蝉丸 (Semimaru) | ||
逢坂山の盲人蝉丸は琵琶の秘曲を傳へたれば。いかで之を聽かばやと思ひ。三年の間。 夜々しのびしのびに通ひて。つひに其志を遂げたる事。今昔物語などに見ゆ。之を翻案 して。逆髪といふ狂女の姉宮に訪はれたる事の。あはれなる物語に作りかへたるなるべ し。彼物語には。蝉丸を宇多天皇の皇子。式部卿敦實親王の宮の雑色とし。平家物語源 平盛衰記などには延喜の皇子とせり。曰く。「ここは昔し。延喜第四の皇子蝉丸の。關 の嵐に心を澄まし。琵琶を弾き給ひしに。博雅の三位といひし人。風の吹く日も吹かぬ 日も。雨の降る夜も降らぬ夜も。三年が間歩みを運び。立ち聞きて。彼三曲を傳へけ ん。藁屋の床の古へも。思ひやられてあはれなり。」と。
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