University of Virginia Library

第五十四段

御室に、いみじき兒のありけるを、いかでさそひ出して遊ばんとたくむ法師ども有り て、能あるあそび法師どもなどかたらひて、風流の破子やうのもの、ねんごろにいと なみいでて、箱風情の物にしたゝめ入れて、雙の岡の便よき所に埋みおきて、紅葉散 らしかけなど、思ひよらぬさまにして、御所へ參りて、兒をそゝのかし出でにけり。 うれしと思ひて、こゝかしこ遊びめぐりて、ありつる苔のむしろに竝みゐて、「いた うこそ困じにたれ。あはれ紅葉をたかん人もがな。驗あらん僧達祈り試みられよ」な どいひしろひて、埋みつる木のもとにむきて數珠おしすり、印こと%\しく結び出で などして、いらなくふるまひて、木の葉をかきのけたれど、つや/\物も見えず。所 の違ひたるにやとて、掘らぬ處もなく山をあされども、なかりけり。埋みけるを人の 見おきて、御所へ參りたる間に、盗めるなりけり。法師ども言の葉なくて、聞きにく くいさかひ、腹立ちて歸りにけり。

あまりに興あらんとする事は、必ずあいなきものなり。