University of Virginia Library

月待つといひなされつるよひのまの心の色のそでに見えぬる
知らざりき雲井のよそに見し月のかげを袂にやどすべしとは
あはれとも見る人あらばおもはなむ月のおもてにやどす心を
月見ればいでやとよのみ思ほえてもたりにくゝもなる心かな
弓張の月にはづれて見し影のやさしかりしはいつかわすれむ
おもかげのわすらるまじき別かな名殘を人の月にとゞめて
あきの夜の月や涙をかこつらむ雲なきかげをもてやつすとて
天の原さゆるみそらは晴れながらなみだぞ月の隈になるらむ
もの思ふ心のたけぞ知られぬるよな/\月をながめあかして
月を見る心のふしをとがにしてたよりえ顏にぬるゝそでかな
思ひ出づる事はいつもといひながら月にはたへぬ心なりけり
あしびきの山のあなたに君すまば入るとも月を惜まざらまし
なげけとて月やはものを思はするかこち顏なるわが涙かな
君にいかで月に爭ふほどばかりめぐりあひつゝ影をならべむ
白妙の衣かさぬる月かげのさゆるまそでにかゝるしらつゆ
しのびねの涙たゝふる袖のうらになづまずやどる秋の夜の月
ものおもふ袖にも月はやどりけり濁らですめる水ならねども
戀しさをもよほす月のかげなればこぼれかゝりてかこつ涙か
よしさらば涙のいけに身をなして心のまゝに月をやどさむ
うち絶えてなげく涙にわが袖のくちなばなどか月をやどさむ
よゝふとも忘れがたみのおもひでは袂に月のやどるばかりぞ
涙ゆゑ隈なき月ぞくもりぬるあまのはら/\ねのみながれて
あやにくにしるくも月のやどるかな夜にまぎれてと思ふ袂に
おもかげに君が姿を見つるよりにはかに月のくもりぬるかな
よもすがら月を見顏にもてなして心のやみにまよふころかな
秋の月もの思ふ人のためとてや影にあはれをそへて出づらむ
へだてたる人の心のくまにより月をさやかに見ぬがかなしさ
涙ゆゑつねはくもれる月なればながれぬをりぞ晴間なりける
くまもなきをりしも人を思ひいでて心と月をやつしつるかな
もの思ふ心の隈をのごひすてゝくもらぬ月を見るよしもがな
こひしさや思ひよわるとながむればいとど心をくだく月かな
ともすれば月すむ空にあくがるゝ心のはてをしるよしもがな
ながむるに慰むことはなけれども月を友にてあかすころかな
もの思ひてながむる頃の月の色にいかばかりなる哀そふらむ
雨雲のわりなきひまをもる月の影ばかりだにあひ見てしがな
秋の月しのだの杜の千枝よりもしげきなげきや隈になるらむ
思ひ知る人ありあけのよなりせばつきせず身をば恨みざらまし