University of Virginia Library

今はむかし竹とりの翁といふものありけり野山にましりて竹をとりつゝ万の事につかひけり名をはさぬきの宮つことなむいひける其竹の中に本光る竹なむ一すち有けりあやしかりて寄て見るにつゝの中ひかりたりそれを見れは三寸はかりなる人いとうつくしうてゐたり翁云やう我朝毎夕毎にみる竹の中におはするにてしりぬ子になりたまふへき人なめりとて手に打入て家にもちて来ぬめの女にあつけてやしなはすうつくしき事限なしいとおさなけれはこに入てやしなふ竹とりの竹をとるに此子を見つけて後に竹とるにふしを隔てよことにこかねある竹を見つくる事かさなりぬかくておきなやう/\ゆたかになり行この児やしなふほとにすく/\とおほきになり増る三月計の内によきほとなる人になりぬれはかみあけなとさうしてかみあけさせもきすちやうのうちよりもいたさすいつきかしつきやしなふ此児のかたちのけさうなる事よになく屋のうちは闇き所なく光満たり翁心あしく候へし時も此子をみれはくるしき事もやみぬ腹たゝしくあることもなくさみけり翁竹をとる事久敷成ぬいきほひまうの物に成にけり此子いと大きに成ぬれはなをみむろといむへのあきたを喚てつけさすあきたなよ竹のかくや姫とつけつれ此ほと三日打あけあそふ万のあそひをそしける男はうけきらはすよひつとへてかしこくあそふ世かいのをのこあてなるもいやしきもいかて此かくや姫をえてしかな見てしかなと音に聞愛てまとふ其あたりの垣にも家の戸にもをる人たにたはやすくみるましき物を夜はやすきいもねす闇の夜にもこゝかしこよりのそきかいまみまとひあへりさる時よりなん夜はひとは云ける人も物ともせぬ所にまとひありけとも何のしるしあるへくも見えす家の人ともに物をたにいはんとていひかくれともことゝもせすあたりをはなれぬきんたち夜をあかし日をくらす人おほかりをろかなる人はようなきありきはよしなかりけりとてこす成にけりその中になを云けるは色好みといはるゝ限五人思ひやむ時なく夜ひる来けり其名とも石作りの御子、くらもちの御子左大臣安倍のみむらし大納言大とものみゆき中納言いそのかみのもろたり此人々なりけり世中におほかる人をたにすこしも形ちよしと聞ては見まほしくする人とも也けれはかのかくや姫をみまほしくて物もくはす思ひつゝかの家に行てたゝすみありきけれともかひあるへくもあらす文を書てやれとも返事もせす侘歌なと書てをこすれともかひなしと思へと霜月しはすの降氷水無月のてりはたゝくにもさはらすきたり此人々ある時は竹とりを喚てむすめを我にたへとふし拝み手をすりのたまへとをのかなさぬ子なれは心にも随はすなむあると云て月日を過すかゝれは此人々家に帰りて物を思ひ祈りをし願をたつ思ひやむへくもあらすさりとも終に男あはせさらんやはとおもひて頼をかけたりあなかちに心さしをみえありく是を見つけて翁かくや姫に云給我子のほとけへんけの人と申なからこゝらおほきさまてやしなひたてまつる志をろかならす翁の申さん事を聞給ひてんやといへはかくや姫何事をかのたまはむ事を承はらさらむ変化の物にてはんへりけん身ともしらす親とこそおもひ奉れといへは翁うれしくもの給ふ物かなと云翁年七十にあまりぬ今日ともあすともしらす此世の人はおとこは女に逢女は男にあふ事をす其後なむ門もひろくもなり侍るいかてかさる事なくてはおはしまさむかくや姫のいはくなむてうさる事かし侍らんと云は変化の人といふとも女の身持給へり翁のあらんかきりはかうてもいますかりなんかし此人々の年月を経てかうのみいましつゝのたまふ事をおもひ定て独々にあひ奉り給ひねといへはかくや姫いはくよくもあらぬ形ちをふかき心もしらてあた心つきなは後くやしき事も有へきをと思ふはかり也世の賢き人成ともふかき志をしらてはあひかたしとなむ思ふと云翁いはく思ひのことくもの給ふかなそも/\いかやうなる志あらん人にはあはんとおほすかはかりの心さしをろかならぬ人々にこそあめれかくや姫のいはくなにはかりのふかきをかみんといはむいさゝかの事也人の心さしひとしかんなりいかてか中にをとりまさりはしらむ五人のひとの中にゆかしき物みせ給へらんに御志まさりたりとてつかふまつらんとそのおはすらん人々に申給へといふよき事なりとうけつ日くるゝ程に例のあつまりぬあるひは笛を吹或はうたをうたひ或は琵琶しやうかをしあるひはうそふきあふきをならしなとするに翁出ていはく忝もきたなけなる所に年月を経てものし給ふ事きはまりたるかしこまりと申す翁の命今日明日ともしらぬをかくの給ふ君達にもよく思ひ定てつかふまつれと申も理なりいつれもをとり増りおはしまさねは御志の程はみゆへしつかふまつらん事はそれになむ定むへきといへは是よき事なり人の御恨も有ましと云五人の人々もよき事也といへは翁入て云かくや姫石作の御子には・佛の御いしのはちと云物ありそれをとりて給へと云倉もちの御子には東の海に蓬莱と云山ありそれにしろかねを根として金をくきとし白き玉をみとしたてる木ありそれを一えたおりて給はらんと云今独にはもろこしにある火鼠の革きぬをたまへ大ともの大納言には龍のくひに五色に光る玉ありそれをとりて給へ磯の上の中納言にはつはくらめのもたるこやすのかひ一つとりてたまへといふ翁かたき事ともにこそあなれ此国に有物にはあらすかく難事をはいかに申さんといふかくや姫なにかかたからんといへは翁とまれかくまれ申さんとて出てかくなむきこゆるやうに見たまへといへは御子たち上たちめ聞ておいらかにあたりよりたになありきそとやはのたまはぬといひてうむしてみな帰ぬなを此女みては世にあるましき心ちしけれは天竺にある物ももてこぬものかはと思ひめくらしていしつくりの御子は心のしたくある人にて天竺に二つとなきはちを百千万里のほといきたりともいかてとるへきと思ひてかくや姫のもとには今日なん天竺へ石のはちとりにまかると聞せて三年計大和国とをちの郡に有山寺にひむつるの前なるはちのひたくろに墨付たるを取て錦の袋に入てつくり花の枝につけてかくや姫の家にもて来て見せけれはかくや姫あやしかりてみれははちの中にふみ有ひろけて見れは

海山のみちにこゝろをつくしはてないしのはちのなみたなかれき

かくや姫光や有とみるに蛍はかりのひかりたになし

置露のひかりをたにもやとさましをくら山にてなにもとめけむ

とて返し出すをはちを門にすてゝ此歌の返しをす

しら山にあへは光のうするかとはちをすててもたのまるゝかな

とよみて入たりかくや姫返しもせすなりぬみゝにも聞入さりけれはいひわつらひて帰りぬかのはちをすてゝ又云けるにそおもなき事をははちをすつとはいひける倉もちの御子は心たはかりある人にておほやけにはつくしの国にゆあみにまからんとていとま申してかくや姫の家には玉のえたとりになむまかるといはせてくたり給ふにつかふまつるへき人々皆難波まて御送りしける御子いと忍ひてのたまはせて人もあまたゐておはしまさすちかうつかうまつる限りしていて給ひ御送り給人々見たてまつり送りて帰りぬおはしましぬと人にみえ給ひて三日はかりありて漕かへり給ひぬかねてことみなおほせたりけれは其時ひとつ宝なりけるかちたくみ六人をめしとりてたはやすく人よりくましき家つくりかまとをみへにしこめてたくみらを入給ひつゝ御子も同し所にこもり給ひてしらせ給ひたるかきり十六そをかみにくとをあけて玉のえたを作り給ふかくや姫のたまふやうにたかはす作り出ついとかしこくたはかりて難波にみそかにもて出ぬ船に乗てかへり来にけりととのにつけやりていといたくくるしかりたるさましてゐたまへりむかへに人多く參りたり玉のえたをはなかひつに入て物おほひて持てまいるいつか聞けむくらもちの御子はうとんくゑの花もちてのほりたまへりとのゝしりけり是をかくや姫聞て我は此御子にまけぬへしと胸つふれて思ひけりかゝるほとに門をたゝきて倉持の御子おはしたりとつく旅の御姿なからおはしたましたりといへはあひたてまつる御子のたまはく命をすててかの玉のえたもちて来りとてかくや姫に見せ奉り給へといへは翁持て入たり此玉のえたにふみそつけたりける

徒に身はなしつとも玉のえたたをらてさらにかへらさらまし

是をも哀とも見てをるに竹とりの翁走入ていはく此御子に申給ひし蓬莱の玉のえたをひとつの所あやしき所なくあやまたすもておはしませり何をもちてとかく申へきにあらす旅御姿なから我家へもよりたまはすしておはしましたりはや此御子にあひつかうまつり給へといふに物もいはてつらつえ付ていみしくなけかしけに思ひたり御子今何かと云へからすと云まゝに縁にはひのほり給ぬ翁理と思ひ此国にみえぬ玉の枝也此度はいかてかいなひ申さん人樣もよき人におはすなと云ゐたりかくや姫の云やうは親のたまふ事をひたふるにいなひ申さん事のいとをしさに取かたき物をかくあさましくもてきたる事をねたくおもひ翁は閨の内しつらひなとす翁御子に申やういかなる所にか此木は候けんあやしくうるはしくめてたきものにもと申御子こたへての給くさをとゝしのきさらきの十日頃に難波より船に乗て海の中に出てゆかんかたもしらす覚しかと思ふ事ならて世中にいきて何かせんと思ひしかはたゝむなしき風にまかせてありく命しなはいかゝはせんいきてあらん限かくありきて蓬莱といふらむ山にあふやと海に漕たゝよひありきて我国のうちを離てありき廻りしにある時はなみ荒つゝ海の底に入ぬへく或時は風につけてしらぬ国に吹よせられて鬼のやうなるもの出来て殺さんとすある時はこしかた行末もしらす海にまきれむとしき或時にはかてつきて草の根をくひものとすある時はいはんかたなくむくつけなるものきてくひかゝらんとしきある時は海の貝をとりて命をつく旅の空にたすけ給ふへき人もなき所に色々のやまひをして行方空もおほえす船の行にまかせて海にたゝよひて五百日といふ辰の時はかりに海の中に纔に山みゆ舟のうちをなんせめてみる海の上にたゝよへる山いとおほきにて有其山のさま高くうるはしこれや我救る山ならんと思ひてさすかにおそろしくおほえて山のめくりをさしめくらして二三日はかりみありくに天人の粧ひしたる女山の中より出来て銀のかなまるをもちて水をくみありく是を見て船よりおりて此山の名を何とか申とゝふ女こたへていはく是は蓬莱の山なりと答是を聞に嬉しき事限なし此女かくの給ふは誰そとゝふ我なはうかんるりと云てふと山の中に入ぬ其山を見るに更にのほるへきやうなし其山の岨ひらをめくりけれは世中になき花の木ともたてり金銀瑠璃色の水山よりなかれ出たりそれには色々の玉の橋わたせりそのあたりに照輝く木ともたてり其内にこのとりてもちてまうてきたりしはいとわろかりしかともの給ひしにたかはましかはと此花を折てまうて来る也山は限なく面白し世にたとふへきにあらさりしかと此枝を折てしかは更に心もとなくて舟に乗て追手の風吹て四百よ日になん詣きにし大願力にや難波より昨日なん都に詣きつる更に塩に雰たる衣をたに脱かへなてなん詣来つるとのたまへは翁聞て打歎てよめる

くれ竹のよゝの竹とり野山にもさやは侘しきふしをのみ見し

是を御子聞てこゝらの日頃思ひ侘侍りつる心今日ならむおちゐぬるとの給ひて返し

わか袂けふかはけれは侘しさの千種のかすも忘られぬへし

との給ひかゝる程に男六人つらねて庭に出来たり一人おとこふはさみに文を挿て申つくもところつかさのたくみあやへのうちまろ申さく玉の木を作りつかふまつりし事五穀を断て千余日に力をつくしたる事すくなからす然るに録いまた給はらす是給はりてわろきけこにたまはせんと云てさゝけたり竹とり此工等か申事を何事そとかたふきおり御子は我にもあらぬけしきにて肝消ぬへき心ちしてゐ給へり是をかくや姫聞て此奉る文をとれと云てみれはふみに申けるやう御子のきみ千日いやしき匠等ともろともに同し所に隠ゐたまひてかしこき玉の枝をつくらせ給ひて司もたまはんと仰給ひき是を頃あんするに御つかひとおはしますへきかくや姫のえうし給ふへき成けりと承て此宮よりたまはらんと申て給るへきなりと云を聞てかくや姫のくるゝまゝに思ひ侘つる心ちわらひさかへて翁をよひとりて云やう誠蓬莱の木とこそ思ひつれかくあさましき空事にてありけれはや返し給へといへは翁こたふさすかにつくらせたる物と聞つれは返さん事いとやすしとうなつきおりかくや姫の心行果てありつる歌のかへし

まことかと聞てみつれは言の葉をかされる玉のえたにそ有ける

と云て玉のえたも返しつ竹取の翁さはかりかたらひつるかさすかに覚てねふりをり御子は立もはしたゐるもはしたにてゐ給へり日の暮ぬれはすへり出給ひぬかのうれへせしたくみをはかくや姫よひすへてうれしき人ともなりといひて録とも多くとらせ給ふたくみらいみしく喜て思ひつるやうにも有哉と云て帰る道にてくらもちの御子ちのなかるゝまてちやうせさせ給ふろくえしかひもなくみな取すてさせ給ひてけれは逃うせにけりかくて此御子は一しやうのはち是にすくるはあらし女を得す成ぬるのみにあらす天下の人の見思はん事のはつかしき事との給ひてたゝ一所ふかき山へ入給ひぬ宮司さふらひし人々みなてを分ちてもとめたてまつれとも御しにもやし給ひけんえみつけ奉らす成にけり是をなんたまかさるとはいひはしめける左大臣安倍のみむらしは宝ゆたかに家広き人にそおはしける其年きたりけるもろこし船のわうけいといふ人のもとに文を書て火ねすみの皮といふなる物買ておこせよとてつかふまつる人の中に心たしかなるを撰て小野房盛と云人をつけてつかはすもていたりてかのうらにをるわうけいに金をとらすわうけい文をひろけて見て返事かく火鼠の皮衣此国になき物也音にはきけともいまた見すさふらふ物也世にある物ならは此国にももて詣来なましいとかたき商也然とも若天ちくに逅にもて渡りなは若ちやうしやのあたりにとふらひもとめんになき物ならは使に添てかねをは返し奉らんといへり彼唐ふねきけり小野房盛詣きてまうのほると云事を聞てあゆみとくするむまをもちてはしらせむかへさせ給ふ時に馬に乗て筑紫より唯七日にのほりまふて来り文をみるにいはく火ねすみの革衣からうして人を出して取て奉る今のよにも昔の世にも此皮はたはやすくなき物也けり昔賢き天竺の聖此国にもてわたりて侍りける西の山寺にありと聞及ておほやけに申てからうしてかい取て奉るあたひの金すくなしとこくし使に申しかはわうけいか物くはへてかひたり今金五十両たまはらん舟のかへらんにつけてたひ送れ若金たまはぬ物ならは皮衣のしち返したへといへる事をみてなにおほすいま金少の事にこそあめれうれしくしてをこせたる哉とて唐のかたにむかひてふし拝み給ふ此革衣入たる箱をみれは草々のうるはしきるりを色へてつくれり皮衣を見れはこんしやうの色也毛のすゑにはこかねの光しさゝりたり宝とみえうるはしき事并ふへきものなし火に焼ぬ事よりもけうらなる事双なしうへかくや姫このもしかり給ふにこそありけれとの給ひてあなかしことて箱に入たまひてものゝ枝に付て御身のけさういといたくしてやかてとまりなむ物そとおほして歌読くはへてもちていましたり其歌は

かきりなき思ひにやけぬかはころもたもとかはきて今日こそはきめ

と云り家の門にもていたりてたてり竹取出きて取入てかくや姫に見すかくや姫の皮衣をみて云くうるはしき皮なめりわきて誠の皮ならんともしらす竹とりこたへていはくとまれかくまれ先しやうし入奉らん世中にみえぬ皮衣のさまなれはこれをと思ひ給ね人ないたく侘させたまひそと云て、よひすへ奉れりかくよひすへて此たひ必あはんと女の心にも思ひをり翁はかくや姫のやもめなるをなけかしけれはよき人にあはせむと思ひはかれとせちにいなといふ事なれはえしゐぬはことはりなりかくや姫翁にいはく此皮きぬは火にやかんに焼すはこそまことならめと思ひて人の云事にもまけめ世になき物なれはそれをまことゝうたかひなく思はんとの給ひて猶是をやきてこゝろみむといふおきなそれさもいはれたりといひて大臣にかくなん申と云大臣こたへていはく此革は唐にもなかりしとからうして取尋えたる也何の疑あらん左は申ともはや焼て見給へといへは火のうちに打くへてやかせ給ふにめら/\とやけぬされはこそことものゝ皮也けりといふ大臣是を見給ひてかほは草の葉の色してゐたまへりかくや姫はあなうれしとよろこひていたりかのよみ給ひけるうたの返し箱に入てかへす

余波なくもゆとしりせは皮ころもおもひのほかに置て見ましを

とそ有けるされは帰りいましにけりよの人々あへの大臣火鼠の皮きぬもていましてかくや姫にすみ給ふとなこゝにやいますなととふある人のいはく皮は火にくへてやきたりしかはめら/\とやけにしかはかくや姫逢給すと云けれは是を聞てそとけなき物をはあへなしと云ける大友の御ゆきの大納言は我家に有とある人めしあつめての給はく龍の首に五色の光ある玉あなりそれとりてたてまつりたらん人にはねかはん事をかなへんとのたまふ男とも仰の事を承て申さく仰の事はいともたうとし但此玉たはやすくえとらしをいはんや龍の首の玉はいかゝとらむと申あへり大納言のたまふてんの使といはんものは命をすてゝもをのか君の仰ことをはかなへんとこそおもはへけれ此国になき天竺唐の物にもあらす此玉の海山より龍はおりのほるもの也いかに思ひてかなんちらかたき物と申へきをのことも申やうさらはいかゝはせむかたき事成とも仰ことに随てもとめにまからむと申に大納言見わらひてなんちらか君の使と名をなかしつ君のおほせことをは如何は背くへきとの給ひて龍の首の玉取にとて出し立給ふ此人々のみちのかてくひ物にとのゝうちのきぬわたせになとある限取出てそへてつかはす此人ともの帰るまていもゐをして我はをらん此玉取えては家にかへりくなとのたまはせけり各仰承て罷ぬたつのかしらの玉とりえすはかへりくなとのたまへはいつちも/\足のむきたらんかたへゆかんとすかゝるすき事をし給ふ事と誹りあへりたまはらせたる物各分つゝとる或はをのか家に籠り居或はをのかゆかまほしき所へいぬ親君と申ともかくつきなき事をの給ふ事とことゆかぬゆへ大納言をそしりあひたりかくや姫すへんにはれいやうには見にくしとの給ひてうるはしき屋を作り給ひてうるしをぬり蒔絵し給ひて屋のうへにはいとをそめていろ/\ふかせて内々のしつらひにはいふへくもあらぬ綾織物に絵を書てまことにはりたりもとのめともはかくや姫を必あはんまふけして独明しくらし給ふつかひし人は夜昼待給ふに年越るまて音もせす心もとなくていと忍てたゝ舎人二人召付としてやつれ給ひ難波の辺におはしまして問給ふ事は大友の大納言とのゝ人やふねに乗て龍ころして其首の玉とれるとや聞とゝはするに舟人こたへていはくあやしき事哉とわらひてさるわさするふねもなしと答るにおちなき事する船人にもある哉得しらてかく云とおほして我ゆみの力は龍あらはふといころして首の玉はとりてんをそくゝるやつはらをまたしとの給ひて船にのりて海ことにありき給ふにいと遠くて筑紫のかたの海に漕出給ひぬいかゝしけむはやき風吹て世界くらかりて船を吹もてありくいつれのかたともしらす舟を海中にまかり入ぬへく吹まはして波は船に打かけつゝまき入神はおちかゝるやうにひらめきかゝるに大納言はまとひてまたかゝる侘しきめみすいかならんとするそとのたまふ梶とりこたへて申こゝら舟にのりてまかりありくにまたかく侘しきめを見す御船海のそこにいらは神おちかゝりぬへしもし幸に神のたすけあらは南海にふかれおはしぬへしうたてある主のみもとにつかふまつりてすゝろなるしにをすへかめるかなとかちとりなく大納言是を聞ての給く船に乗ては梶とりの申ことをこそ高き山ともたのめなとかくたのもしけなき事を申そとあをへとをつきての給ふかち取答て申神ならねは何わさをかつかふまつらむ風吹波はけしけれとも神さへいたゝきにおちかゝるやうなるは辰を殺さんと救給ふ故にある也はやても龍のふかするなりはや神にいのり給へといふよき事也とて梶とりの御神きこしめせをとなく心おさなく龍をころさむと思ひけり今より後はけのすち一すちをたにうこかしたてまつらしとよことをはなちてたちゐなく/\よはひ給ふこと千度はかり申給ふけにやあらん漸々神なりやみすこし光て風は猶はやく吹梶取のいはく是はたつのしわさにこそありけれ此吹風はよき方の風也悪敷かたのかせにはあらすよき方へおもむきて吹なりといへとも大納言は是を聞入給はす三四日ふきて吹かへしよせたり浜をみれは播磨のあかしの浜なり鳧大納言南海の浜に吹よせられたるにやあらむとおもひていきつきふし給へり舟にある男とも国につきたれとも国の司まうてとふらふにもえおきあかり給はてふなそこに臥たまへり松原に御むしろ敷ておろし奉る其時にそ南海にあらさりけりとおもひて、からうしておきあかりたまへるを見れは風いとおもき人にてはらいとふくれこなたかなたの目にはすもゝを二つつけたる様也是をみたてまつりてそ国の司もほゝえみたる国におほせ給ひてたこしつくらせ給ひて漸々になはれたまひて家に入たまひぬるをいかてか聞けんつかはしゝ男ともまいりて申やう龍のくひの玉をえとらさりしかは南海へもまいらさりし玉の取かたかりし事をしり給へれはなんかむたうあらしとて参つると申大納言起出のたまはくなむちらよくもてこすなりぬたつはなる神のるいにこそ有けれそれか玉をとらむとてそこらの人々のかいせられむとしけりましてたつをとらへたらましかは又とこもなく我はかいせられなましよくとらへすやみにけるかくや姫てふおほ盗人のやつか人をころさむとする也けり家のあたりたに今はとをらし男ともゝなありきそとて家に少残りたりける物ともは龍の玉をとらぬものともにたひつ是を聞てはなれ給ひしもとの上ははらをきりてわらひ給ふいとをふかせつくりし屋はとひからすの巣にみなくひもていにけり世界の人いひけるは大ともの大納言は龍の首の玉や取ておはしたるいなさもあらすみまなこ二つにすもゝのやうなる玉をそへていましたるといひけれはあなたへかたといひけるよりそ世にあはぬ事をは堪かたとはいひはしめける中納言磯のかみのまろたりは家につかはるゝをのことものもとにつはくらめのすくひたらはつけよとの給ふを承て何の用にかあらむと申こたへての給ふやうつはくらめのもたるこやすのかひをとらんれうなりとの給ふをのこともこたへて申つはくらめをあまたころしてみるにたにも腹になき物也たゝし子うむ時なんいかてかいたすらんはう/\かと申人たにみれはうせぬと申又人申やうおほいつかさのいひかしく屋のむねにつくのあなことにつはくらめは巣をくひ侍るそれにまめならんをのこともをゐてまかりてあくらをゆひあけてうかゝはせんにそこらのつはくらめこをうまさらむやは扨こそとらしめ給はめと申中納言よろこひたまひておかしき事にも有哉尤えしらさりけりけうある事申たりとの給ひてまめなるをのことも廿人はかりつかはしてあななひにあけすへられたりとのより使隙なくたまはせてこやすのかひとりたるかととはせ給ふつはくらめも人あまたのほりゐたるにおちてすにものほりこすかゝるよしの御返事を申たれは聞給ひて如何すへきとおほしめし煩ふに彼つかさのくわん人くらつまろと申翁申やうこやすのかひとらむとおほしめさはたはかり申さむとて御前に参たれは中納言額を合てむかひゐたまへりくらつまろか申やう此燕めこやすのかひはあしくたはかりてとらせ給ふ也扨はえとらさせたまはしあなゝひにおとろ/\しく廿人のひと/\のゝほりて侍るなれはあれてよりまうてこすせさせ給ふへきやうは此あなゝひをこほちて人みなしりそきてまめならむ人をあらこにのせすへてつなをかまへて鳥のこうまん間につなをつりあけさせてふとこやすのかひをとらせ給なんよき事なるへきと申中納言の給ふやういとよき事なりとてあなゝひをこほし人みなかへりまうてきぬ中納言くらつまろにの給はくつはくらめはいかなる時にか子うむとしりて人をはあくへきとのたまふくらつまろ申やうつはくらめ子うまむとする時はおをさけて七度めくりてなんうみおとすめる扨七度めくらんおりひきあけてそのおりこやすの貝はとらせたまへと申中納言喜てよろつの人にもしらせ給はてみそかにつかさにいましてをのこともの中にましりて夜をひるになしてとらしめ給ふくらつまろかく申をいといたく喜ての給ふこゝにつかはるゝ人にもなきにねかひをかなふることのうれしさとの給ひて御そぬきてかつけ給つさらによさり此司にまうてことの給ひてつかはしつ日暮ぬれはかのつかさにおはして見給ふに誠につはくらめ巣つくれりくらつまろ申やうおうけてめくるにあらこに人をのほせてつりあけさせてつはくらめの巣に手をさし入させてさくるに物もなしと申に中納言あしくさくれはなきなりと腹立てたれはかりおほふらんにとてわれのほりてさくらむとの給ひて籠に入てつられのほりてうかゝひ給へるにつはくらめ尾をさけていたくめくりけるにあはせて手をさゝけてさくり給ふにひらめる物さはりけるとき我物にきりたり今はおろしてよおきなしえたたりとの給ひてあつまりてとくおろさんとて綱を引すくしてつなたゆるときにやしまのかなへのうへにのけさまにおちたまへり人々あさましかりて寄てかゝへたてまつれり御目はしらめにてふし給へり人々水をすくひ入たてまつれりからうしていき出給るに又かなへのうへよりてとりありとりしてさけおろし奉るからうして御心ちはいかゝおほさるゝとゝへは息の下にて物はすこしおほゆれとこしなむうこかれぬされとこやすのかひをふとにきりもたれは嬉敷おほゆれまつしそくさしてこゝのかひかほ見むと御くしもたけ御手をひろけ給へるにつはくらめのまりおけるふるくそをにきり給へるなりけりそれをみ給ひてあなかひなのわさやとの給ひけるよりそ思ふにたかふ事をはかひなしといひけるかひにもあらすと見給ひけるに御心ちもたかひてからひつのふたに入られ給ふへくもあらす御こしはおれにけり中納言ははらはけたるわさしてやむことを人にきかせしとしたまひけれとそれをやまひにていとよはく成たまひけりかひをもとらすなりにけることを日に添て思ひ給ひけれはたゝにやみしぬるよりも人聞〓(女+鬼)敷おほえ給ふ成けり是をかくや姫聞てとふらひにやるうた

年をへて浪立よらぬすみの江のまつかひなしときくはまことか

とあるをよみてきかすいとよはき心にかしらもたけて人にかみをもたせてくるしき心ちにからうして書給ふ

かひはなく有けるものをわひはてゝしぬる命をすくひやはせぬ

と書はてゝたえ入給ひぬ是を聞てかくや姫少哀とおほしけりそれよりなん少嬉しきことをはかひあるとはいひけり扨かくや姫かたちの世ににすめてたき事を御門聞しめしてないしなかとみのふさこにの給多くの人の身を徒になしてあはさなるかくや姫はいかはかりの女そと見てまいれとの給ふふさこ承てまかれり竹取の家に畏てしやうし入てあへり女にないしの給仰ことにかくや姫のかたちいうにおはすなりよくみてまいるへきよしの給はせつるになむまいりつるといへはさらはかくと申侍らんといひて入ぬかくや姫にはやかの御使に対面し給へといへはかくや姫よきかたちにもあらすいかてか見ゆへきといへはうたてもの給ふ物哉帝の御使をはいかてかをろかにせむといへはかくや姫こたふるやう御門のめしての給はん事かしこしともおもはすといひて更にみゆへくもあらすうめるこの様にあれといと心はつかしけに疎かなるやうにいひけれは心の侭にもえせめす女ないしのもとにかへり出て口惜き此おさなきものはこはく侍る物にてたいめんすましきと申ないし必見たてまつりてまいれとおほせことありつるものを見たてまつらてはいかてかかへりまいらん国王の仰ことをまさに世にすみたまはむ人の承り給はてありなんやいはれぬ事なし給ひそと言葉はつかしくいひけれは是を聞てましてかくや姫聞へくもあらす国王の仰事を背かははやころし給ひてよかしといふ此内侍帰りまいりて此由をそうす御門聞食て多くの人をころしてける心そかしとの給てやみにけるされと猶思しおはして此女のたはかりにやまけむとおもほして仰給ふなんちかもちてはんへるかくや姫奉れかほかたちよしと聞食て御使をたひしかとかひなく見えす成にけりかくたい/\しくやはならはすへきと仰らる翁かしこまりて御かへり事申様此めのわらはゝたえて宮つかへ仕へくもあらす侍るをもてわつらひ侍るさりともまかりて仰給はんと奏す是を聞召て仰給ふやうなとか翁の手におほしたてたらん物を心にまかせさらむ此女もし奉りたる物ならは翁にかふむりなとかたはせさらん翁喜て家に帰りてかくや姫にかたらふやうかくなむ帝の仰給へるなをやはつかふまつり給はぬといへはかくや姫答ていはくもはらさやうの宮つかへつかふまつらしと思ふをしゐてつかふまつらせたまはゝ消うせなむすみつかさかふふりつかふまつりてしぬはかり也翁いらふるやうなし給そつかさかふふりも我こを見たてまつらては何にかせむさはありともなとか宮つかへをしたまはさらんしに給ふへきやうやあるへきと云なをそらことかとつかまつらせてしなすやあるとみたまへあまたの人の志をろかならさりしをむなしくなしてしこそあれきのふ今日帝の宣はん事につかむ人聞やさしといへは翁こたへていはく天下の事はとありともかゝりとも身命のあやうさこそ大きなるさはりなれはなをかうつかふまつるましき事をまいりて申さむとてまいりて申樣仰ことのかしこさにかのわらはをまいらせむとてつかふまつれは宮仕に出奉り候はゝしぬへしと申宮つこまろかてにうませたるこにてあらす昔山にて見つけたるかかれは心操もよの人にゝすそ侍ると奏せさす御門仰給はく宮つこまろか家は山本ちかくなり御狩行幸し給はんやうにて見てむやとのたまはす宮つこまろか申様いとよき事也何か心もなくて侍らむにふと御幸して御覧せられなんと奏すれは御門俄に日を定て御狩に出給ひてかくや姫の家に入給ふて見給ふに光みちてけうらにてゐたる人あり是ならんと思してにけて入袖をとりてをさへ給へは面をふたきて候へと始よく御覧しつれはたくひなくめてたくおほえさせ給ひてゆるさしとすとてゐておはしまさむとするにかくや姫こたへてそうすをのか身は此国に生れて侍らはこそつかひ給はめいとゐておはしましかたくや侍らんとそうす御門なとかさあらんなをゐておはしまさんとて御こしをよせ給ふに此かくや姫きとかけになりぬはかなく口惜とおほしてけにたゝ人にあらさりけりとおほしてさらは御ともにはゐていかしもとの御かたちとなり給ひねそれをみてたにかへりなんと仰らるれはかくや姫もとのかたちに成ぬ御門猶めてたくおほしめさるゝ事せきとめかたしかくみせつる宮つこまろを悦給ふ扨つかふまつる百官人にあるしいかめしうつかふまつる御門かくや姫をとゝめて帰りたまはむ事をあかすくちおしくおほしけれと魂をとゝめたる心ちしてなむかへらせ給ひける御こしにたてまつりて後にかくや姫に

かへるさの御幸物うくおもほえて背てとまるかくやひめゆへ

御返り事

むくらはふ下にもとしはへぬる身の何かは玉の台をは見む

これを御門御覧していとゝ帰り給はむ空もなくおほさる御心は更に立かへるへくもおほされさりけれと去とて夜をあかし給ふへきにもあらねはかへらせ給ひぬ常につかふまつる人をみ給ふにかくや姫の傍によるへくたにあらさりけりこと人よりもけうらなりとおほしける人のかれにおほしあはすれは人にもあらすかくや姫のみ御心にかゝりて唯独すこし給ふよしなくて御かた/\にもわたり給はすかくや姫の御もとにそ御文を書てかよはさせ給ふ御かへりさすかににくからすきこえかはし給ひておもしろき木草につけても御歌を読てつかはすかやうにて御心を互に慰め給ふほとに三年計有て春の初よりかくや姫月の面白う出たるをみて常よりも物おもひたるさまなりある人の月のかほみるはいむ事とせいしけれともともすれは人まには月をみていみしく啼給ふ七月十五日の月にいてゐてせちに物おもへるけしきなり近くつかはるゝ人竹取の翁につけていはくかくや姫例も月を哀かり給けれとも頃と成てはたゝ事にも侍らさめりいみしくおほしなけく事あるへしよく/\見たてまつれ給へといふを聞てかくや姫にいふ樣なんてう心ちすれはかく物をおもひたる樣にて月を見給ふそうましき世にと云かくや姫見れは世間心細く哀に侍るなてう物をか歎き侍るへきと云かくや姫の有所に到てみれは猶物おもへるけしきなり是を見てあかほとけなに事思ひ給そおほすらむ事何事そといへは思ふ事もなし物なん心ほそくおほゆるといへは翁月なみ給そ是を見給へは

物おほすけしきはあるそといへはいかて月を見てはあらむとて猶月出れは出居つゝ歎きおもへり夕闇には物おもはぬけしき也月の程に成ぬれは猶時々は打歎きなきなとす是をつかふものとも猶物おほす事あるへしとさゝやけとおやを始て何事ともしらす八月十五日計の月に出居てかくや姫いといたくなき給ふ人めも今はつゝみ給はすこれをみておやとも何事そととひさはくかくや姫なく/\云さき/\も申さむと思ひしかとも必心まとはしたまはん物そと思ひて今迄すこし侍りつる也さのみやはとて打出侍ぬるそをのか身は此国の人にもあらす月の宮古の人也それをなんむかしのちきりなりけるによりなむ此世界にはまうてきたりける今は帰るへきに成にけれは此月の十五日にかの国よりむかへに人々まうてこんすさらはまかりぬへけれはおほしなけかむか悲しき事を此春より思ひなけき侍るなりと云ていみ敷なくを翁こはなてうことの給ふそ竹の中よりみつけきこえたりしかとなたねの大きさにおはせしをわかたけ立ならふまてやしなひ奉りたるわか子を何人かむかへきこえむまさにゆるさむやといひて我こそしなめとて啼〓(勹+言)ることいとたへかたけなりかくや姫の云月の宮古の人にてちゝはゝあり片時の間とてかの国よりまうてこしかともかく此国にはあまたの年を経ぬるになむありけるかの国のちゝはゝのこともおほえすこゝにはかく久敷あそひ聞えてならひ奉れりいみしからむ心ちもせすかなしくのみあるされとをのか心ならすまかりなんとするといひてもろともにいみしうなくつかはるゝ人々も年頃ならひてたち別なむ事をこゝろはへなとあてやかに美しかりける事をみならひてこひしからん事の堪かたくゆ水のまれすおなし心になけかしかりけり此事を御門聞食て竹とりか家に御使つかはさせ給ふ御使にたけとり出合てなく事限なし此事をなけくに髪も白くこしもかゝまり目もたゝれにけりおきな今年は五十はかりなりしかとも物思にはかた時になむ老になりにけるとみゆ御使仰ことゝて翁にいはくいと心くるしく物思ふなるはまことにかと仰給ふ竹取なく/\申此十五日になむ月の宮古よりかくや姫のむかひにまうてくなりたうとくとはせ給此十五日は人々給りて月の宮古の人々まうてこはとらへさせむと申御使かへりまいりて翁のあり樣申て奏しつる事とも申を聞召ての給ふ一目見給ひし御心にたにわすれ給はぬに明暮みなれたるかくや姫をやりていかゝおもふへき此十五日司々に仰て勅使せうしやう葛野のおほくにといふ人をさして六ゑのつかさ合て二千人の人を竹とりか家につかはす家にまかりてついちの上に千人屋の上に千人家の人々いとおほくありけるにあはせてあける隙もなくまもらす此守る人々も弓矢をたいしておもやの内には女とも番にをりて守す女ぬりこめの内にかくや姫をいたかへてをり翁もぬりこめの戸をさして戸口にをり翁いはくかはかり守る所に天の人にもまけむやといひて屋の上にをる人々にいはく露も物空にかけらはふといころし給へ守る人々のいはくかはかりして守る所にかはかり一たにあらは先いころしてほかにさらさむとおもひ侍ると云翁これを聞てたのもしかりをり是を聞てかくや姫はさしこめてまもりたゝかふへきしたくみをしたりともあの国の人えたゝかはぬ也弓やしていられしかくさしこめてありともかの国の人こは皆あきなんとす相たゝかはんとするともかの国の人きなはたけき心つかふ人もよもあらし翁のいふやう御むかへにこむ人をはなかきつめしてまなこをつかみつふさんとさかゝみをとりてかなくりおとさむさかしりをかきいてゝこゝらのおほやけ人に見せてはちをみせむと腹立おるかくや姫云こは高になの給ひそ屋のうへにをる人共の聞にいとまさなしいますかりつる志をおもひもしらてまかりなむすることの口惜う侍りけりなかき契のなかりけれは程なくまかりぬへきなめりとおもひかなしく侍る也親達のかへりみを聊たにつかまつらてまからむ道もやすくもあるましきにひころもいてゐて今年計の暇を申つれと更にゆるされぬによりてなむかく思ひなけき侍る御心をのみまとはしてさりなん事のかなしく堪かたく侍る也かの都の人はいとけうらにおいもせすなむ思ふこともなく侍也さる所へまからむするもいみしくも侍らす老おとろへたまへる様を見たてまつらさらんこそ恋しからめといひて翁胸にいたきことなし給ひそうるはしき姿したる使にもさからしとねたみをりかゝる程に宵打過てねの時はかりに家のあたりひるのあかさにも過て光たりもち月のあかさ十合たる計にて有人の毛のあなさへ見ゆるほとなり大空より人雲に乗ており来てつちより五尺計あかりたるほとにたちつらねたり是をみて内外なる人の心とも物におそはるゝやうにしてあひたゝかはむ心もなかりけりからうして思ひおこして弓矢を取たてむとすれとも手に力もなく成てなへかゝりたる中に心さしさかしきものねんしていむとすれともほかさまへいきけれはあれもたゝかはてこゝちたゝしれにしれて守あへりたてる人共はさうそくのきよらなること物にもにすとふ車ひとつくしたりらかいさしたりその中にわうとおほしき人いへに宮つこまろまふてこといふにたけく思ひつる宮つこまろも物におそひたる心ちしてうつふしにふせりいはく汝おさなき人いさゝかなるくとくを翁つくりけるによりて汝かたすけにとて片時の程とてくたししをそこの年比そこらのこかねたまひてみをかへたるかことなりにけりかくや姫はつみをつくり給へりけれはかくいやしきをのかもとにしはしおはしつる也つみの限はてぬれはかくむかふるを翁はなきなけくあたはぬ事也はやいたし奉れと云翁こたへて申かくや姫を養奉る事廿余年に成ぬかた時との給ふにあやしくなり侍りぬ又こと所にかくや姫と申人そおはしますらんと云爰におはするかくや姫はおもき病をしたまへはえいておはすましと申せはその返事はなくて屋のうへにとふ車をよせていさかくや姫きたなき所にいかてか久しくおはせむと云たてこめたる所の戸即たゝあきにあきぬかうしともゝ人はなくしてあきぬ女いたきてゐたるかくや姫とに出ぬえとゝむましけれはたゝさしあふきてなきをり竹取心まとひてなきふせる所によりてかくや姫云こゝにも心にもあらてかくまかりのほらんをたに見をくり給へといへともなにしに悲しきにみ送りたてまつらむ我をはいかにせよとて捨てはのほり給ふそくしてゐておはせねと啼てふせれは御心まとひぬふみをかき置てまからむ恋しからん折々とり出てみ給へとて打なきてかくことはゝこの国にむまれぬるとならはなけかせ奉らぬほとまて侍らてすき別侍るこそかへす/\ほいなくこそおほえ侍れぬきをくきぬをかたみとみ給へ月の出たらむ夜は見をこせ給へ見すて奉りてまかるそらよりもおちぬへき心ちするとかきをく天人のなかにもたせたるはこあり天の羽衣いれりまた有はふしの薬入りひとりの天人いふつほなる御薬たてまつれきたなき所の物きこしめしたれは御心ちあしからむ物そとてもてよりたれは聊なめ給てすこしかたみとてぬき置給ふきぬにつゝまんとすれは有天人つゝませすみそをとり出てきせんとすそのときにかくや姫しはしまてと云きぬきせつる人は心ことになるなりと云物一こといひをくへきこと有けりといひてふみかく天人をそしと心もとなかり給ふかくや姫ものしらぬことなの給そとていみしくしつかにおほやけに御文たてまつり給ふあはてぬさま也かくあまたの人を給てとゝめさせ給へとゆるさぬむかひまふて来てとり出まかりぬれはくちおしくかなしき事宮つかへつかふまつらすなりぬるもかくわつらはしきみにて侍れは心えすおほしめされつらめとも心つよく承はらすなりにしことなめけなるものにおほしめし留られぬるなむ心にとまり侍りぬとて

今はとて天のはころもきるおりそ君をあはれとおもひいてける

とてつほのくすりそへてとうのちうしやうをよひよせてたてまつらす中將に天人とりてつたふ中將とりつれはふと天の羽衣打きせ奉りつれは翁をいとをしかなしとおほしつることもうせぬ此きぬきつる人は物おもひなくなりにけれは車に乗て百人はかり天人くしてのほりぬそのゝち翁女ちのなみたをなかしてまとひけれとかひなしあの書をきし文をよみてきかせけれと何せむにか命もおしからむたかためにかなに事もようもなしとて薬もくはすやかておきもあからすやみふせり中將人々引くして帰りまいりてかくや姫をえたゝかひとゝめすなりぬることをこま/\とそうす薬のつほに御ふみそへてまいらすひろけて御覧していといたくあはれからせたまひてものもきこしめさす御あそひなともなかりけり大しむかんたちめをめしていつれの山かてんにちかきととはせ給ふにある人そうすするかの国にあるなるやまなん此みやこもちかく天もちかくはむへるとそうすこれをきかせ給ひて

逢事もなみたにうかふわか身にはしなぬくすりもなにゝかはせむ

かのたてまつるふしの薬にまたつほくして御つかひにたまはすちよくしには月のいはかさといふ人をめしてするかの国にあなる山のいたゝきにもてつくへきよしおほせ給ふ岑にてすへきやうをしへさせ給ふ御ふみふしのくすりのつほならへて火をつけてもやすへきよしおほせ給ふそのよしうけたまはりてつはものともあまたくして山へのほりけるよりなむそのやまをふしのやまとなつけけるそのけふりいまた雲の中へたちのほるとそいひつたへける

右竹取翁物語以織部正乗尹主蔵本書写以古写三本及活

版本并流布印本校合畢