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竹林抄卷第五 戀連歌上
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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5. 竹林抄卷第五
戀連歌上

[一三六一]我こゝろこそうはのそらなれ と云句に
[一三六二]それとなく見しを思ひの初にて

法印行助

[一三六三]なからへて頼む契りの末いかに
[一三六四]またはつ草のねみんともせす

平賢盛

[一三六五]見るはおもひそ猶まさりける
[一三六六]聞てのみ人はうからしつらからし

智薀法師

[一三六七]いかにいひてか名をは立らむ
[一三六八]中立もまたこそなれねおほつかな

能阿法師

[一三六九]草の名の忍ふこゝろもみたれわひ
[一三七〇]ことなしひにやいひもよりなん

賢盛

[一三七一]我たへかたきこゝろをそしる
[一三七二]しのはしよ泪も袖をたのむらん

權大僧都心敬

[一三七三]なみたのとはぬ夕暮そなき
[一三七四]忍れとこゝろのしるをいかゝせん

法眼專順

[一三七五]なみたのしらぬ夕暮もなし
[一三七六]忍るをもらす心よ誰ならむ

心敬

[一三七七]戀のやつれはいとはれやせん
[一三七八]雨の夜の忍ひかよひに袖ぬれて

宗砌法師

[一三七九]君かあたりはかすますもかな
[一三八〇]月もうし忍ひかよひの夜半の空

[一三八一]山にいらぬはこゝろなかりき
[一三八二]忍ぶ夜を哀とおもへ空の月

行助

[一三八三]あふはうれしき春にこそあれ
[一三八四]忍ふ夜をしれはや月は霞むらん

[一三八五]ゆけはあまたにあへる里人
[一三八六]忍ひかねまたねぬよはに起出て

心敬

[一三八七]行へをとはゝいかゝ答へん
[一三八八]思ひわひ我名をかへて忍ふよに

[一三八七]さしていはぬそをしへなりける
[一三九〇]尋ぬやと君か宿をかくすらん

專順

[一三九一]もしかはりなは何とかこたん
[一三九二]をしへつる言葉はかりに宿とひて

行助

[一三九三]心の道やをしへならまし
[一三九四]妹かりにゆけはなみたの先たちて

賢盛

[一三九五]猶そぬれそふ歸るさの袖
[一三九六]思ひ佗ゆけとも人はあはぬよに

宗砌

[一三九七]おもふこゝろのなとちかふらん
[一三九八]行と來と同し戀路によは更て

[一三九九]神のめくみをうることやいつ
[一四〇〇]はかなくて難面中を祈る世に

專順

[一四〇一]めくみのあらは身もたちぬへし
[一四〇二]あはぬせに水のかしはのうらめしや

賢盛

[一四〇三]袖ほしあへすさくらちる陰
[一四〇四]花にこそ契りし人のうつろひて

行助

[一四〇五]はかなやこゝろ何たのむらん
[一四〇六]風の雲嵐の花を契りにて

心敬

[一四〇七]まきこむる袖の梅か香吹風に
[一四〇八]花のちきりは妹もとかめし

賢盛

[一四〇九]此あしたより人やかはらん
[一四一〇]頼れぬ露のちきりに秋は來て

行助

[一四一一]あとなしことになれるあらまし
[一四一二]かけこしは夕の雲を契りにて

智薀

[一四一三]おもふもむなし兼言の末
[一四一四]契よりきのふの雲は跡見えて

心敬

[一四一五]なみたすゝろにものおもふころ
[一四一六]契らすよたれに夕のうかるらん

[一四一七]人をまつ日のいくか過らん
[一四一八]後の世も同し道にと契きて

行助

[一四一九]おもへはいのちをしからぬ中
[一四二〇]後の世とちきるをふかき頼みにて

[一四二一]ふたり消んとたれおもふ覽
[一四二二]末長き契りに後の世をかけて

賢盛

[一四二三]あはさらましと何おもふらん
[一四二四]契れ人尚後の世のあるものを

宗砌

[一四二五]さま/\にこそふたり成ぬれ
[一四二六]愚にや生れん後を契るらむ

心敬

[一四二七]いつの契そ身には覺えす
[一四二八]生れあふとはかり人をたのみきて

賢盛

[一四二九]またすといひて忍ふくれかた
[一四三〇]明日しらぬ身にいく度の空たのめ

宗砌

[一四三一]かはらしとのみあひおもふ中
[一四三二]恨すよ神なるよはの空たのめ

[一四三三]けふも過ぬと我そおとろく
[一四三四]あた人はたのめし宿の前渡り

專順

[一四三五]我身もくちぬこふる世もうし
[一四三六]かけてまつまへのたな橋朽ぬ間に

賢盛

[一四三七]けふも過ぬと我そおとろく
[一四三八]あた人はたのめし宿の前渡り

專順

[一四三九]けふも過ぬと我そおとろく
[一四四〇]あれはとて人のあはれむ命かは

行助

[一四四一]身に猶たのめ君かことの葉
[一四四二]僞のすゑをはかなきいのちにて

心敬

[一四四三]なひくこゝろもうつろひやせん
[一四四四]たのましよ世は定なく人はうし

宗砌

[一四四五]心ほそくもなるはこのくれ
[一四四六]明日まての身をたにしらす戀佗て

[一四四七]我はなき名を又歎くころ
[一四四八]戀しなんとはかりの世に住佗て

[一四四九]又も無名や身よりたゝまし
[一四五〇]戀しなん後をおもひの夕煙

行助

[一四五一]人はこゝろのなとなかるらん
[一四五二]戀しなはむくふへきさへうき身にて

宗砌

[一四五三]あはれもかけす尚そつれなき
[一四五四]此世にはあらしといふを問もせて

心敬

[一四五五]おほつかなしや雲風の色
[一四五六]まては猶はれぬ思ひの雨のくれ

專順

[一四五七]あやめも見えぬ秋の夕暮
[一四五八]月まつといへはなみたのあやにくに

智薀

[一四五九]こゝろしをるゝ夕暮の雨
[一四六〇]待ものをいてはといひしよはの月

能阿

[一四六一]あはゝそ島のねをもかこたん
[一四六二]夢にさへ待人うとく目は覺て

宗砌

[一四六三]道なきほとに雪のふるころ
[一四六四]心たにかよはゝ猶や待て見ん

專順

[一四六五]かりねの床は夢も定す
[一四六六]端近くたのめし宿に待更て

心敬

[一四六七]君か來ぬ夜をわひつゝそふる
[一四六八]幾度かねやへもいらてかこつ覽

專順

[一四六九]やまぬおもひそなみたさきたつ
[一四七〇]更てこそ待もよはらめよひの雨

能阿

[一四七一]あたに契し人のことの葉
[一四七二]今こんのよはをは誰かかさぬらん

[一四七三]とはすとせめて餘所にもらすな
[一四七四]うらめしや待夜を誰とかたるらん

心敬

[一四七五]かさねてとはゝ逢もこそせめ
[一四七六]待人をたのむゆふけのちかふ夜に

宗砌

[一四七七]いつはりや夢のさはりと成ぬ覽
[一四七八]とはれぬ門をたゝく松かせ

[一四七九]つれなやなとか知らす顔なる
[一四八〇]言葉にも心の松はあらはさて

能阿

[一四八一]命をさへにかこつ戀しさ
[一四八二]とはれぬを待てふむしの名もつらし

行助

[一四八三]雲吹風に月は出けり
[一四八四]秋更ぬいつまて人のまたるらん

宗砌

[一四八五]あけおく戸ほそ月は入けり
[一四八六]待よひのいたつら伏に秋更て

[一四八七]朝夕ふかき袖の海つら
[一四八八]戀そ山待夜の塵やなりぬらん

能阿

[一四八九]はらふたもとそなみたかちなる
[一四九〇]つもりきな待ていくよのとこのちり

宗砌

[一四九一]たのめとていひしはかりの暮ことに
[一四九二]まちていくよのなかの月の月

[一四九三]こぬ夜はゝとひしににたる月もなし
[一四九四]待そらあけて雲そわかるゝ

專順

[一四九五]身をいたつらにいかゝなさまし
[一四九六]あへる夜もあるこそならひなからへよ

[一四九七]竹のすゑ葉はなひくとそみる
[一四九八]世をしらぬ人のこゝろはをれふさて

宗砌

[一四九九]いまはの月そひとりかたふく
[一五〇〇]とへかしななみたのそこの袖の秋

能阿

[一五〇一]月まつほとゝうたふあはれさ
[一五〇二]いかにせん人はとひこぬあきのくれ

行助

[一五〇三]おもひやるにもあちきなの身や
[一五〇四]又やみむ新手枕の夜はの月

[一五〇五]さためぬまくらかたる行すゑ
[一五〇六]君とみる月は中々なみたにて

心敬

[一五〇七]なかれての世をなにちきるらん
[一五〇八]月もはや西になる此人のきて

[一五〇九]更行よはのこゝろくるしき
[一五一〇]かたるまの月をまくらの西にみて

[一五一一]おもふこゝろとほくつれゆく
[一五一二]かはらしの後の世まてをかたるよに

[一五一三]わかれてみれはあかつきそうき
[一五一四]あふ夢やさめぬうつゝに成ぬらん

智薀

[一五一五]なのらすとても我としれ人
[一五一六]うき中やむかふ時たにわするらん

心敬

[一五一七]中につくすは言葉なりけり
[一五一八]へたてうき夜のころもを恨にて

宗砌

[一五一九]はかなやこゝろおもひすてはや
[一五二〇]あふ夜さへ過しうらみに我なきて

心敬

[一五二一]後とちきるをいかゝたのまん
[一五二二]あふ夜たにつひにこゝろのとけもせて

專順

[一五二三]くやしやこゝろあちきなの身や
[一五二四]一夜ねし人にあさくもわかとけて

心敬

[一五二五]おもひいつるはなとわするらん
[一五二六]今夜のみ絶にし人のとふもうし

[一五二七]あまりうき世を人にとはゝや
[一五二八]別てふことはたか身にはしむらん

賢盛

[一五二九]おもひはしるにすめる世の中
[一五三〇]そふとてもつひのわかれをいかゝせん

宗砌

[一五三一]かこちてあかすなかきよのそら
[一五三二]しはしまて別やはてんいかゝせん

能阿

[一五三三]たゝすむかけそ月に見えける
[一五三四]よしさらは歸るさいそけ名やたゝん

行助

[一五三五]かゝる契はありて何せん
[一五三六]なくさめて餘所の歸さに問もうし

心敬

[一五三七]なほもや夢の契り待見ん
[一五三八]殘る夜をいたつらふしの別路に

宗砌

[一五三九]起てみつからむすふ五更
[一五四〇]色つらきはなたの帶の衣々に

[一五四一]袖かうはしき人のうつり香
[一五四二]衣々の夢にまきれぬ花もうし

智薀

[一五四三]圓居する春の盃めくる間に
[一五四四]なみたをそゝく別路の袖

能阿

[一五四五]いかて衣の玉は見さらん
[一五四六]泪にも哀はかけぬ歸るさに

心敬

[一五四七]法を求むる人そかしこき
[一五四八]歸るさのあかつき起はなみたにて

[一五四九]月におとろく有明の春
[一五五〇]とけてしも打ねぬ人に起別

賢盛

[一五五一]おもふ程にはこゝろおくらす
[一五五二]衣々の道より我もかへる夜に

心敬

[一五五三]なるゝそ夢の契りなりける
[一五五四]餘所に見し程は別も知ぬ世に

行助

[一五五五]おもへは悲し身のうへの夢
[一五五六]いつまてか人に別て殘るらん

專順

[一五五七]たのめ置ても何にかはせん
[一五五八]命をも人をもしらぬ衣々に

心敬

[一五五九]月みすは覺る夢をやしたはまし
[一五六〇]人の名殘のあかつきの鐘

宗砌

[一五六一]夜ふかき床に人そ休らふ
[一五六二]まよへとや別の月はかすむらん

[一五六三]曉起に馴るゝよな/\
[一五六四]月そうきいく歸るさに殘るらん

心敬

[一五六五]また名殘ある明仄の空
[一五六六]月そ憂き幾衣々を送るらん

[一五六七]またふかき夜に殘る眤言
[一五六八]たか爲に休らふ月そいそくなよ

智薀

[一五六九]秋の色つれなき人にみるもうし
[一五七〇]よし別路は月もくらかれ

宗砌

[一五七一]人なき庭はたゝ松の風
[一五七二]歸るさに心ほそくもたゝすみて

心敬

[一五七三]なみたの露そ消かてにおく
[一五七四]草も木も思ひの色の衣々に

[一五七五]霧にへたつる今朝の別路
[一五七六]朝貌を見る間も人はとゝまらて

能阿

[一五七七]うかりし人に露もみたれよ
[一五七八]別路の一むら薄かれやらて

心敬

[一五七九]おもひやるにも袖は露けし
[一五八〇]とはゝやな別し宿の花すゝき

能阿

[一五八一]きのふ今日こそ物おもひけれ
[一五八二]戀しさは別し後をはしめにて

賢盛

[一五八三]人はこゝろをおきし別路
[一五八四]消わひぬ朝の霜の後の暮

宗砌

[一五八五]歸るさの物とや袖をぬらすらん
[一五八六]後のくれまて人はおもはし

專順

[一五八七]別るゝ道の長き黒かみ
[一五八八]ねくたれの姿を人の見んもうし

賢盛

[一五八九]おもひいかにと人なとかめそ
[一五九〇]ともかくもいはゝこゝろやあらはれん

專順

[一五九一]うきもいかなる契りなるらん
[一五九二]とにかくにいひのかるれと名は立ぬ

[一五九三]何事か人の詞にもれぬらん
[一五九四]あひもあはすも名は立にけり

宗砌

[一五九五]空さへつらき衣々の床
[一五九六]數々に塵の立名をおもひ侘

賢盛

[一五九七]くゆりわふれはなみたこそそへ
[一五九八]空燒の煙の末に名の立て

行助

[一五九九]曇るをたのむ暮もはかなし
[一六〇〇]月にさへこゝろ置るゝ名の立て

[一六〇一]胸のおもひを人はしらすや
[一六〇二]うき名にはいひけたれてやもれぬ覽

能阿

[一六〇三]ともに忍ふるひとにとははや
[一六〇四]果々はたか名の世には洩ぬらん

智薀

[一六〇五]忍ふこゝろも今はよわりぬ
[一六〇六]問かしなうき名立ともいかゝせん

宗砌

[一六〇七]かりそめなりし夢の別路
[一六〇八]又こぬはうき身の程や見えつ覽

[一六〇九]見まくほしきは君にこそあれ
[一六一〇]また來ぬはさらぬ別の跡に似て

[一六一一]むすふ夢にもつらき面影
[一六一二]又もこすなりにし後の床荒て

能阿

[一六一三]惜む別の後もたのます
[一六一四]手枕をかはさぬ秋に閨ふりて

[一六一五]つもるはうらみさては戀しさ
[一六一六]たのめしは跡なし事の雪の庭

宗砌

[一六一七]憂事の數かと年は重りて
[一六一八]思ひの眞砂いはほともしれ

賢盛

[一六一九]したの思ひそやるかたもなき
[一六二〇]さゝれ石のわれてあはんも知ぬ世に

能阿

[一六二一]とはに逢見ん憂人もかな
[一六二二]年を經る戀の山松朽つへし

智薀

[一六二三]衣手おもくしをれ來にけり
[一六二四]なけきこる戀の山賤我なれや

專順

[一六二五]思ひの色を誰におほせん
[一六二六]戀すてふ事を重荷にくるしみて

賢盛

[一六二七]みしかき夢に似たる別路
[一六二八]玉の緒よ又も逢すは絶つへし

能阿

[一六二九]おとろかしてはまたも問來す
[一六三〇]世になしといひてかはれる人はうし

心敬

[一六三一]なけく思ひよ天地もしれ
[一六三二]國となり世となるよりの戀もうし