University of Virginia Library

月十首

伊勢島や月の光のさびるうらは明石には似ぬかげぞすみける
池みづにそこきよくすむ月かげはなみに氷をしきわたすかな
月を見てあかしの浦を出づる舟は波のよるとや思はざるらむ
はなれたる白良のはまのおきの石をくだかであらふ月の白波
思ひとけば千里の影もかずならずいたらぬ隈も月はあらせじ
大かたの秋をば月につゝませて吹きほころばす風のおとかな
なにごとかこの世に經たる思出をとへかし人に月を教へむ
おもひ知るをよには隈なき影ならずわが目にくもる月の光は
うき世とも思ひとほさじおしかへし月のすみける久方のそら
月の夜や友とをなりていづくにも人しらざらむすみか教へよ