序段 (Tsurezuregusa) | ||
第七十五段
つれ%\わぶる人は、いかなる心ならん。まぎるゝかたなく、たゞひとりあるのみこ そよけれ。
世にしたがへば、心、外の塵にうばはれて惑ひやすく、人に交れば、言葉よその聞き に隨ひて、さながら心にあらず。人に戲れ、物に爭ひ、一度は恨み、一度は喜ぶ。其 の事定まれる事なし。分別みだりに起りて、得失やむ時なし。惑の上に醉へり。醉の 中に夢をなす。走りていそがはしく、ほれて忘れたる事、人皆かくの如し。
いまだ誠の道を知らずとも、縁をはなれて身を閑かにし、ことにあづからずして心を やすくせんこそ、暫く樂しぶともいひつべけれ。「生活、人事、伎能、學問等の諸縁 をやめよ」とこそ、摩訶止觀にも侍れ。
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