University of Virginia Library

數ならぬ心のとがになしはてじ知らせてこそは身をも恨みめ
うち向ふそのあらましの俤をまことになして見るよしもがな
山賤のあら野をしめて住みそむる片便なる戀もするかな
常磐山しひの下柴かりすてむかくれておもふかひのなきかと
歎くとも知らばや人のおのづから哀とおもふこともあるべき
なにとなくさすがに惜き命かなありへば人やおもひ知るとて
なに故か今日までものを思はまし命にかへてあふせなりせば
あやめつゝ人知るとてもいかゞせむ忍び果つべき袂ならねば
なみだ川深く流るゝ水脈ならばあさき人目につゝまざらまし
うきたびになどなと人を思へどもかなはで年の積りぬるかな
なか/\になれぬ思のまゝならば恨ばかりや身につもらまし
何せむにつれなかりしを恨みけむ逢はずばかゝる思せましや
むかはらば我がなげきのむくいにて誰ゆゑ君がものを思はむ
身のうさの思ひ知らるゝことわりに抑へられぬは涙なりけり
日をふれば袂の雨の足そひて晴るべくもなきわが心かな
かきくらす涙の雨のあし繁みさかりにもののなげかしきかな
もの思へどかゝらぬ人もあるものを哀なりける身の契かな
岩代の松風きけばものをおもふ人もこゝろはむすぼほれけり
なほざりの情は人のあるものをたゆるは常のならひなれども
何とこはかずまへられぬ身のほどに人をうらむる心ありけむ
うきふしをまづおもひしる涙かなさのみこそはと慰むれども
さま%\に思ひみだるゝ心をば君がもとにぞつかねあつむる
もの思へばちゞに心ぞくだけぬる信太の森のえだならねども
かゝる身におふし立てけむたらちねの親さへつらき戀もするかな
おぼつかな何の報のかへり來て心せたむるあだとなるらむ
かきみだる心やすめのことぐさはあはれ/\と歎くばかりぞ
身を知れば人の咎とは思はぬにうらみがほにも濡るゝ袖かな
なか/\になるゝつらさにくらぶればうとき恨は操なりけり
人はうしなげきは露もなぐさまずこはさばいかにすべき心ぞ
日にそへて恨はいとゞおほ海のゆたかなりけるわが涙かな
さる事のあるなりけりと思ひ出でて偲ぶ心をしのべとぞ思ふ
今ぞ知るおもひ出でよと契りしはわすれむとての情なりけり
難波潟なみのみいとど數そひてうらみのひまや袖のかわかむ
心ざしのありてのみやは人をとふ情はなしとおもふばかりぞ
なか/\に思ひ知るてふ言の葉はとはぬに過ぎて恨めしきかな
などかわれ事の外なる歎せでみさをなる身にうまれざりけむ
汲みて知る人もありけむおのづからほりかねの井の底の心を
煙立つ富士のおもひの爭ひてよだけき戀をするがへぞゆく
涙川さかまくみをの底ふかみみなぎりあへぬわがこゝろかな
迫門口に立てるうしほのおほよどみよどむとしひもなき涙かな
いそのまになみあらげなる折々はうらみをかづく里のあま人
東路やあひの中山ほどせばみこゝろの奧の見えばこそあらめ
いつとなく思ひに燃ゆるわが身かな淺間の煙しめるよもなく
播磨路や心のすまに關すゑていかでわが身のこひをとゞめむ
哀てふなさけに戀のなぐさまば問ふ言の葉やうれしからまし
物思はまだ夕ぐれのまゝなるに明けぬとつぐるしば鳥の聲
夢をなど夜頃頼まで過ぎきけむさらで逢ふべき君ならなくに
さはといひて衣かへして打ちふせど目の合はばやは夢も見るべき
戀ひらるゝうき名を人に立てじとて忍ぶわりなきわが袂かな
夏草のしげりのみゆく思ひかな待たるゝ秋のあはれ知られて
紅のいろにたもとのしぐれつゝそでに秋あるこゝちこそすれ
あはれとてなどとふ人のなかるらむ物思ふやどの荻の上風
わりなしやさこそ物思ふ袖ならめ秋にあひてもおける露かな
いかにせむ來む世の蜑となる程にみるめ難くて過ぐる恨を
秋ふかき野べの草葉にくらべばやものおもふころの袖の白露
ものおもふ涙ややがてみつせ川人をしづむるふちとなるらむ
哀々この世はよしやさもあらばあれ來む世もかくや苦しかるべき
たのもしなよひ曉の鐘の音にもの思ふ罪はつきざらめやは