University of Virginia Library

小野小町老ひ衰へて關寺のほとりに住みゐたるを。歌道の譽れに依りて 七夕祭に寺に招 かれ。昔に歸りて舞をまふ事を作る。愚見抄に。「小野小町大江惟章が 妻になりて筑紫 へ下りけるが。後に尼になりて近江の國關寺のあたりにありける。」鴉 鷺記に。「いく ばくか人の心を惱まししといへども。おとろへぬれば鄙にさすらひ都に さまよひ。はて は關寺の邊に庵を結びて。野邊の若草に命をささへ。うきすまひをせし を。智證大師御 覽じましまして。寺にて七日の御説法ありとて召されしに。身のありさ まを恥ぢて參ら ざりし時。御使たびたびなりしかば。召事はをののやけばとわびけんも。 誠にあはれに 覺えたり。そのまま乞食となりて昔し志のばれしほど。今は厭はれ終に 路次の骸とな る。」など見えたるを。取り合はせ面白く飜案したるなるべし。小町の 事を作れるも の。草子洗小町、通小町、卒都婆小町などあるに區別して關寺小町と名 づく。