University of Virginia Library

第百五十一段

或人の云はく、年五十になるまで上手に至らざらん藝をば捨つべきなり。勵み習ふべ き行末もなし。老人の事をば、人もえ笑はず。衆に交りたるも、あいなく見苦し。大 方萬のしわざは止めて、暇あるこそ、めやすくあらまほしけれ。世俗の事に携はりて 生涯を暮すは、下愚の人なり。ゆかしく覺えん事は、學び聞くとも、其の趣を知りな ば、覺束なからずしてやむべし。もとより望むことなくして止まんは、第一の事なり。