University of Virginia Library

第百九十五段

或人久我繩手を通りけるに、小袖に大口著たる人、木造の地藏を田の中の水にお しひたして、ねんごろに洗ひけり。心得がたく見るほどに、狩衣の男二三人出で來て、 「こゝにおはしましけり」とて、此の人を具して去にけり。久我内大臣殿にてぞおは しける。

尋常におはしましける時は、神妙にやん事なき人にておはしけり。