University of Virginia Library

由之老

あしびきのみ山を出でてうつせみの人の裏やに住むとこそすれ
しかれとてすべのなければ今更に慣れぬよすがに日を送りつつ
苫ぶきのひまをもわくる夜半の雨ひとりや君があかしかぬらん
世の中をいとひ果つとはなけれどもなれしよすがに日を送りつつ
うちつけに言ひたつとにはあらねども且つやすらひて時をし待た ん
あしびきの岩間をつたふ苔水のかすかに我れはすみ渡るかも
山かげの岩根もり來る苔水のあるかなきかに世をわたるかも
言の葉の花に涙をそそぐなり世すべなき身の何しらずとも