University of Virginia Library

蟲の歌よみ侍りけるに

夕されや玉うごくつゆの小笹生にこゑまづならす蛬かな
秋風にほずゑ波よるかるかやの下葉にむしのこゑみだるなり
蛬なくなる野邊はよそなるを思はぬそでに露ぞこぼるゝ
秋風の更けゆく野邊の虫の音のはしたなきまでぬるゝ袖かな
蟲の音をよそにおもひてあかさねば袂も露は野べにかはらじ
野べになく蟲もやものは悲しきと答へましかば問ひて聞かまし
秋の夜に聲も惜まずなく蟲をつゆまどろまず聞きあかすかな
あきの夜を獨や鳴きてあかさましともなふ蟲の聲なかりせば
秋の野の尾花がそでにまねかせていかなる人をまつ蟲のこゑ
よもすがら袂に蟲の音をかけてはらひわづらふ袖のしらつゆ
獨寐のねざめのとこのさむしろに涙もよほすきり%\すかな
きり%\す夜寒になるをつげがほに枕のもとにきつゝ鳴くなり
蟲の音をよわりゆくかと聞くからに心に秋の日かずをぞふる
秋ふかみよわるは蟲の聲のみかきく我とてもこの身やはある
虫のねにさのみぬるべきたもとかは怪しや心ものおもふらし
もの思ふ寐覺とぶらふきり%\す人よりもげに露けかるらむ