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群書類従卷第三百八
検校保己一集
物語部二
大和物語 上
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群書類従卷第三百八
検校保己一集
物語部二
大和物語 上
群書類従卷第三百八 (Yamato monogatari) | ||
1.
群書類従卷第三百八
検校保己一集
物語部二
大和物語 上
【一】
亭子のみかといまはおりゐ給ひなんとするころ弘徽殿のかへに伊勢のこのかきつけゝる
とありけれはみかと御らんしてそのかたはらにかきつけさせたまふける
となむありける
【二】
みかとおりゐ給ひて又のとしの秋御くしおろしたまひてところ/\山ふみしたまひてをこなひ給けり備前のせうにてたちはなのよしとしといひける人内におはしましける時殿上にさふらひて御くしおろし給けれはやかて御ともにかしらおろしてけり人にもしられ給はてありきたまひける御ともにこれなんをくれ奉らてさふらひけるかゝる御ありきし給ふいとあしき事なりとて内より少将中将これかれさふらへとてたてまつらせ給けれとたかひつゝありき給いつみの国にいたり給てひねといふところにおはします夜ありいとこゝろほそうかすかにておはしますことを思ひていとかなしかりけりさてひねといふことを歌によめと仰ことありけれはこのよしとし大とく
とありけるにみな人なきてえよますなりにけりその名をなん寛蓮大とくといひてのちまてさふらひける
【三】
故源大納言宰相におはしける時京極のみやすところ亭子院の御賀つかうまつり給とてかゝる事をなんせむと思ふさゝけもの一えた二えたせさせて給へと聞え給ひけれはひけこをあまたせさせ給ふてとしこにいろ/\にそめさせ給ひけりしきものゝをりものともいろ/\にそめよりくみなにかとみなあつけてせさせ給ひけりそのものともを九月つこもりにみないそきはてゝけりさてその十月ついたちの日此ものいそきたまひける人のもとにをこせたりける
そのものいそき給けるときはまもなくこれよりもかれよりもいひかはし給けるをそれよりのちはその事とやなかりけむせうそこもいはてしはすのつこもりになりにけれは
となんいへりけるをその返しをもせてとしこえにけりさてきさらきはかりにやなきのしなひものよりもけになかきなん此家に有けるを折て
とてなんやりたまへりけれはいとになくめてゝのちまてなんかたりける
【四】
野大貳すみともかさはきの時うての使にさゝれて少将にてくたりけるおほやけにもつかうまつり四位にもなるへきとしにあたりけれはむつきのかゝいたまはりのこといとゆかしうおほえけれと京よりくたる人もおさ/\聞えすある人にとへは四位になりたりともいふある人はさもあらすといふさたかなることいかてきかんとおもふほとに京のたよりあるに近江守公忠のきみの文をなむもてきたるいとゆかしううれしうてあけてみれはよろつのことゝもかきもていきて月日なとかきておくのかたにかくなむ
これを見てかきりなくかなしくてなんなきける四位にならぬよしふみのことはにはなくてたゝかくなむありける
【五】
前坊の君うせたまひにけれは大輔かきりなくかなしくのみおほゆるにきさいの宮后にたち給ふ日になりにけれはゆゝしとてかくしけりさりけれはよみていたしける
【六】
あさたゝの中将人のめにてありける人にしのひてあひわたりけるを女も思ひかはしてすみけるほとにかのおとこ人の国のかみになりてくたりたりけれはこれもかれもいとあはれとおもひけりさてよみてつかはしける
となんくたりける日いひやりける
【七】
男女あひしりてとしへにけるをいさゝかなることによりてはなれにけれとあくとしもなくてやみにしかはにや有けん男も哀とおもひけりかくなんいひたりける
女いとあはれとおもひけり
【八】
監の命婦のもとに中務宮おはしましかよひけるを方のふたかれはこよひはえなむまうてぬとのたまへりけれはその御かへしことに
とありけれは方ふたかりたりけれとおはしましてなんおほとのこもりにけるかくて又ひさしくをともし給はさりけるにさかのゐんにかりすとてなん久しくせうそこなともゝのせさりけるいかにおほつかなく思つらんなとのたまへりける御返に
御返しはこれにやをとりけん人わすれにけり
【九】
もゝそのゝ兵部卿の宮うせ給て御はて九月つこもりにし給ひけるにとしこかの宮のきたのかたにたてまつりける
かきりなくかなしとおもひてなきゐたまへりけるにかくいへりけれは
となん返し給ひける
【十】
監の命婦つゝみにありけるいへを人にうりて後あはたといふところにいきけるにその家のまへをわたりけれはよみたりける
【十一】
故源大納言のきみたゝふさのぬしのみむすめ東のかたを年比思てすみわたり給けるを亭子院の若宮につき奉り給ふてほとへにけり子ともなとありけれはこともたえすおなしところになんすみ給けるさてよみてやり給ひける
とありけれは返し
となむありける
【十二】
おなしおとゝかのみやをえ奉り給ふてみかとのあはせたてまつり給へりけれとはしめころしのひてよるよるかよひ給ひけるころかへりて
【十三】
むまのせう藤原のちかぬといふ人のめにはとしこといふ人なん有ける子ともあまたいてきておもひて住けるほとになくなりにけれはかきりなくかなしくのみ思ひありくほとに内の蔵人にて有ける一条のきみといひける人はとしこをいとよくしれりける人なりけりかく成にけるほとにしもとはさりけれはあやしと思ひありくほとにとはぬ人のすさの女なむあひたりけるを見てかくなむ
と聞えよといひけれは返し
【十四】
本院の北方の御をとゝのわらは名をおほつふねといふいますかりけり陽成院のみかとに奉りたりけるにおはしまさゝりけれはよみてたてまつりける
【十五】
又つり殿の宮にわかさのこといひける人をめしたりけるか又もめしなかりけれは読て奉りける 数ならぬ身にをくよひの白玉は光みえさす物にそ有ける
【十六】
陽成院のすけのこまゝちゝの少将のもとに
少将かへし
【十七】
故式部卿宮のいてはのこにまゝちゝの少将すみけるをはなれてのち女すゝきにふみをつけてやりたりけれは少将
いてはのこかへし
【十八】
故式部卿宮二條のみやすところにたえ給ふて又のとしのむ月のなぬかの日わかれ奉り給ひけるに
とありけり
【十九】
おなし人おなしみこの御もとに久しくおはしまさゝりけれは秋のことなりけり
とありけれは御かへし
となん有ける心にいらてあしくなんよみ給ける
【二十】
故式部卿宮をかつらのみこせちによはひ給ひけれとおはしまさゝりける時月のいとおもしろかりける夜御ふみ奉り給へりけるに
となんありける
【二十一】
良少将兵衛佐なりける比監の命婦になむすみける女のもとより
返し
となんいひける
【二十二】
良少将たちの緒にすへきかはをもとめけれは監命婦なんわかもとにありといひて久しくいたささりけれは
といへりけれは監命婦めてくつかへりてもとめてやりけり
【二十三】
陽成院の二のみこ俊蔭の中将のむすめに年比すみ給けるを女五のみこをえ奉り給て後さらにとひ給はさりけれはいまはおはしますましきなめりと思ひたえていとあはれにてゐたまへりけるにいと久しくありて思かけぬほとにおはしましたりけれはえものも聞えてにけてとのうちにいりにけりかへり給てみこあしたになとか年ころの事も申さむとてまうて来りしにかくれ給ひにしと有けれはことははなくてかくなん
【二十四】
先帝の御時に右大臣殿の女御うへの御つほねにまうのほり給てさふらひ給けりおはしましやするとしたまち給ひけるにおはしまさゝりけれは
となん聞えけり
【二十五】
ひえの山に念かくといふほうしの山こもりにて有けるにしとくにてまし/\ける大とくのはやうしにけるかむろに松の木のかれたるをみて
とよみたりけれはかのむろにとまりける弟子ともあはれかりけり此念覚はとしこかせうとなりけり
【二十六】
桂のみこいとみそかにあふましき人にあひ給ひたりけりおとこのもとに読てをこせ給へりける
となん有ける
【二十七】
かいせうといふ人法師になりて山にすむあいたにあらはひなとする人のなかりけれはおやのもとにきぬをなんあらひにをこせたりけるをいかなるおりにか有けんむつかりておやはらからのいふこともきかて法師になりぬる人はかくうるさきこといふものかといひけれはよみてやりける
【二十八】
おなし人かのちゝの兵衛佐うせにける年の秋家にこれかれあつまりてよひよりさけのみなとすいますからぬことのあはれなる事をまらうともあるしもこひけり朝ほらけに霧たちわたれりけりまらうと
といひけりかいせう返し
まらうとは貫之友則なとになん有ける
【二十九】
故式部卿宮に三條の右のおとゝこと上達部なとるいして参り給て碁うち御あそひなとし給ひて夜ふけぬれはこれかれゑひてものかたりしかつけものなとせらる女郎花をかさし給ふて右のおとゝ
となん有けること人々のおほかれとよからぬはわすれにけり
【三十】
故右京のかみ宗于の君なりいつへきほとに我身のえなりいてぬ事と思ひ給ひける比ほひ亭子の御かとに紀伊国より石つきたるみるをなん奉りたりけるを題にて人々歌よみけるに右京のかみ
【三十一】
おなし右京のかみ監の命婦に
【三十二】
亭子のみかとにうきやうのかみの読て奉りたりける
又
とありけれはかへり見給はぬ心はへなりけりみかと御らんしてなに事そこれを心えぬとてそうつの君になん見せ給けるときゝしかはかひなくなむありしとかたり給ひける
【三十三】
躬恒か院によみてたてまつりける
【三十四】
右京のかみのもとに女
【三十五】
堤の中納言内の御使にて大内山に院のみかとおはしますに参り給へり物こゝろほそけにておはしますいと哀なり高き所なれは雲はしもよりいとおほくたちのほるやうにみえけれはかくなん
【三十六】
伊勢の国に前斎宮のおはしましける時につゝみの中納言勅使にてくたり給ふて
御返しはきかす彼斎宮のおはします所はたけのみやことなんいひける
【三十七】
いつもかはらからひとりは殿上して我はえせさりけるときによみたりける
【三十八】
先帝の五のみこの御むすめは一条の君といひて京極の御息所の御もとにさふらひ給ひけりよくもあらぬことありてまかて給てゆきのかみのめにていますかりて
【三十九】
伊勢のかみもろみちのむすめをたゝあきらの中将のきみにあはせたりける時にそこなりけるうなゐを右京のかみよひいてゝかたらひてあしたによみてをこせたりける
【四十】
桂のみこに式部卿の宮すみ給ける時その宮にさふらひけるうなゐなんこのおとこ宮をいとめてたしと思ひかけ奉りけるをもえしり給はさりけりほたるのとひありきけるをかれとらへてと此わらはにのたまはせけれはかさみの袖にほたるをとらへてつゝみて御覧せさすとて聞えさせける
【四十一】
源大納言の君の御もとにとしこはつねにまいりけりそうしゝてすむときもありけりおかしき人にてよろつのことを常にいひかはし給ひにけりつれ/\なる日このおとゝとしこ又このむすめあねにあたるあやつこといひて有けり母にゝて心もおかしかりけり又このおとこのもとによふこといふ人有けりそれも物の哀しりていと心おかしき人なりけりこれ四人つとひてよろつの物かたりし世中のはかなきことせけんのあはれなることいひ/\てかのおとゝのよみ給ける
とよみ給けれはたれ/\も返しはせてあつまりてよゝとなんなきけるあやしかりけるものともにこそはありけれ
【四十二】
ゑしうといふほうしのある人の御験者つかうまつりけるほとにとかく世中に云事有けれはよみたりける
となん有ける又此人の御もとによみたりける
【四十三】
この大とく房にしける所の前にきりかけをなむせさせけるそのけつりくつにかきつけゝる
なといひてをこなひしにふかき山にいりなんとすといひていにけりほとへていつくにかあらんといひて深き山にこもり給ひぬとありしはいつくそといひやりたまひたりけれは
となんいひたりけるよかはといふところに有なりけり
【四十四】
おなし人にある人山へのほり給ふへき日はまたとをくやあるいつそといへりけれは
とそいひをこせたりけるかくのみよからぬことの有かうへにいてきけれは
といひけり
【四十五】
つゝみの中納言のきみ十三のみこの御母御息所を内に奉りけるはしめに御かとはいかゝおほしめすらんなといとかしこく思なけき給けりさてみかとによみてたてまつり給ける
先帝いと哀に思しめしたりけり御返しありけれと人えしらす
【四十六】
平中かんゐんのこにたえてのちほとへてあひたりけりさてのちにいひをこせたる
女かへし
【四十七】
陽成院の一条のきみ
【四十八】
先帝の御時刑部のきみとてさふらひ給ける更衣のさとにまかり出給ひてひさしうまいり給はさりけるにつかはしける
【四十九】
おなしみかと斎院のみこの御もとに菊につけて
さい院の御かへし
【五十】
かいせん山にのほりて
【五十一】
斉院より内に
御かへし
【五十二】
これも内の御
【五十三】
陽成院に有ける坂上のとをみちといふおとこおなしゐんに有ける女さはる事ありとてあはさりけれは
【五十四】
右京のかみむねゆきのきみ三らうにあたりける人はくえうをしておやにもはらからにもにくまれけれはあしのむかんかたへゆかんとて人の国へいきけるさておもひけるともたちのもとへよみてをこせたりけり
【五十五】
男かきりなく思ひける女をゝきて人のくにへいにけりいつしかとまちけるにしにきといひてきたりけれは
となんいひける
【五十六】
越前権守かねもり兵衛のきみといふ人にすみけるをとしころはなれて又いきけりさてよみける
女返し
【五十七】
近江介平中興かむすめをいといたうかしつきけるをおやなく成て後とかくはふれて人の国にはかなき所に住けるをあはれかりてかねもりかよみてをこせたりける
とよみてなんをこせたりけれは見て返事もせてよゝとそなきける女もいとらうある人成けり
【五十八】
同しかねもりみちのくにゝてかん院の三のみこの女に有ける人くろつかといふところにすみけりそのむすめともにをこせたりける
といひたりけりかくてそのむすめをえんといひけれはおやまたいとわかくなんあるいまさるへからんおりにをといひけれは京にいくとてやまふきにつけて
といひけりかくてなとりのみゆといふ事を恒忠のきみのめよみたりけるといふなん此塚のあるし成ける
となんよみたりけるをかねもりの大きみおなし所を
となんよみけるさて此心かけしむすめことおとこして京にのほりたりけれは聞てかねもりのほりものし給なるをつけたまはてといひたりけれは井手の山吹うしろめたしといへりけるふみをこれなんみちのくにのつとゝてをこせたりけれは男
といへりけり
【五十九】
よの中をうんしてつくしへくたりける人女のもとにをこせたりける
【六十】
五条のこといふ人ありけり男のもとに我かたをゑにかきて女のもえたるかたをかきてけふりをいとおほくくゆらせてかくなんかきたりける
【六十一】
亭子院にみやすむところたちあまたみそうしゝてすみ給ふ事とし比ありて河原院のいとおもしろくつくられたりけるに京極のみやすむところひと所のみさうしをのみしてわたらせ給にけり春のこと成けりとまり給へるみさうしともいとおもひのほかにさう/\しき事をおもほしけり殿上人なとかよひまいりて藤の花のいとおもしろきをこれかれさかりをたに御らんせてなといひて見ありくにふみをなんむすひつけたりけるあけてみれは
とありけれは人々見て限なくめてあはれかりけれとたかみさうしのしたまへるともえしらさりけりおとことものいひける
【六十二】
のうさんのきみといひける人浄蔵とはいとになうおもひかはす中なりけり限なくちきりておもふことをもいひかはしけりのうさんのきみ
といひをこせたりけれは浄蔵大とくの返し
【六十三】
故右京のかみの人のむすめをしのひてえたりけるをおやのきゝつけてのゝしりてあはせさりけれはわひてかへりにけりさてあしたによみてやりける
【六十四】
平中にくからすおもふわかき女をめのもとにゐてきてをきたりけりにくけなる事ともをいひてめつゐにおひ出しけり此めにしたかふにやありけむらうたしとおもひなからえとゝめすいちはやくいひけれはちかくたにえよらて四尺の屏風によりかゝりてたてりていひけるよの中の思ひのほかにあることせかいにものし給ふともわすれてせうそこしたまへをのれもさなんおもふといひけり此女つゝみに物なとつつみてくるまとりにやりてまつほとなりいとあはれと思ひけりさて女いにけりとはかりありてをこせたりける
【六十五】
南院の五郎みかはのかみにて有ける承香殿にありけるいよのこをけさうしけりこんといひけれは御息所の御もとに内へなんまいるといひをこせたりけれは
といへりけり又
なといひけりかくてきたりけるをいまはかへりねとやらひけれは
返しおかしかりけれとえきかす又雪のふる夜きたりけるをものはいひてよふけぬかへり給ねといひけれはかへりけるほとに戸をさしてあけさりけれは
となんいひてゐたりけるかく歌もよみあはれにいひゐたれはいかにせましと思ひてのそきて見れはかほこそなをいとにくけなりしかとなんかたりしとか
【六十六】
としこちかぬをまちけるよこさりけれは
【六十七】
又としこ雨のふりける夜ちかぬをまちけり雨にやさはりけんこさりけりこほれたるいへにていといたくもりけり雨のいたくふりしかはえまいらすなりにきさる所にていかにものし給へるといへりけれはとしこ
【六十八】
枇杷殿よりとしこか家にかしは木の有けるを折にたまへりけりおらせてかきつけて奉りける
御返し
【六十九】
忠文かみちのくにの将軍になりてくたりけるときそれかむすこなりける人を監命婦忍ひてあひかたらひけりむまのはなむけにめとりくゝりの狩衣うちきぬさなとやりたりけるかのえたるおとこ
とよみたりけれは女めてゝなきけり
【七十】
おなし人に監命婦やまもゝをやりたりけれは
となんいひけるさてつゝみなるいへにすみけるさてあゆをなんとりてやりける
かくてこの男みちの国へくたりけるたよりにつけてあはれなる文ともをかきをこせけるを道にてやまひしてなんしにけるときゝて女いとあはれとなむ思ひけるかくきゝてのちしのつかのむまやといふところよりたよりにつけてあはれなることゝもをかきたるふみをなんもてきたりけるいとかなしくてこれをいつのそととひけれはつかひの久しくなりてもてきたるになんありけるをんな
とよみてなんなきけるわらはにて殿上して大七といひけるをかうふりしてくら人ところにおりてかねのつかひかけてやかておやのともにいくになんありける
【七十一】
故式部卿宮うせ給ける時はきさらきのつこもり花のさかりになん有けるつゝみの中納言のよみ給ける
三条の右のおとゝの御返し
【七十二】
おなし宮おはしましける時亭子院にすみ給ひけりこの宮の御もとに兼盛まいりけりめし出てものらのたまひなとしけりうせ給ひてのちかの院を見るにいとあはれなり池のいとおもしろきにあはれなりけれはよみける
【七十三】
ひとのくにのかみのくたりけるむまのはなむけをつゝみの中納言してまち給ひけるにくるゝまてこさりけれはいひやりたまひける
とありけれはまとひきにけり
【七十四】
同し中納言かの殿のしんてむのまへにすこしとをくたてりける桜をちかくほりうへ給けるかかれさまにみえけれは
とよみ給ける
【七十五】
同し中納言蔵人にて有ける人の加賀のかみにてくたりけるにわかれおしみける夜ちうなこん
となんよみ給ひける
【七十六】
桂のみこの御もとによしたねかきたりけるを母御息所きゝつけ給てかとをさゝせ給けれはよひと夜立わつらひて帰るとてかく聞え給へとてかとのはさまよりいひいれける
【七十七】
これもおなしみこにおなしおとこ
かくて忍ひてあひ給けるほとに院に八月十五夜せられけるに参り給へと有けれはまいり給ふにゐんにてはあふましけれはせめてこよひはなまいり給そととゝめけりされとめしなりけれはえとゝまらていそきまいり給けれはよしたね
【七十八】
監命婦朝拝の威儀のみやうふにて出たりけるを弾正のみこみたまひてにはかにまとひけさうしたまひけり御ふみありける御かへしことに
みこの御うたはいかゝ有けんわすれにけり
【七十九】
又おなしみこにおなし女
【八十】
宇多院の花おもしろかりける比南院の君たちとこれかれあつまりて歌よみなとしけり右京のかみ宗于
こと人のも有けらし
【八十一】
季縄の少将のむすめ右近故きさいのみやにさふらひける比故権中納言のきみおはしけるたのめ給ふことなと有けるを宮に参ることたえて里に有けるにさらにとひ給はさりけり内わたりの人来りけるにいかにそ参り給ふやととひけれは常にさふらひ給ふといひけれは御ふみ奉りける
となん有ける
【八十二】
おなし女のもとにさらにをともせてきしをなんをこせたまへりける返事に
となんいひやりける
【八十三】
おなし女内のさうしにすみける時忍ひてかよひ給人有けり頭なりけれは殿上につねに有けり雨のふる夜さうしのしとみのつらに立より給へりけるもしらて雨のもりけれはむしろをひきかへすとて
となんうちいひけれはあはれときゝ給てふとはい入給にけり
【八十四】
おなし女おとこの忘れしとよろつの事をかけてちかひけれとわすれにける後にいひやりける
かへしはえきかす
【八十五】
おなし右近もゝそのゝ宰相のきみなんすみ給ふなといひのゝしりけれとそらことなりけれはかのきみによみてたてまつりける
となん有ける
【八十六】
む月のついたち比大納言殿にかねもり参りたりけるに物なとのたまはせてすゝろにうたよめとのたまひけれはふとよみたりける
とよみたりけれはになくめてたまふて御かへし
となんよみ給ひける
【八十七】
たしまのくにゝかよひけるひやうこのかみなりけるおとこのかのくになりけるをんなをゝきて京へのほりけれは雪のふりけるにいひをこせたりける
といひたりけれは
となんかへしたりける
【八十八】
おなし男紀伊国にくたるにさむしとてきぬをとりにをこせたりけれは女
返しおとこ
【八十九】
修理のきみにむまのかみすみける時方のふたかりけれはかたゝかへにまかるとてなんえまいりこぬといへりけれは
かくて右馬のかみいかすなりにけるころよみてをこせたりける
いへりけれはかへし
又おなし女にかよひける時つとめてよみたりける
おとこはしめころよみたりける
かへし
おなし女にけちかく物なといひてかへりて後によみてやりける
修理か返し
【九十】
おなし女に故兵部卿宮御せうそこなとしたまひけりおはしまさんとのたまひけれはきこえける
【九十一】
三條の右のおとゝ中将にいますかりける時祭の使にさゝれていてたち給けりかよひ給ける女のたえて久しくなりにけるにかゝる事なんいてたつあふきもたるへかりけるをさはかしうてなむわすれにけるひとつ給へといひやり給へりけりよしある女なりけれはよくてをこせてんと思ひ給ひけるにいろなともいときよらなるあふきの香なともいとかうはしうてをこせたり引かへしたるうらのはしのかたにかきたりける
とあるを見ていとあはれとおほしてかへし
【九十二】
故権中納言左のおほいとのゝきみをよはひ給ふけるとしのしはすのつこもりに
となん有ける又かくなむ
かくいひ/\てつゐにあひにけるあしたに
【九十三】
是もおなし中納言斎宮のみこを年比よはひたてまつり給てけふあすあひなんとしけるほとに伊勢の斎宮の御うらにあひ給ひにけりいふかひなく口おしくおとこ思ひ給ひけりさてよみて奉りたまひける
となんありける
【九十四】
故中務宮の北方うせ給ひて後ちいさききんたちをひきくして三条右大臣殿にすみ給ひけり御いみなとすくしてはつゐにひとりはすくし給ふましかりけれはかの北のかたの御をとうと九君をやかてえたまはんとおほしけるをなにかはさもやとおやはらからもおほしたりけるにいかゝありけん左兵衛督のきみ侍従にものし給けるころその御ふみもてくとなんきゝ給ふけるさて心つきなしとやおほしけむもとの宮になんわたり給にけるその時に御息所の御もとより
宮の御返し
となんありける
【九十五】
おなし右のおほいとのゝみやすところみかとおはしまさすなりて後式部卿宮なんすみたてまつり給ひけるをいかゝ有けむおはしまさゝりけるころ斎宮の御もとより御ふみたてまつりたまへりけるにみやすんところ宮のおはしまさぬ事なときこえ給ふておくに
となん有ける御返あれと本になしとあり
【九十六】
かくて九のきみの侍従のきみにあはせ奉り給てけりおなしころ御息所を宮おはしまさすなりにけれは左のおとゝの右衛門督におはしましける比御文奉れ給ひけりかのきみむことられ給ひぬときゝ給ふておとゝ御息所に
【九十七】
おほきおとゝのきたのかたうせ給て御はての月になりて御わさの事なといそかせたまふころ月のおもしろかりけるにはしにいてゐたまふてものゝいとあはれにおほされけれは
【九十八】
おなしおほきおとゝ左のおとゝの御はゝのすかはらのきみかくれ給にける御ふくはて給にける比亭子のみかとなん内に御せうそこきこえ給ていろゆるされ給けるさりけれはおとゝいときよらにすはうかさねなとき給ふてきさいの宮にまいりたまふて院の御せうそこのいとうれしく侍りてかく色ゆるされ侍る事なときこえ給さてよみ給ひける
とてなむなき給ふけるそのほと中弁になん物し給ける
【九十九】
亭子の帝の御供におほきおとゝ大井につかうまつり給へるに紅葉小倉山に色々のいとおもしろかりけるをかきりなくめてたまふて行幸もあらんにいとけうある所になん有けるかならすそうしてせさせ奉らんなと申給ふてついてに
となん有けるかくてかへり給ふてそうし給ひけれはいとけうあることなりとてなん大ゐの行幸といふ事はしめ給ひける
【百】
大井に季縄の少将すみける比みかとののたまひける花おもしろく成なはかならす御らんせむとありけるをおほしわすれておはしまさゝりけりされは少将
とありけれはいたう哀かりたまふていそきおはしましてなむ御らんしける
【百一】
おなし少将やまひにいといたうわつらひてすこしをこたりて内にまいりたりけり近江守公忠のきみ掃部助にて蔵人なりけるころなりけりそのかもりのすけにあひていひけるやうみたり心ちはまたをこたりはてねといとむつかしう心もとなく侍れはなんまいりつるのちはしらねとかくまて侍ことまかりいてゝあさてはかりまいりこんよきにそうしたまへなといひをきてまかてぬ三日はかりありて少将のもとよりふみをなむをこせたりけるを見れは
とのみかきたりいとあさましくて涙をこほしてつかひにとふいかゝものし給とゝへはつかひもいとよはくなり給ひにたりといひてなくをきくにさらにもきこえすみつからたゝいままいりてといひてさとにくるまとりにやりてまつほといと心もとなしこのゑのみかとにいてたちてまちつけてのりてはせゆく五条にそ少将のいへあるにいきつきてみれはいといみしうさはきのゝしりてかとさしつしぬる成けりせうそこいひいるれとなにのかひなしいみしうかなしくてなく/\かへりにけりかくてありけることをかんのくたりそうしけれはみかともかきりなくなん哀かり給ひける
【百二】
土佐守にありけるさかゐのひとさねといひける人やまひしてよはくなりてとはなりける家にゆくとてよみける
【百三】
平中かいろこのみなりけるさかりに市にいきけりなかころはよき人々いちにいきてなん色このむわさはしけるそれに故きさいの宮のこたちいちに出たる日になん有ける平中いろこのみかゝりてになうけさうしけりのちにふみをなんをこせたりけるをんなともくるまなりし人はおほかりしをたれにあるふみにかとなんいひやりけるさりけれはおとこのもとより
といへりけるはむさしのかみのむすめになん有けるそれなんいとこきかいねりきたりけるそれをとおもふなりけりされはそのむさしなんのちは返事はしていひつきにけるかたちきよけにかみなかくなとしてよきわかうとになんありけるいといたう人ひとけさうしけれと思ひあかりておとこなともせてなん有けるされとせちによはひけれはあひにけりそのあしたにふみもをこせすよるまてをともせす心うしと思あかして又の日まてとふみもをこせすそのよしたまちけれとあしたにつかう人なといとあたにものし給ときゝし人をあり/\てかくあひ奉り給てみつからこそいとまもさはり給ことありとも御文をたに奉りたまはぬ心うきことなとこれかれいふ心ちにもおもひゐたることを人もいひけれは心うくくやしとおもひてなきけりその夜もしやと思ひてまてと又こす又のひも文もをこせすすへて音もせて五六日になりぬこの女ねをのみなきて物もくはすつかふ人なと大かたはなおほしそかくてのみやみ給へき御身にもあらす人にはしらせてやみ給てことわさをもしたまひてんといひけり物もいはてこもりゐてつかふ人にも見えていとなかゝりけるかみをかいきりて手つからあまになりにけりつかふ人あつまりてなきけれといふかひもなしいと心うき身なれはしなんとおもふにもしなれすかくたに成ておこなひをたにせんかしかましくかくな人ひといひさはきそとなんいひけるかゝりけるやうは平中そのあひけるつとめて人をこせんとおもひけるにつかさのかみにはかにものへいますとてよりいましてよりふしたりけるをおひおこしていまゝてねたりけるとてせうえうしにとをき所へゐていましてさけのみのゝしりてさらにかへし給はすからうしてかへるまゝに亭子のみかとの御ともに大井にいておはしましぬそこにまたふた夜さふらふにいみしうゑひにけり夜更てかへり給ふに此女のかりいかんとするにかたふたかりけれはおほかたみなたかふかたへゐんの人々るいしていにけり此女いかにおほつかなくあやしと思ふらんと恋しきにけふたに日もとく暮なんいきてありさまもみつからいはんかつふみをやらんとゑひさめて思ひけるに人なんきてうちたたくたそとゝへはなをそうのきみにものきこえんといふさしのそきてみれはこの家の女なりむねつふれてこちこといひてふみをとりて見れはいとかうはしきかみにきれたるかみをすこしかいわかねてつゝみたりいとあやしうおほえてかいたることをみれは
とかきたりあまになりたるなるへしとみるに目もくれぬ心きもをまとはしてこのつかひにとへははやう御くしおろし給てきかゝれはこたちも昨日けふいみしうなきまとひ給ふけすの心ちにもいとむねいたくなんさはかりに侍りし御くしをといひてなく時におとこのこゝちいといみしなてうかゝるすきありきをしてかくわひしきめを見るらんとおもへとかひなしなく/\返事かく
いとあさましきにえものもきこえすみつからたゝいまゝいりてとなんいひたりけるかくてすなはちきにけりそのかみ女はぬりこめに入にけり事のありやうさはりをつかふ人々にいひてなくことかきりなし物をたにきこえん御声をたにしたまへといひけれとさらにいらへをたにせすかゝるさはりをはしらてなをたゝいとをしさにいふとや思ひけんとてなんおとこはよにいみしきことにしける
【百四】
しけもとの少将に女
少将かへし
【百五】
中興の近江のすけかむすめものゝけにわつらひてしやうさう大とくをけんしやにしけるほとに人とかくいひけりなをしもはたあらさりけり忍ひてありへてのち人のものいひなともうたてあり猶よにへしとおもひいひてうせにけりくらまといふところにこもりていみしうおこなひをりさすかにいとこひしうおほえけり京をおもひやりつゝよろつの事いと哀におほえて行ひけりなく/\うちふしてかたはらを見れはふみなんみえけるなそのふみそとおもひてとりてみれは此わかおもふ人のふみなりかけることは
とかけりいとあやしくたれしてをこせつらむと思ひをりもてくへきたよりもおほえすいとあやしかりけれは又ひとりまとひきにけりかくて又山にいりにけりさてをこせたりける
かへし
となんいへりける又しやうさうたいとく
ともいひけり此女はになくかしつきてみこたちかんたちめよはひ給へとみかとに奉らんとてあはせさりけれとこのこといてきにけれはおやもみすなりにけり
【百六】
故兵部卿宮この女のかゝることまたしかりける時よはひ給ひけりみこ
これもおなし宮
かへし
かくてこの女いてゝもの聞えなとすれとあはてのみありけれはみこおはしましたりけるに月のいとあかゝりけれはよみ給ひける
とのたまひけりかくてあふきをおとし給へりけるをとりて見れはしらぬ女の手にてかくかけり
とかけりけるをみてそのかたはらにかきつけて奉ける
となん又この女
返し
又おなし宮
かへし
【百七】
おなしみやにこと女
【百八】
南院のいまきみといふは右京のかみむねゆきのきみのむすめなりそれおほきおとゝの内侍のかんのきみの御かたにさふらひけりそれを兵衛督のきみあや君と聞えける時さうしにしは/\おはしけりおはしたえにけれはとこなつのかれたるにつけてかくなん
となんありける
【百九】
おなし女おほきかうしをかりて又のちにかりたりけれは奉りたりしうしはしにきといひたりけるかへりことに
【百十】
おなし女人に
【百十一】
大膳のかみきんひらのむすめともあかたの井といふ所にすみけりおほいこはきさいの宮に少将のこといひてさふらひけり三にあたりける備後守さねあきらまたわかおとこなりける時になんはしめのおとこにしたりけるすまさりけれはよみてやりける
となんありける
【百十二】
おなし女後に兵衛督もろたゝにあひてよみてをこせたりける風ふき雨ふりける日の事になん
とよみけり
【百十三】
ひやうゑのかみはなれての後臨時の祭のまひ人にさゝれていきけりこの女とも物見にいてたりけるさてかへりてよみてやりける
かくて兵衛督山吹につけてをこせたりける
となんかへしはしらすかくてこれは女かよひける時に
これもおなし人
【百十四】
かつらのみこ七夕のころ人にしのひてあひたまへりけりさてやりたまへりける
【百十五】
右のおとゝの頭におはしける時に少弐のめのとのもとによみて給ひける
となん
【百十六】
きんひらかむすめしぬとて
【百十七】
桂のみこよしたねに
【百十八】
閑院のおほいきみ
【百十九】
おなし女にみちのくにのかみにてしにし藤原のさねきかよみてをこせたりけるやまひいとおもくしてをこたりける比なりいかてたいめん給はらんとて
といへりけれはおほいきみかへし
といひたりけりさてきたりける夜もえあふましき事やありけむえあはさりけれはかへりにけりさてあしたに男のもとよりいひをこせたりける
おほい君かへし
【百二十】
おほきおとゝは大臣になり給て年比おはするに枇杷のおとゝはえなり給はてありわたりけるをつゐに大臣になり給にける御よろこひにおほきおとゝ梅をおりてかさし給ふて
とありけりその日の事ともを歌なとにかきてさいくうにたてまつり給とて三条の右の大殿の女御やかてこれにかきつけ給ひける
とありけり其御返し斎宮よりありけりわすれにけりかくてねかひ給けるかひありて左のおとゝの中納言わたり住給ひけれはたねみなひろこり給てかけおほく成にけりさりける時に斎宮より
【百二十一】
さねたうの少弐といひける人のむすめのおとこ
といへりけれは女
【百二十二】
としこか志賀にまうてたりけるにそうきゝみといふ法師ありけりそれはひえにすむ院の殿上もする法しになん有けるそれこのとしこのまうてたる日志賀にまうてあひにけりはしとのにつほねをしてゐてよろつの事をいひかはしけりいまはとしこ帰りなんとしけりそれにそうきのもとより
かへし
となん有けることはもいとおほくなん有ける
【百二十三】
おなしそうき君やれる人のもとはしらすかうよめりけり
【百二十四】
本院の北方のまた帥の大納言のめにていますかりけるおりに平中かよみて聞えける
といへりけるかくいひ/\てあひちきることありけりそのゝち左のおとゝの北のかたにてのゝしり給ひけるときよみてをこせたりける
となんいへりけるそのかへしそれよりまへ/\も歌はいとおほかりけれとえきかす
【百二十五】
泉の大将故左のおほいとのにまうてたまへりけりほかにて酒なとまいりゑひて夜いたくふけてゆくりもなくものし給へりおとゝおとろき給ていつくにものし給へるたよりにかあらんなと聞え給てみかうしあけさはくにみふのたゝみね御ともにありみはしのもとにまつともしなからひさまつきて御せうそこ申す
となんのたまふと申すあるしのおとゝいと哀におかしとおほしてそのよ一夜おほみきまいりあそひ給て大将も物かつきたゝみねもろくたまはりなとしけりこのたゝみねかむすめありときゝてある人なんえんといひけるをいとよき事なりといひけりおとこのもとよりかのたのめ給ひしことこの比のほとになん思ふといへりけるかへりことに
となんよみたりけるまことにまたいとちいさきむすめになむありける
【百二十六】
つくしに有けるひかきのこといひけるはいとらうありおかしくてよをへけるものになんありける年月かくてありわたりけるをすみともかさはきにあひて家もやけほろひものゝくもみなとられはてゝいといみしうなりにけりかゝりともしらて墅大弐うてのつかひにくたり給てそれか家のありしわたりをたつねてひかきのこといひけん人にいかてあはんいつくにかすむらんとのたまへはこのわたりになんすみはへりしなとともなる人もいひけりあはれかゝるさはきにいかに成にけんたつねてしかなとのたまひけるほとにかしらしろきをうなの水くめるなんまへよりあやしきやうなるいへに入けるある人ありてこれなんひかきのこといひけりいみしうあはれかり給てよはすれとはちてこてかくなんいへりける
とよみたりけれはあはれかりてきたりけるあこめひとかさねぬきてなんやりける
【百二十七】
又おなし人大弐のたちにて秋のもみちをよませけれは
【百二十八】
このひかきのこ歌なんよむといひてすきものともあつまりてよみかたかるへきすゑをつけさせんとてかくいひけり
とて末をつけさするに
とそつけたりける
【百二十九】
つくしなりける女京におとこをやりてよみける
となんいへりける
【百三十】
これもつくしなりける女
【百三十一】
先帝の御とき卯月のついたちの日うくひすのなかぬをよませ給ひける公忠
となむよみたりける
【百三十二】
おなしみかとの御時躬恒をめして月のいとおもしろき夜御あそひなとありて月をゆみはりといふはなにの心そそのよしつかうまつれと仰給ひけれはみはしのもとにさふらひてつかうまつりける
ろくにおほうちきかつきて又
【百三十三】
おなしみかと月のおもしろき夜みそかにみやすところたちの御さうしともを見ありかせ給けり御ともに公忠さふらひけりそれにある御さうしよりこきうちきひとかさねきたる女のいときよけなるいてきていみしうなきけり公忠をちかくめして見せたまひけれはかみをふりおほひていみしうなくなとてかくなくそといへといらへもせすみかともいみしうあやしかり給ひけり公忠
とよめりけれはいとになくめて給ひけり
群書類従卷第三百八
検校保己一集
物語部二
大和物語 上
群書類従卷第三百八 (Yamato monogatari) | ||