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 A23, A24. 
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[235、236、237、238、239]

人の家につき%\しきもの

厨。侍の曹司。箒のあたらしき。懸盤。童女。はしたもの。衝立障子。三尺の几帳。裝束よくしたる餌嚢。からかさ。かきいた。棚厨子。ひさげ。銚子。中盤。圓座。ひぢをりたる廊。竹王繪かきたる火桶。

ものへ行く道に、清げなる男の、竪文のほそやかなる持ちて急ぎ行くこそ、何地ならんとおぼゆれ。又清げなる童女などの、袙いと鮮かにはあらず、萎えばみたる、屐子のつややかなるが、革に土多くついたるをはきて、白き紙に包みたる物、もしは 箱の蓋に、草紙どもなど入れて持て行くこそ、いみじう、呼び寄せて見まほしけれ。 門ぢかなる所をわたるを、呼び入るるに、愛敬なく答もせで往く者は、つかふらん人 こそ推しはからるれ。

行幸はめでたきもの、上達部、公だち車などのなきぞ少しさう%\しき。よろづの事よりも、わびしげなる車に、裝束わろくて物見る人、いともどかし。説經などはいとよし。罪うしなふかたの事なれば。それだに猶あながちなるさまにて、見苦しかるべきを、まして祭などは、見でありぬべし。下簾もなくて、白きひとへうち垂れなどしてあめりかし。唯その日の料にとて、車も下簾もしたてて、いと口をしうはあらじと出でたるだに、まさる車など見つけては、何しになど覺ゆるものを、ましていかばかりなる心地にて、さて見るらん。おりのぼりありく公達の車の、推し分けて近う立つ時などこそ、心ときめきはすれ。よき所に立てんといそがせば、疾く出でて待つほどいと久しきに、居張り立ちあがりなど、あつく苦しく、まち困ずる程に、齋院の垣下に參りたる殿上人、所の衆、辨、少納言など、七つ八つ引きつづけて、院のかたより走らせてくるこそ、事なりにけりと驚かれて、嬉しけれ。殿上人の物言ひおこせ、所々の御前どもに水飯くはすとて、棧敷のもとに馬ひき寄するに、おぼえある人の子どもなどは、雜色などおりて、馬の口などしてをかし。さらぬものの、見もいれられぬなどぞ、いとほしげなる。御輿の渡らせ給へば、簾もあるかぎり取りおろし、過ぎさせ給ひぬるに、まどひあぐるもをかし。その前に立てる車は、いみじう制するに、などて立つまじきぞと、強ひて立つれば、いひわづらひて、消息などするこそをかしけれ。所もなく立ち重りたるに、よき所の御車、人給ひきつづきて多くくるを、いづくに立たんと見る程に、御前ども唯おりに下りて、立てる車どもを唯のけに退けさせて、人給つづきて立てるこそ、いとめでたけれ。逐ひのけられたるえせ車ども、牛かけて、所あるかたにゆるがしもて行くなど、いとわびしげなり。きら/\しきなどをば、えさしも推しひしがずかし。いと清げなれど、又ひなび怪しく、げすも絶えず呼びよせ、ちご出しすゑなどするもあるぞかし。

廊に便なき人なん、曉に笠ささせて出でけるといひ出でたるを、よく聞けば我がうへなりけり。地下などいひても、めやすく、人に許されぬばかりの人にもあらざめるを、怪しの事やと思ふほどに、うへより御文もて來て、「返事只今」と仰せられたり。何事にかと思ひて見れば、大笠の繪をかきて、人は見えず、唯手のかぎり笠をとらへさせて、下に

三笠山やまの端あけしあしたより

とかかせ給へり。猶はかなき事にても、めでたくのみ覺えさせ給ふに、恥しく心づきなき事は、いかで御覽ぜられじと思ふに、さるそらごとなどの出でくるこそ苦しけれと、をかしうて、こと紙に、雨をいみじう降らせて、下に、

雨ならぬ名のふりにけるかな

さてや濡れぎぬには侍らんと啓したれば、右近内侍などにかたらせ給ひて、笑はせ給ひけり。

三條の宮におはしますころ、五日の菖蒲輿など持ちてまゐり。藥玉まゐらせなどわかき人々 御匣殿など、藥玉して、姫宮若宮つけさせ奉りいとをかしき藥玉ほかよりも參らせたるに、あをさしといふものを人の持てきたるを、青き薄樣を艶なる硯の蓋に敷きて、「これませこしにさふらへば」とてまゐらせたれば、

みな人は花やてふやといそぐ日もわがこころをば君ぞ知りける

と、紙の端を引き破りて、書かせ給へるもいとめでたし。

十月十餘日の月いとあかきに、ありきて物見んとて、女房十五六人ばかり、皆濃き衣をうへに著て、引きかくしつつありし中に、中納言の君の、紅の張りたるを著て、 頸より髮をかいこし給へりしかば、「あたらしきぞ」とて、「よくも似たまひしかな。 靱負佐」とぞわかき人々はつけたりし。後に立ちて笑ふも知らずかし。

成信の中將こそ、人の聲はいみじうよう聞き知り給ひしか。同じ所の人の聲などは、常に聞かぬ人は、更にえ聞き分かず、殊に男は、人の聲をも手をも、見わき聞きわかぬものを、いみじう密なるも、かしこう聞き分き給ひしこそ。

大藏卿ばかり耳とき人なし。まことに蚊の睫の落つるほども、聞きつけ給ひつべくこそありしか。職の御曹司の西おもてに住みしころ、大殿の四位少將と物いふに、側にある人、この少將に、扇の繪の事いへとさざめけば、「今かの君立ち給ひなんにを」と密にいひ入るるを、その人だにえ聞きつけで、「何とか/\」と耳をかたぶくるに、手をうちて、「にくし、さのたまはば今日はたたじ」とのたまふこそ、いかで聞き給ひつらんと、あさましかりしか。

硯きたなげに塵ばみ、墨の片つかたにしどけなくすりひらめかし、勞多きになりたるが、ささしなどしたるこそ心もとなしと覺ゆれ。萬の調度はさるものにて、女は鏡硯こそ心のほど見ゆるなめれ。おきぐちのはざめに、塵ゐなど打ち捨てたるさま、こよなしかし。男はまして文机清げに押し拭ひて、重ねならずば、ふたつ懸子の硯のいとつきづきしう、蒔繪のさまもわざとならねどをかしうて、墨筆のさまなども、人の目とむばかりしたてたるこそ、をかしけれ。とあれどかかれどおなじ事とて、黒箱の蓋も片方おちたる硯、わづかに墨のゐたる、塵のこの世には拂ひがたげなるに、水うち流して、青磁の龜の口おちて、首のかぎり穴のほど見えて、人わろきなども、つれなく人の前にさし出づかし。人の硯を引き寄せて、手ならひをも文をも書くに、「その筆な使ひたまひそ」と言はれたらんこそ、いとわびしかるべけれ。うち置かんも人わろし、猶つかふもあやにくなり。さ覺ゆることも知りたれば、人の爲るもいはで見るに、手などよくもあらぬ人の、さすがに物かかまほしうするが、いとよくつかひかためたる筆を、あやしのやうに、水がちにさしぬらして、こはものややりと、假名に細櫃の蓋などに書きちらして、横ざまに投げ置きたれば、水に頭はさし入れてふせるも、にくき事ぞかし。されどさいはんやは。人の前に居たるに「あなくら、奧より給へ」といひたるこそ、又わびしけれ。さしのぞきたるを見つけては、驚きいはれたるも。思ふ人の事にはあらずかし。

めづらしといふべきことにはあらねど、文こそ猶めでたきものなれ。遥なる世界にある人の、いみじくおぼつかなく、いかならんと思ふに、文を見れば、唯今さし向ひたるやうにおぼゆる、いみじきことなりかし。わが思ふ事を書き遣りつれば、あしこまでも行きつかざらめど、こころゆく心地こそすれ。文といふ事なからましかば、いかにいぶせく、くれふたがる心地せまし。よろづの事思ひ/\て、その人の許へとて こま%\と書きて置きつれば、おぼつかなさをも慰む心地するに、まして返事見つれば、命を延ぶべかめる、實にことわりにや。