University of Virginia Library

落花の歌あまた詠みけるに

勅とかやくだす御門のいませかしさらば恐れて花やちらぬと
浪もなく風ををさめし白川のきみのをりもやはなは散りけむ
いかでわれこの世の外の思ひ出に風をいとはで花をながめむ
年をへてまちもをらむと山櫻こゝろを春はつくすなりけり
よし野山たにへたなびく白雲はみねの櫻のちるにやあるらむ
山おろしの木のもと埋む花の雪は岩井にうくも氷とぞ見る
春風の花のふゞきにうづもれて行きもやられぬ志賀のやま道
立ちまがふ嶺の雲をば拂ふとも花をちらさぬあらしなりせば
よし野山花ふきぐして峯こゆるあらしは雲とよそに見ゆらむ
惜まれぬ身だにも世にはあるものをあなあやにくの花の心や
うき世には留めおかじと春風の散らすは花ををしむなりけり
諸共に我をもぐしてちりね花うき世をいとふこゝろある身ぞ
思へたゞ花のなからむ木の下に何をかげにて我が身住みなむ
ながむとて花にもいたく馴れぬれば散る別こそ悲しかりけれ
をしめばと思ひげもなくあだにちる花は心ぞかしこかりける
こずゑふく風の心はいかゞせむしたがふ花のうらめしきかな
いかでかはちらであれとも思ふべきしばしとしたふ情しれ花
木のもとの花に今宵はうづもれてあかぬ梢をおもひあかさむ
木のもとに旅ねをすれば吉野山花のふすまをきするはるかぜ
雪と見てかげに櫻のみだるれば花のかさきる春の夜のつき
ちる花ををしむ心やとゞまりてまた來む春のたれになるべき
春ふかみ枝もうごかで散る花は風のとがにはあらぬなるべし
あながちに庭をさへ吹く嵐かなさこそこゝろに花をまかせめ
あだに散るさこそ梢の花ならめすこしはのこせ春のやま風
心得つたゞひとすぢに今よりは花ををしまで風をいとはむ
よし野山櫻にまがふ白雲のちりなむのちは晴れずもあらなむ
花と見ばさすが情をかけましを雲とてかぜのはらふなるべし
風さそふ花のゆくへは知らねどもをしむ心は身にとまりけり
花ざかり梢をさそふ風ならでのどかに散らむ春はあらばや