一]移ふはきくさくころの草木かな

智薀

[三三〇二]仙人のいのちのほしか秋のきく

行助

[三三〇三]秋の菊千代の坂こす山路かな

宗砌

秋の發句に

[三三〇四]鳥の音も色なる秋の山路かな

心敬

[三三〇五]色そめぬ雨そことわり松の風

專順

[三三〇六]織女の手にも正木のにしき哉

行助

菊紅葉月此三を題にて千句侍し第十番に

[三三〇七]きく紅葉月をいつれの夕へかな

能阿

もみちを

[三三〇八]峯高み空ももみちの夕日かな

專順

[三三〇九]たか袖そ紅葉こきいるゝ峯の雲

[三三一〇]色ほかにいつくの山かはつ時雨

智薀

[三三一一]染よ猶うすくれなゐのはつ時雨

賢盛

[三三一二]薄くこきもみちやうつのむら時雨

專順

[三三一三]時雨こはそめん色なきもみちかな

[三三一四][むらさきと見るはかきこき紅葉かな]

[心敬]

[三三一五]錦おる音か紅葉のはつしくれ

行助

題しらす

[三三一六]朝露そ木葉になさぬ小夜時雨

心敬

聖廟法樂の發句とて人の所望し侍しに

[三三一七]錦織る木末や秋の手向山

賢盛

秋の發句に

[三三一八]秋のぬく錦は木々の落葉かな

能阿

[三三一九]瀧浪くれなゐ落て秋もなし

智薀

[三三二〇]弓はりの槻の葉落て秋もなし

[三三二一]長月や山とりの尾のはつ時雨

九月に雪のふり侍しときの發句に

[三三二二]きかさりき秋に宮古の雪の山

能阿

暮秋のこゝを

[三三二三]秋のゆく道しはうつめ下もみち

宗砌

東に下り侍し次の年初冬の頃時雨を

[三三二四]めくる間をおもへは去年の時雨哉

心敬

おなし心を

[三三二五]山を越え宮古をめくるしくれかな

宗砌

[三三二六]河音は山もとめくるしくれかな

行助

[三三二七]雲は猶さためある世の時雨かな

心敬

[三三二八]きく程は月をわするゝ時雨かな

近江の小野といへる所にて會侍しに

[三三二九]伊吹山しくるゝ雪の麓かな

專順

題しらす

[三三三〇]ちる音を時雨にかへすもみちかな

宗砌

[三三三一]松風はちらぬ木の葉の時雨かな

專順

[三三三二]雨木葉ふりみふらすみ時雨けり

[三三三三]音をかる水の木葉の時雨かな

[三三三四]鴨の羽はつれなき池の紅葉かな

智薀

[三三三五]ちり行はあらしのかさす紅葉哉

心敬

[三三三六]山風によとなき瀧の落葉かな

智薀

[三三三七]紅葉より後は雪けのしくれかな

宗砌

[三三三八]すゝきちり紅葉は朽る岩ねかな

心敬

[三三三九]枝もかなあらしの木葉霜の花

宗砌

[三三四〇]月に今朝ちるはかつらの下葉哉

[三三四一]神無月木のめ春しる落葉かな

智薀

[三三四二]神無月山里ならぬ宿もなし

心敬

[三三四三]神無月むへもさひたる宮居かな

宗砌

庭に富士松うゑたる所に侍し會に

[三三四四]時しらぬ山松ふかし冬の庭

專順

題しらす

[三三四五]松の葉に冬野の露はのこりけり

心敬

[三三四六]雨さむみしつくを木々のたるひ哉

賢盛

[三三四七]露こほり河音さむき茅原かな

專順

[三三四八]吹むすふ川風しろきこほりかな

賢盛

[三三四九]雨に色雪にこゑあるみそれかな

行助

[三三五〇]庭にきえ高ねにつもるみそれ哉

賢盛

雪の發句のうちに

[三三五一]雪もしれ松うゑおける冬の庭

專順

[三三五二]山の端にふるは都の雪けかな

行助

[三三五三]山や雪しらぬ鳥なく宮古かな

心敬

[三三五四]遠山は雪ふる雲のはれまかな

專順

[三三五五]遠山をうつみあらはす深雪かな

[三三五六]雪うすし荻にやのこる秋のかせ

心敬

[三三五七]あしつゝのうす雪氷る汀かな

[三三五八]つきてふれまた薄雪の花すゝき

賢盛

[三三五九]雪うすし岡邊の竹の夕つくひ

心敬

[三三六〇]雪の花北は先さく片枝かな

宗砌

[三三六一]あは雪の花の千種か小松はら

[三三六二]染かねし時雨やなれる松の雪

心敬

[三三六三]紅葉せて花は咲けりまつの雪

賢盛

[三三六四]紅葉せぬ秋もうらみし雪の松

宗砌

[三三六五]雪の松花の老木となりにけり

行助

[三三六六]雪ふれは山里ひたる都かな

心敬

[三三六七]雪遠し山本柏峯のまつ

[三三六八]たか軒そ遠山もとの雪の松

宗砌

[三三六九]風おろす山松あをし雪の庭

心敬

[三三七〇]秋も猶あさきは雪のゆふへ哉

[三三七一]うす墨に繪かける雪のゆふへ哉

專順

[三三七二]雪はれてかゝみをかけぬ山もなし

心敬

[三三七三]月雪のいろわかれ行朝かな

智薀

つくしへ下り侍し時安樂寺にて

[三三七四]跡ふりぬ空にあふきし峯の雪

能阿

泉涌寺にて侍し會に

[三三七五]雪白く水わく谷の岩ねかな

冬の發句のうちに

[三三七六]雪をれぬ木はみな風のちからかな

專順

高松太神宮にて

[三三七七]榊葉にさくや八度の霜の花

宗砌

早梅を

[三三七八]冬さくや一重こゝろの梅の花

專順

[三三七九]こぬ春をこてふに似たり梅の花

[三三八〇]梅咲て花にまつへき春もなし

賢盛

[三三八一]香こそ梅としくれ竹の雪の窓

能阿

歳暮のこゝろを

[三三八二]白雪のひかりに暮ぬ年もかな

行助