University of Virginia Library

第百二十五段

人におくれて、四十九日の佛事に、或聖を請じ侍りしに、説法いみじくして、皆人涙 をながしけり。導師歸りて後、聽聞の人ども、「いつよりも、ことに今日はたふとく 覺え侍りつる」と感じあへりし返事に、或者の云はく、「何とも候へ、あれほど唐の 狗に似候ひなんうへは」といひたりしに、あはれもさめてをかしかりけり。さる導師 のほめやうやはあるべき。

又、「人に酒すゝむるとて、己まづたべて、人に強ひ奉らんとするは、劔にて人を斬 らんとするに似たる事なり。二方に、刀つきたるものなれば、もたぐる時、先づ我が 頸を斬る故に、人をばえ斬らぬなり。己まづ醉ひてふしなば、人はよもめさじ」と申 しき。劔にて斬り試みたりけるにや、いとをかしかりき。