University of Virginia Library

第百二十二段

人の才能は、文あきらかにして、聖の教を知れるを第一とす。次には手書く事、むね とする事はなくとも、是を習ふべし。學問に便あらんためなり。次に、醫術を習ふべ し。身を養ひ、人を助け、忠孝のつとめも、醫にあらずは有るべからず。次に弓射、 馬に乘る事、六藝に出せり。必ず是をうかがふべし。文武醫の道、誠に缺けてはある べからず。これを學ばんをば、徒らなる人といふべからず。次に食は人の天なり。よ く味を調へ知れる人、大きなる徳とすべし。次に細工、萬に要おほし。

此の外の事ども、多能は君子のはづる所なり。詩歌に巧に、絲竹に妙なるは幽玄 の道、君臣これを重くすといへども、今の世には、これをもちて世を治むる事、漸く おろかなるに似たり。金はすぐれたれども、鐵の益多きにしかざるが如し。