University of Virginia Library

第二百七段

龜山殿建てられんとて、地をひかれけるに、大きなる蛇、數も知らずこり集りたる塚 ありけり。此の所の神なりといひて、事の由を申しければ、いかゞあるべきと勅問あ りけるに、「古くより此の地を占めたる物ならば、さうなく掘り捨てられ難し」と、 皆人申されけるに、此の大臣一人、「王土にをらん蟲、皇居を建てられんに、何の祟 をか爲すべき。鬼神はよこしまなし。とがむべからず。たゞ皆掘り捨つべし」と申さ れたりければ、塚をくづして、蛇をば大井河に流してけり。さらに祟なかりけり。