University of Virginia Library

第百二十三段

無益のことをなして時を移すを、おろかなる人とも、僻事する人とも云ふべし。國の ため君のために、止むことを得ずしてなすべき事多し。其の餘りの暇幾ばくならず。 思ふべし、人の身に止むことをえずして營む所、第一に食ふ物、第二に著る物、第三 に居る所なり。人間の大事、此の三つには過ぎず。饑ゑず、寒からず、風雨におかさ れずして、閑かに過ぐすを樂とす。但し人皆病あり。病におかされぬれば、其の愁忍 びがたし。醫療を忘るべからず。藥を加へて、四つの事、求め得ざるを貧しとす。此 の四つ缺けざるを富めりとす。此の四つの外を求め營むを驕とす。四つの事、儉約な らば、誰の人か足らずとせん。