University of Virginia Library

ある所にて五月雨の歌十五首よみ侍りし人にかはりて

五月雨にほすひまもなくもしほ草煙もたてぬうらの海士びと
五月雨はいさゝ小川の橋もなしいづくともなく澪に流れて
水無瀬川をちのかよひぢ水みちて舟わたりするさみだれの頃
ひろ瀬川渡の沖のみをつくし水嵩ぞふらしさみだれのころ
早瀬川つなでの岸を沖に見てのぼりわづらふさみだれのころ
水分くる難波堀江のなかりせばいかにかせましさみだれの頃
舟とめしみなとの芦間さをたえて心行きみむさみだれのころ
水底にしかれにけりなさみだれて水の眞菰を刈りに來たれば
五月雨のをやむ晴れまのなからめや水のかさほせ眞菰かり舟
五月雨にさのの舟橋うきぬれば乗りてぞ人はさしわたるらむ
五月雨の晴れぬ日數のふるまゝに沼の眞菰は水隱れにけり
水なしときゝてふりにし勝間田の池あらたむる五月雨のころ
五月雨は行くべき道のあてもなしをざさが原もうきぎ流れて
河わだのよどみにとまる流木のうきはしわたす五月雨のころ
思はずもあなづりにくき小川かな五月のあめに水まさりつゝ