University of Virginia Library

題しらず

つく%\とものを思ふにうち添へてをり哀なる鐘のおとかな
なさけありし昔のみ猶忍ばれてながらへまうき世にもあるかな
軒ちかき花たちばなに袖しめて昔をしのぶなみだつゝまむ
何ごとも昔をきくはなさけありて故あるさまに忍ばるゝかな
わがやどは山のあなたにあるものを何とうき世をしらぬ心ぞ
くもりなき鏡の上にゐる塵をめにたてゝ見る世とおもはばや
ながらへむと思ふ心ぞ露もなき厭ふにだにもたらぬ憂き身は
思ひ出づる過ぎにし方を恥かしみあるに物うきこの世なりけり