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竹林抄卷第四 冬連歌
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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4. 竹林抄卷第四
冬連歌

[一一三五]冬かけておほ野に殘る草の露 と云句に
[一一三六]みかさの森に時雨ふるころ

平賢盛

[一一三七]吹風はかり空に音して
[一一三八]雲晴る後や木葉の時雨らん

法眼專順

[一一三九]夢にきて又歸る面影
[一一四〇]定なや夜の時雨の今朝の雲

宗砌法師

[一一四一]扨幾度そぬるゝ我袖
[一一四二]めくりてや同しね覺に時雨らん

權大僧都心敬

[一一四三]冬たつ空は物そさひしき
[一一四四]我身ふり泪しくるゝ世に住て

宗砌

[一一四五]深草や里もふり行秋毎に
[一一四六]身のうきふしみ山な時雨そ

智薀法師

[一一四七]雲ふく風の冷しき音
[一一四八]木葉なとあたの時雨に契るらん

心敬

[一一四九]中々に二の川は見るもうし
[一一五〇]三室龍田の紅葉ちる頃

專順

[一一五一]別やさそふ天の川かせ
[一一五二]なきさなる岡邊の木葉散々に

賢盛

[一一五三]おとも霰のあらし凩
[一一五四]瀧つ瀬の落葉かうへに玉こえて

專順

[一一五五]水も淋しき故郷の池
[一一五六]猿さわきならのは落る山の陰

宗砌

[一一五七]さそな都とおもふ山里
[一一五八]ならの葉の落る霜夜に寐覺して

心敬

[一一五九]かれや殘らん霜の下草
[一一六〇]まはらなる杜の朽はのかさなりて

賢盛

[一一六一]うき身しらてや思ひ初けん
[一一六二]ちりそ行我住山の下紅葉

[一一六三]ちらしおく他言のはに名やたゝん
[一一六四]あらしの山の木々の冬枯

法印行助

[一一六五]かへり水無瀬の宿の古道
[一一六六]山もとの瀧もあらはに木は枯て

能阿法師

[一一六七]落來るかけもはやき隼
[一一六八]音さそふ霜のはやしの朝風

[一一六九]枯野ふく風はいつくに舍るらん
[一一七〇]夕の雲のさむき山もと

專順

[一一七一]かつきえなからふれる初雪
[一一七二]松風の夕の庭に猶さえて

能阿

[一一七三]めくる時雨や餘所の夕暮
[一一七四]冬の日の林の奥に鐘寒て

智薀

[一一七五]かゝるうらみそ獨つれなき
[一一七六]葛のはの冬枯わたる松さひて

賢盛

[一一七七]吹としふくはすこき秋風
[一一七八]かるゝ野の一むら薄ひとつ松

心敬

[一一七九]哀にみゆる野邊の冬枯
[一一八〇]なてしこの一花殘る霜の下

[一一八一]床は霜なる有明のつき
[一一八二]冬枯の草の庵に夢さめて

智薀

[一一八三]春まつ年の末いのる人
[一一八四]冬枯の草の露とも身をしらて

專順

[一一八五]いつまて草のかゝる露霜
[一一八六]武藏野をゆけは秋過冬の來て

心敬

[一一八七]いつくの山におもひいらまし
[一一八八]むさし野は草の爪木も冬枯て

[一一八九]霜のうへなるけた物の跡
[一一九〇]分なるゝゐなるけた物の跡

賢盛

[一一九一]庭にいりたつ木からしの風
[一一九二]寒き日は野邊の小鳥も人馴て

智薀

[一一九三]曇るかとみれはさたかに雪晴て
[一一九四]木の葉の後の冬の夜の月

專順

[一一九五]すめは水こそ閑にもゆけ
[一一九六]月影のこほれるまゝに雲消て

[一一九七]中空ひたす海そ杳けき
[一一九八]寒のこる月のつりはり細きよに

心敬

[一一九九]よこしまに咲窓の梅かえ
[一二〇〇]さゆる夜の庭の月影さし更て

能阿

[一二〇一]外面の山の木葉ちる頃
[一二〇二]霜枯の野邊の故郷月さえて

宗砌

[一二〇三]ふすまもうすし苔の小莚
[一二〇四]敷妙のまくらの古屋霜寒て

[一二〇五]庭火をたきてうたふ榊葉
[一二〇六]鳥の音も八度の霜の寒る夜に

行助

[一二〇七]入江やこほりなかれよるらん
[一二〇八]むら蘆の下葉に霜のたゝよひて

專順

[一二〇九]風やかれ野の色に吹らん
[一二一〇]冬されは蘆の花ちる遠小舟

智薀

[一二一一]烈しく送る袖の追風
[一二一二]冬枯の山もといつる蜑小舟

[一二一三]なれもうつらと鳴やをらるん
[一二一四]霜枯のまのゝ入江の夕千鳥

宗砌

[一二一五]楸うつろふ浜川の水
[一二一六]友やなき鳴ね恨る夕千鳥

能阿

[一二一七]つなかぬ駒は野にやかふらん
[一二一八]山の端にあちむら渡り日は冱て

賢盛

[一二一九]青葉も見えぬ霜の松かえ
[一二二〇]山水の月のよ床に鴨啼て

宗砌

[一二二一]をしね一むら殘る澤のへ
[一二二二]つらゝゐる入江は鴨の跡もなし

賢盛

[一二二三]生田のもりの陰を行水
[一二二四]梢よりなかれにあかす鴛のゐて

專順

[一二二五]二度かへりみつの江の里
[一二二六]立鳥のつかひはなれぬ波にきて

[一二二七]月さむしとや千鳥鳴らん
[一二一八]霜こほる袖の川原をかへる夜に

心敬

[一二二九]かたしく袖に月はさえけり
[一二三〇]河原風氷をわたるふねにねて

[一二三一]とは山しろく雪そつもれる
[一二三二]朝こほりかり田の月に末とちて

[一二三三]かりかねうきたる秋のこのころ
[一二三四]朽やらぬを田のいなくき霜ふりて

賢盛

[一二三五]ふりわけかみのとけぬこゝろよ
[一二三六]朝ことの井つゝのつらゝとちそひて

專順

[一二三七]ゆふへの雨の竹をうつこゑ
[一二三八]いつのまに霰ふる夜の更ぬらむ

賢盛

[一二三九]雪になるをのかせの烈しさ
[一二四〇]はし鷹をすゑ野にしけきすゝの聲

心敬

[一二四一]いのちやわれをのこしおくらん
[一二四二]鳥のふすかりはそこゝろとまりやま

宗砌

[一二四三]我とたゝ打こそなるれこひころも
[一二四四]たかはのとりをたつるかり杖

[一二四五]きてかくれすむ草の戸のうち
[一二四六]人をさへかりはの鳥やたのむらん

心敬

[一二四七]わたす世とほきくめの岩はし
[一二四八]絶にけるその御かりはは名を留て

賢盛

[一二四九]こゝろのあらはつみおもくせよ
[一二五〇]諏訪山の御狩は神も請つへし

宗砌

[一二五一]竹の末葉にむすふゆふして
[一二五二]山あゐの袖の霜よや更ぬらん

賢盛

[一二五三]それもしをるゝあまの羽衣
[一二五四]ふる霜やかさす蘿に消ぬらむ

[一二五五]杣木とる山はあまたに分入て
[一二五六]峯に墨燒しからきの里

行助

[一二五七]哀にも眞柴折たく夕煙
[一二五八]すみうる市の歸るさのやま

心敬

[一二五九]うす衣冬は綿にそ成にける
[一二六〇]世をわひ人のたのむ埋火

行助

[一二六一]なひく蘆火そ浦に影さす
[一二六二]あま衣冬の袖たに一重にて

[一二六三]上かうへにとおもふかの國
[一二六四]かさねたるつくしの綿も寒きよに

賢盛

[一二六五]紅葉もわれをすゝめてそちる
[一二六六]風寒み酒あたゝむる冬の日に

行助

[一二六七]うかるゝ玉や空に消なん
[一二六八]さやかなる夕日の下のよこあられ

宗砌

[一二六九]木からしそよく山の下庵
[一二七〇]椎のはにかゝる霰の打ちりて

智薀

[一二七一]あふ人も宿はととへは物いはて
[一二七二]ふゝきに笠をかたふくる道

心敬

[一二七三]いつのよか其曉に至りなん
[一二七四]雪まつころそ霜にかねなる

宗砌

[一二七五]駒はやるかりはの夕風あれて
[一二七六]雪になるかと北そさむけき

賢盛

[一二七七]また雪みえぬ唐舟の道
[一二七八]波の上にふるやと雪をまつら山

[一二七九]磯の岩ねにたまるしら波
[一二八〇]捨小舟雪をはらはん主もなし

能阿

[一二八一]海のうへなる遠山のかけ
[一二八二]朝もよひきのふ見さり雪降て

[一二八三]しはし時雨の雲そはれたる
[一二八四]露寒き末野の山に雪降て

[一二八五]狩場の歸さえ物こそあれ
[一二八六]暮る野に月を待とる雪はれて

心敬

[一二八七]几帳のおくに見ゆる人影
[一二八八]白妙のかたひら雪に戸を明て

宗砌

[一二八九]跡よりきゆる山のうき雲
[一二九〇]行人の袖白妙に雪ふりて

[一二九一]初時雨過るも安くめくりきて
[一二九二]雪見る野邊にたつる小車

[一二九三]尋てたにもあひかたき頃
[一二九四]駒はなつ雪の山下くるゝ日に

[一二九五]學へる道も道にてはなし
[一二九六]小男鹿のあとのみ殘る雪の山

心敬

[一二九七]澤邊の水のをちかたのこゑ
[一二九八]鴈そ啼雪の此夜や更ぬらん

[一二九九]夕の鐘にかへる山下
[一三〇〇]鳥のなく雪の杉むら幽にて

[一三〇一]一むらの里は幽に日の暮て
[一三〇二]雪の大末に鳥なく聲

專順

[一三〇三]立こゑ寒し冬の朝市
[一三〇四]山下の雪におり居るむら鴉

[一三〇五]風こそ松の聲となりぬれ
[一三〇六]山下の大末は雪に埋れて

智薀

[一三〇七]己ひとりと松は古けり
[一三〇八]橘につもれる雪を打拂ひ

專順

[一三〇九]不二をおもひの山とたにみよ
[一三一〇]ふるかうへにあかす集る庭の雪

心敬

[一三一一]明れはちかくみゆる山の端
[一三一二]雪寒き麓の里にめもあはて

賢盛

[一三一三]かれ木のみたつ冬の山下
[一三一四]まきれすよ雪の高峯の一松

心敬

[一三一五]驚く夢に夜は更にけり
[一三一六]雪折の竹の下庵ふしわひて

智薀

[一三一七]いつはりなからあはれとや見ん
[一三一八]繪にかける雪のはせをは枯やらて

行助

[一三一九]いくへよとよらの竹の下道
[一三二〇]西にまた月ある雪の今朝晴て

心敬

[一三二一]道絶てさまよふ山の陰ふかし
[一三二二]雪のうへなる峯のむら雲

專順

[一三二三]やかてかく替るへしとは思きや
[一三二四]雪ふみわくる小野の山かけ

[一三二五]うしとていなむ方も覺す
[一三二六]木の本をたのむ雪野は道もなし

心敬

[一三二七]聞しにかはるまつかせのこゑ
[一三二八]山里に今夜の雪やつもるらん

[一三二九]冬木の梅も香やはかくるゝ
[一三三〇]山里はつもれる雪を籬にて

[一三三一]おもふほとをは誰かしらまし
[一三三二]淋しさは跡なき山の今朝の雪

[一三三三]たゝなほさりの人のあらまし
[一三三四]雪深したつねやはこん峯の庵

宗砌

[一三三五]うつみし箱に道そのこれる
[一三三六]たれ越て伊豆の高ねの今朝の雪

賢盛

[一三三七]その跡のこる宇多の御狩場
[一三三八]雪にきる笠置の寺の名も古て

宗砌

[一三三九]立てるも寂し松の一もと
[一三四〇]鷺の毛のみのゝを山の雪の暮

[一三四一]暮行年の末になるころ
[一三四二]降雪の積る印を棹に見て

[一三四三]いかてむかしをしのひかへさん
[一三四四]くたる世の天津神樂の舞の袖

[一三四五]君かめくみそつみを忘るゝ
[一三四六]佛たち雲井に高き名を聞て

賢盛

[一三四七]雪に猶園の呉竹打靡き
[一三四八]梅さたかなる冬の一本

專順

[一三四九]羽風の道はうたかひもなし
[一三五〇]梅匂ふ暦の末も年々に

賢盛

[一三五一]しめちか原の秋冬の色
[一三五二]下もえのいふきの山邊春待て

[一三五三]立方しるき市人のこゑ
[一三五四]春を待都の東あくる夜に

專順

[一三五五]人こそすまね雪ふかき山
[一三五六]さのみなと浮世に年をくらす覽

行助

[一三五七]かたふくからにさむき冬の日
[一三五八]我齡今年もくれはいかゝせん

智薀

[一三五九]をしむへき月日流て春もうし
[一三六〇]我身ふり行年のくれかた

宗砌