【六十四】
昔男有けりその男伊勢の国にかりのつかひにいきけるをかの伊勢の斎宮なりける人のおやつねの使よりは此人よくいたはれといひやりけりおやのいふことなりけれはいとねんころにいたはりけりあしたにはかりにいたしたてゝやりゆふさりはこゝにかへりこさせけりかくてねんころにいたはりけるほとにいひつきにけり二日といふ夜われてあはむといふ女はたいとあはしとも思へらすされと人めしけゝれはえあはすつかひさねとある人なれはとをくもやとさすねやちかくなん有ける女人をしつめてねひとつはかりに男のもとにきにけり男はたねられさりけれはとのかたを見いたしてふせるに月のおほろなるに人のかけするを見れはちいさきわらはをさきにたてゝ人たてりおとこいとうれしくてわかぬる所にゐていりてねひとつよりうしみつまて物かたらひけりいまたなにこともかたらひあへぬほとに女かへりにけれは男いとかなしくてねす成にけりつとめてゆかしけれと我人をやるへきにしあらねは心もとなくてまちみれはあけはなれてしはしあるほとに女の許より詞はなくて
君やこし我やゆきけんおもほえす夢かうつゝかねてかさめてか
男いたううちなきて
かきくらす心のやみにまとひにき夢うつゝとはこよひさためよ
とてかりにいてぬ野にありきけれと心はそらにていつしか日もくれなんとおもふほとに国のかみのいつきの宮のかみかけたりけれはかりの使ありときゝて夜ひとよさけのみしけれはもはらあひこともせてあけはおはりの国へたちぬへけれは男もをんなもなみたをなかせともあふよしもなし夜やう/\あけなんとするほとに女のかたよりいたすさかつきのうらに
かち人のわたれはぬれぬえにしあれは
とかきてすゑはなしそのさかつきのうらについまつのすみしてかきつく
またあふさかのせきはこえなん
あくれはおはりへこえにけり