University of Virginia Library

題しらず

さらぬだに世のはかなさをおもふ身にぬえなきわたる曙の空
鳥部野を心のうちに分けゆけばいまきの露にそでぞそぼつる
いつのよに長きねぶりのゆめ覺めて驚く事のあらむとすらむ
世の中を夢と見る/\はかなくもなほおどろかぬわが心かな
なき人もあるを思ふに世の中はねぶりのうちの夢とこそ知れ
來しかたの見しよの夢にかはらねば今も現のこゝちやはする
事となく今日暮れぬめり明日もまた變らずこそはひま過ぐる影
こえぬればまたもこの世に歸りこぬ死出の山こそ悲しかりけれ
はかなしやあだに命の露きえて野べにわが身の送りおかれむ
露の玉は消ゆればまたもおくものを頼もなきはわが身なりけり
あればとて頼まれぬかな明日はまた昨日と今日はいはるべければ
秋の色は枯野ながらもあるものを世のはかなさや淺茅生の露
年月をいかでわが身におくりけむ昨日の人もけふはなき世に