University of Virginia Library

花の歌十五首よみけるに

吉野山人にこゝろをつけがほに花よりさきにかゝるしらくも
山さむみ花咲くべくもなかりけりあまりかねても尋ね來にけり
かたばかりつぼむと花を思ふよりそらまた心ものになるらむ
おぼつかな谷は櫻のいかならむみねにはいまだかけぬしら雲
花と聞くは誰もさこそはうれしけれ思ひしづめぬ我が心かな
初花のひらけはじむる梢よりそばえて風のわたるなるかな
おぼつかな春の心の花にのみいづれのとしかうかれそめけむ
いざ今年ちれと櫻をかたらはむなか/\さらば風やをしむと
風ふくとえだをはなれて落つまじく花とぢつけよ青柳のいと
吹く風のなべて梢にあたるかなかばかり人のをしむさくらを
なにとかくあだなる花の色をしも心にふかくそめはじめけむ
おなじ身の珍しからず惜めばや花もかはらず咲けば散るらむ
嶺にちる花はたになる木にぞ咲くいたくいとはじ春の山かぜ
山おろしに亂れて花のちりけるを岩はなれたる瀧と見たれば
花もちりひとも都にかへりなば山さびしくもならむとすらむ