University of Virginia Library

六冬哥

よみ人しらず

題しらず

竜田河錦おりかく神な月しぐれの雨をたてぬきにして

源宗于朝臣

冬の哥とてよめる

山里は冬ぞさびしさまさりける人めも草もかれぬと思へば

読人しらず

題しらず

おほぞらの月のひかりしきよければ影見し水ぞまづこほりける

ゆふされば衣手さむしみよしののよしのの山にみ雪ふるらし

今よりはつぎてふらなむわがやどのすすきおしなみふれるしら雪

ふる雪はかつぞけぬらしあしひきの山のたぎつせおとまさるなり

この河にもみぢば流るおく山の雪げの水ぞ今まさるらし

ふるさとはよしのの山しちかければひと日もみ雪ふらぬ日はなし

わがやどは雪ふりしきてみちもなしふみわけてとふ人しなければ

紀貫之

冬のうたとて

雪ふれば冬ごもりせる草も木も春にしられぬ花ぞさきける

紀あきみね

しがの山ごえにてよめる

白雪のところもわかずふりしけばいはほにもさく花とこそ見れ

坂上これのり

ならの京にまかれりける時にやどれりける所にてよ める

みよしのの山の白雪つもるらしふるさとさむくなりまさるなり

ふぢはらのおきかぜ

寛平御時きさいの宮の哥合のうた

浦ちかくふりくる雪は白浪の末の松山こすかとぞ見る

壬生忠岑

みよしのの山の白雪ふみわけて入りにし人のおとづれもせぬ

白雪のふりてつもれる山ざとはすむ人さへや思ひきゆらむ

凡河内みつね

雪のふれるを見てよめる

ゆきふりて人もかよはぬみちなれやあとはかもなく思ひきゆらむ

きよはらのふかやぶ

ゆきのふりけるをよみける

冬ながらそらより花のちりくるは雲のあなたは春にやあるらむ

つらゆき

雪の木にふりかかれりけるをよめる

ふゆごもり思ひかけぬをこのまより花と見るまで雪ぞふりける

坂上これのり

やまとのくににまかれりける時に、ゆきのふりける を見てよめる

あさぼらけありあけの月と見るまでによしののさとにふれるしらゆき

よみ人しらず

題しらず

けぬがうへに又もふりしけ春霞たちなばみ雪まれにこそ見め

梅花それとも見えず久方のあまぎる雪のなべてふれれば

この哥は、ある人のいはく、柿本人まろが哥なり

小野たかむらの朝臣

梅花にゆきのふれるをよめる

花の色は雪にまじりて見えずともかをだににほへ人のしるべく

きのつらゆき

雪のうちの梅花をよめる

梅のかのふりおける雪にまがひせばたれかことごとわきてをらまし

きのとものり

ゆきのふりけるを見てよめる

雪ふれば木ごとに花ぞさきにけるいづれを梅とわきてをらまし

みつね

物へまかりける人をまちてしはすのつごもりによめ る

わがまたぬ年はきぬれど冬草のかれにし人はおとづれもせず

在原もとかた

年のはてによめる

あらたまの年のをはりになるごとに雪もわが身もふりまさりつつ

よみ人しらず

寛平御時きさいの宮の哥合のうた

雪ふりて年のくれぬる時こそつひにもみぢぬ松も見えけれ

はるみちのつらき

年のはてによめる

昨日といひけふとくらしてあすかがは流れてはやき月日なりけり

きのつらゆき

哥たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれ る

ゆく年のをしくもあるかなますかがみ見るかげさへにくれぬと思へば