(Tsukubashu) | ||
9. 菟玖波集卷第九
戀連歌上
延喜御製
女御のさうしよりかたちよき女のいで來て物思ひすがたにて泣くを御覽じて
源公忠朝臣
とおほせられ侍りければ
常盤井入道前太政大臣
物思ふ袖より色を見せ初めて
夢窓國師
待つらんとだに人は思はじ
源敦有朝臣
來ぬまでも待たるる程は慰みて
源家長朝臣
戀ひせん人の心をぞ知る
西園寺入道前太政大臣
後鳥羽任に奉れる連歌の中に
思ひ出はそなたの月もみるばかり
良阿法師
涙の袖の玉の井の水
源兼義
面影は涙ながらにうかび來て
周阿法師
なみだ川身をうき草のながれきて
前大納言爲家
戀ひしきもおなじ思ひの世の中に
從二位行家
逢阪は誰ゆるしける關なれば
二品法親王
胸のけぶりは立つも知られず
關白前左大臣
落すなよやがて涙と見えつべし
前大納言尊氏
世がたりにはや名こそ立ちぬれ
救濟法師
我が忍ぶ心しらずなあなかしこ
前大僧正賢俊
我が涙袖のほかにや流るらん
前中納言定家
後鳥羽院に奉りける連歌のうちに三字中略、上下略の賦物にて
せかれぬ戀よいかに忍ばん
信實朝臣
つつめども下くぐりゆく泪をば
山階入道左大臣
なにあだ波のそでぬらすらん
後深草院少將
に
後嵯峨院御製
と侍るに
冷泉前太政大臣
我がゆゑとだに人の知れかし
詑阿上人
我が思ひいふばかりなるひまもがな
善阿法師
したくぐる涙に袖もうきぬべし
信照法師
かよひ路を人に見えじと思ふよは
前大納言爲氏
人目をばよそにしのぶの摺衣
後宇多院御製
忍ぶとてしたひも果てぬ宵のまに
忠房朝臣
と侍るに
關白前左大臣
忍ぶには下安からず物云はで
信實朝臣
かくしつつ心の中やあらはれん
從二位行家
えこそなき名といひもなされぬ
左兵衞督直義
うき心をばいはずとも知れ
善阿法師
けぶりにのみぞむせぶ下もえ
權少僧都快宗
道のくのしのぶとだにもよも知らじ
前大納言爲家
思ひこがるるほどを知らばや
六條内大臣
はしり火に胸のみいとど騷ぐかな
西園寺入道前太政大臣
我が袖に一つら涙まどふらし
今上御製
うきになり哀れにかへる心より
後深草院少將
戀ひわたる心を人にかけそめて
從二位行家
いたづらに逢はでむなしきかたし貝
常盤井入道前太政大臣
建長六年五節の頃有心無心の連歌侍りけるに
玉かづら誰に心をかけつらん
京月法師
戀のうき名もたつる錦木
十佛法師
逢ふことのかたしき衣袖ひぢて
前大納言爲氏
戀ひわたる眞間の繼橋我ばかり
救濟法師
心引く人のむすめの名をとひて
導譽法師
君がためひとり思ひとなるものを
良阿法師
いざなきていざなみだにもこととはん
從二位家隆
後鳥羽院に奉りける白黒の賦物連歌の中に
あふにはかふる市人もなし
後宇多院御製
つれなき人を思ひそめつつ
前大納言實教
と侍るに
前大納言經繼
と侍るに
前大納言爲家
名さへあはでの森のことのは
安倍宗時
思ひには心くらべもなきものを
善阿法師
戀ひしといふは同じ言の葉
用遍法師
隙あらば又この暮といひすてて
後深草院辨内侍
みさをに物や思しるらん
同院少將内侍
と侍るに
源親光
戀ひしなん命を人に先たてて
藤原則俊朝臣
戀ひすてふ涙の袖のみなと舟
從二位家隆
心からひづてふ袖をしぼりつつ
從二位家隆
元亨元年十月龜山殿連歌に
爲冬朝臣
と侍るに
高山上人
音信を聞くばかりなる契にて
權律師賢海
後の契は命なりけり
前大納言爲世
言の葉もかはりはてぬる契かは
後醍醐院御製
嘉暦四年七月七夕に
契り置きしもとの心を思ひ出でよ
前大納言經繼
などかたそぎの契なるらん
按察使資朝
正和四年五月伏見殿百韻連歌に
さしも我れ僞りならず契りしに
後深草院少將内侍
寶治元年八月十五夜常盤井殿百韻連歌に
今よりは人も軒端の契にて
常盤井入道前太政大臣
契あればよそには通ふあま小舟
前大納言尊氏
鳥だにも羽をならぶるゆゑあるに
二品法親王
山の井のあかぬ契に袖ぬれて
關白前左大臣
さきの世この世いかがちぎりし
救濟法師
ありしよの契いかにとたどられて
藤原秀能
まてと契りし頃は過ぎぬる
左近中將義詮
うきながらなほたのむ中かな
導譽法師
花の頃報恩寺にて關白百韻の連歌侍りしに
來ぬときは人と人との契にて
後深草院辨内侍
むすぶ契をいかが頼まん
花山院前右大臣
と侍るに
山階入道前左大臣
思ふてふ人のことの葉頼みなや
冷泉前太政大臣
と侍るに
前中納言定家
むすぶちぎりの淺きよもうし
藤原家尹朝臣
關白家百韻連歌に
人を待つその夜の内はねぬものを
前中納言有光
げに待つ時は音信もなし
隆圓法師
待つときや人のうきをも忘るらん
平時助
僞りと思はば待たであるべきに
源忠長
來ぬ人は忍ぶゆゑぞといひなして
藤原俊顯朝臣
いかなる暮ぞ人の戀ひしき
源氏光
とはるることを命にぞまつ
丹波政職
あまのかるもしやと人を待つほどに
藤原親尚
うき夕我に秋なる人待ちて
藤原長泰
待つ人いかに風はあきなり
神眞嗣
月遲く人もまたるる夜は更けて
良阿法師
待つ時の心は月の影ふけて
救濟法師
下紐のゆふべゆふべに待ちなれて
源尊宣朝臣
音信はよその夕になるものを
承胤法親王
來ぬを夢くるをうつつと思はばや
導譽法師
こぬにさへ音信聞くはかきくれて
二品法親王
この暮もまたいつはりの鐘のこゑ
前大僧正賢俊
我ぞうき人は誰をか待ちつらん
源高秀
別れにも待つにも鐘を聞きながら
性遵法師
今來んの夕の鐘をききそへて
救濟法師
うき人の來ぬにつけても月待ちて
源秀賢
さりともと待ちつるほどに夜は更けて
藤原範高
聞かせばや待ち更くる夜の鐘の聲
前大納言爲氏
一すぢに來べき宵とやたのむらん
藤原秀能
後鳥羽院に奉りける連歌に
尋ぬべき人をや今はまつの風
法眼行觀
契らねば待つべきことも知らぬ身に
平景右
とはれずば我も心のかはれかし
妙智法師
待たねどもなほ夕にぞなる
頼玄法師
まつよも更けぬ有明の月
前中納言有忠
夕暮はうはのそらにて待たれける
按察使資朝
更けゆく鐘の聲もうらめし
道生法師
待つとだに人は知らじな夕ま暮
導譽法師
人にまたるるならはしはなし
(Tsukubashu) | ||