University of Virginia Library

雜十首

澤のおもにふせたるたづの一聲におどろかされて千鳥鳴くなり
ともになりて同じ湊を出づる舟の行方も知らずこぎ別れぬる
瀧おつる吉野のおくのみやがはの昔を見けむあとしたはばや
わが園の岡べにたてるひとつ松を友とみつゝ老いにけるかな
さま%\のあはれありつる山里を人につたへて秋の暮れける
山賤のすみぬと見ゆるわたりかな冬にあせゆくしづはらの里
やまざとの心の夢にまどひをれば吹きしらまかす風の音かな
月をこそながめば心うかれ出でめ闇なる空にたゞよふやなぞ
波たかき芦屋の沖を歸る船のことなくて世を過ぎむとぞ思ふ
蜘蛛のいと世をかくて過ぎにける人の人なる手にもかゝらで